優秀作品(6)

熊本大学・遺伝子実験施設・荒木正健
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2002年 3月24日更新


『死の病原体プリオン』(薬学部)


 牛スポンジ状脳症(BSE)には、クロイツフェルト=ヤコブ病(CJD)の他にも類似する病気として、クールー(ヒト)、スクレイピー(羊)、感染症ミンク脳症(TME)(ミンク)というものがあります。これらの病気では感染すると長い潜伏期間ののち、スポンジ状病変の孔ができたことから(脳の細胞死による)、よろめいた動きになったり、痴呆症になったりといった症状があらわれ、いずれも死に到ります。これらの病気は、まれに自然発生し、また感染することで広まっています。明らかにこれまでの種々の病気とは違う特徴をもっており、感染増殖するにもかかわらず、核酸を分解する処理をしても増え続けるといった矛盾をはらみ、多くの研究者が、これらの病気の解明にたずさわってきています。しかし、この矛盾は病気の経過以前に。感染動物の基本的食生活を人間がいじくった時点ですでにあらわれていることに気づかされます。もともと牛は草食動物であるにもかかわらず、肉牛のタンパク質強化や、乳牛のタンパク質補給のために、人間が死んだ牛の肉、臓器、骨などを加工したものを摂取させるつまり共食いさせるのです。クールーの場合も、普通人間が人間を食べることはないのに、ニューギニアのある地方に住む彼らの場合、死んだ人間の肉、脳から名臓器に到るまで女性と子供たちが主に食し、クールーもその女性と子供たちを中心に発病していました。食人行為とクールーの相関関係が明らかになり、食人行為がなくなったことでクールーは減少することができましたが、BSEの場合、人間社会の利害が大きく関わっていたために、そううまくはいきませんでした。肉骨粉を作ることで、死んだ牛の処理から、肉牛、乳牛へのタンパク源供給までのサイクルが畜産業界の中でできあがっていたために、「汚染されている可能性のある肉骨粉や、感染または感染している可能性のある牛の群れを殺して処理する」ということが明らかに必要であるにもかかわらず、できあがっていたもとのサイクルに含まれる企業の損害があまりにも大きく、きちんと実行されることができませんでした。政府やこれらの業界には、医学など、各々の専門家があまり含まれていないために、しばしば何が本当に重要なのか見落としがちなところがないとも言えないので、彼らの情報をいつもうのみにすることは避けるべきだと思いました。また、あまり知られてないように思いますが、ペットの猫や動物園の動物たちのスポンジ状脳症感染事件など、私達の身近なところへ迫っています。特に恐ろしいと思ったことは、豚や鶏などもスポンジ状脳症に感染する動物で、ただ出荷がはやいので発症が見られないだけで、感染している可能性があるという点や、CJDも目や臓器の移植、輸血やホルモン治療などで感染することもあるという点でした。病原体が高温殺菌やホルマリンなどの殺菌に強いため、ますます感染から身を守ることが大変なものとなります。ここで、感染に関わっているとみられるプリオンは、各々の種が脳にもっている正常プリオンが、異常プリオンに変化することで発症につながるとして病原体とみられているわけですが、実験の結果、変化させる正常プリオンがなければ異常プリオンも作られないため、感染しないということが明らかになっていました。また正常プリオンは、それを破壊した動物実験において特に何の変化もあらわれなかったため、その働きの重要性とBSEの危険性から考えるならば、BSE予防のために正常プリオンを特異的に分解してしまうものをワクチンのようにして摂取させることはできないのだろうかと思いました。CJDが他の霊長類に感染したり、BSEが他の動物に感染したりするのにもかかわらず、羊のスクレイピーだけは他の種に感染した例がなかったことが不思議でしたが、このことも感染ストップに応用できるのではないかと思いました。この本を通して、様々な実験、研究がなされていることを知ることができましたが、それとともに、とても多くの動物達が犠牲になっていることを知りました。動物実験はやはり必要不可欠なところがあるので、私達はそこから得られた貴重なデータをもとに結果を残していく必要があると思いました。
 「死の病原体プリオン」私はこの本を読んで新しいことをたくさん知り、また考えさせられることが多く、とても興味深かったです。そして全体として感じたことは、自然の摂理、そして食べ物って大事だなということでした。


*****2001年度・優秀作品*****
冬休みの課題レポート・2001
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