2002年度 レポート第2回 回答集

熊本大学・遺伝子実験施設
熊本市本荘2ー2ー1
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2002年10月30日

2002年度 生命科学G レポ−ト第2回(2002年10月16日実施)回答集

[ テーマ ]『被ばく治療83日間の記録〜東海村臨界事故〜』を見て考えたこと

[ 回答 ](17人)

・私はこのビデオを見て、今まで以上に放射線の恐ろしさを感じました。原子力発電について日本でも考え直す必要があるのではないかと思います。また、私達が恐れる癌は、染色体に異常が起きることで遺伝子の配列がおかしくなる、突然変異がもたらすものだと聞いたことがあります。目に見えない小さい遺伝子が、私達の体を管理するとても重要な、大きな役割をはたしているのだと改めて実感しました。(法学部)

・東海村の臨界事故については当時ニュースで何回も報道されていたので存在は知っていたけど、実際に近くで放射能をあびた大内さんの症状についてはよく知らなかったので、今回ビデオを見て想像以上のひどさに驚いた。でも逆に、あれほど直に放射能をあびていても、白血球を移植したりと、まだ打つ手があるほど現代医学は進歩しているんだなあとも思った。とはいえ、大内さんの細胞の中で息づいたはずの染色体が変異してしまっていたように、医学の進歩にもきっと限界があるんだと思う。原子力に限らず科学の発展は良い面もたくさんあるけど、発展することでこの事故のように人間の対処能力をこえた事態がまたおこってしまうのではないかと思うととても恐ろしい。(法学部)

・遺伝子の授業だが、私は放射線の怖さをまず感じた。治りようのない病気、そんな怖いものにかかってしまう危険があるものを人が簡単に行って良いのだろうか。まして(授業でも言われていたが)民間に責任など取れるのだろうか。少なくとも現段階では、私はどちらも否定する。  まず前者だが、治らない病気になる危険があるのなら、機械で行うべきだろう。勿論それは高性能でなくてはならないし、それの検査はこまめにやる必要がある。しかしながら、先程「現段階で」と述べたように、治る病気になるなら人が行っても良いと考える。つまり、遺伝子治療技術がそこまで進歩したならばということだ。また、事故が起こった時のためにもその技術が必要であることを考えるに、医療技術の進歩は無くてはならないといえる。  次に後者だが、現在、ヒビなどをかくしたり、使用期限のきれたものを使っていたりと何かと不祥事が出てくることを見ても、民間では危ないといえる。民間が利潤を追うのは当たり前のことで、安全性がその犠牲になる可能性が高いのである。しかしながら、国の政策では原子発電所を増やさなくてはならない。それならば国民の安全性確保のために国営にした方が良いといえるだろう。(勿論、国が安全性を保障できるわけではないが。)  遺伝子すらも壊す放射線。あまりの怖さに遺伝子をというより、原子力発電所のあり方について考え てしまったが、何にしても、遺伝子の研究の必要性は高いと考える。(法学部)

・被爆と闘った大内さんはもちろんのこと、治療に携わった病院のスタッフの苦悩がこれほどまでとは思いませんでした。しかし何よりも憤りを覚えたのは、原発側の管理のずさんさです。事故当時も様々なメディアで散々非難を浴びていましたが、生命の設計図であるDNAを破壊してしまうほど危険な物質を扱うのにもかかわらず、実際に作業を行う大内さんたちにはその詳細を伝えないなど、考えられないことです。もっときちんとした管理がされていれば、尊い命が奪われることはなかったのではないかと思えてなりません。(法学部)

・僕がこないだのビデオで感じたことは、もちろん、DNAの大切さも感じましたが、それ以上に"死"をどうとらえるかという事を一番考えさせられました。被害者本人は死期を感じながらも妻の呼びかけに体で答えたというし、医者や看護士の人達も自問自問しながらも最後まで頑張ってました。そして家族は、最後の最後まで諦めずに鶴を折ってました。。。 そんな時、僕はビデオを見ながら延命治療に少し疑問がわきました。治りもしない患者をただ苦しませるだけじゃないのか!? 答えはまだ出ません、、、。(理学部)

・この東海村の臨界事故のことはビデオを見て知っていたけれど、被曝された方がこんなにも苦しんで生きていたなんて知らなかった。放射線はとても恐ろしいものだと思った。外見はそれほどひどくないのに、染色体が破壊されて、体の中はどんどん壊されていく。もし心臓の筋肉細胞も傷つけられていたら、大内さんは83日間を過ごせませんでした。放射線の扱い方を間違うと、とても大変な事故につながる。でも、放射線によって、人の命を助けることもでき、エネルギーを作り出すこともできる。良い点もたくさんあるのだから、正しく利用して、放射線の悪い点をなくせたらいいなぁと思った。(理学部)

・いろいろと知らなかったことを知ることができたビデオでした。まず、被爆の被害がこれほどまでにすごいものだとは思っていませんでした。現代医学の粋を尽くしてもどうにもならなかったのだから、第二次世界大戦で原爆が投下されたときの被害は計り知れません。次に、DNAがあんなにももろいものだったのだということも知らないことでした。このビデオでは出てこなかった遺伝子治療というものがあれば、結果は違っていたかもしれません。しかし、このビデオを見て、一番考えさせられたことは、現代社会は原子力に頼らなければならないのかということです。(薬学部)

・放射能は、以前から危険なものとは認識していたが、一瞬で生物の遺伝子細胞を破壊するほどの力があるとは考えたこともなかった。このビデオを見て、確かにそのような物理的生物的事実を知ったわけだが、そうはいえども、あまりにも非現実的すぎて想像できない。また、最新医療技術を導入しても、遺伝子細胞が破壊され、新しい細胞が作られないようになってからわずか83日間しか生きることができないという、細胞破壊の恐ろしさを痛感した。これは、被ばくによるものだけではなく、何らかの突然変異によるものも考えられなくもない気がするが、やはり現段階での破壊された細胞の復活は難しいのだろうか。このように、放射能の威力を考えてゆけば、今日の原発の安全管理のずさんさには腹を立てずにはいられない。(理学部)

・東海村臨界事故のビデオを見てまず思ったことは、やはり人間を一瞬にして内部から死に至らしめるほどの染色体の重要性でした。見た目にはわからないほどの初期の外傷とうらはらに、わずか83日間で命を奪うというこの事故はとても恐ろしいものだと思いました。わたしがあのビデオの中で印象的だったのは最後の被害者の奥さんの手紙でした。「原子力に関わる社会では…」と言っていたように私たちの社会、特に資源の少ない日本にとっては原子力がいくら危険で恐ろしいと言っても、その力にいくらかは頼らなくてはならないのではないかと思います。だったら、絶対に事故の起こらないような機能でなければいけないと思うし、もし事故が起こったとしても命を落とさなくてすむように遺伝子に関わる医療が進んでほしいと思いました。(薬学部)

・被曝し、体中の染色体が破壊された患者さんには、有効な治療法はないのでしょうか?そうだとしたら、治しようがない障害の危険が常に付きまとうという、リスクの高い技術を扱う人間は、とても愚かな生物だと感じました。最近では国家や人類全体の利益のために、原子力や遺伝子組み替え技術など、安全 性の確かめられていない技術が公然と使われています。しかし今のレベルでは、人間は技術を利用しているというより、技術に振り回されているといったほうがいいようです。病状が悪化していく患者さんと、希望を失って行く医療関係者を見て、技術レベルの向上より、まず安全性を確立させることのほうが重要ではないか。そう感じました。(薬学部)

・あのビデオはいろんなことを考えさせられるビデオだった。  やはり衝撃的だったのは、あんなにも簡単にDNAが破壊され、修復不可能になってしまったことだ!このビデオを見るまで、DNAは構造もわかってきてるし、近代医学も発展してきてるからDNAの修復・治療はできるものだと思っていた。それがあんな光のような放射線で完全に破壊されてしまうなんて・・・ なんだか人間のはかなさを感じるとともに人間はなんてものを作り出してしまったんだろうと思う。確かに原子力発電に放射能は付き物だと思う。しかし、あんなにも単純にろうとを手で持ってそこにウランを流し込むなんて・・・ありえない! 一般人でもそういうのが危険だというのはわかっていると思う。だから、そういう所で働く人ならばなおさら危険がわかっていると思うにもかかわらず・・・。被害者が出るまで何の対策もしないなんて愚かすぎる。もう二度と人間が同じことを繰り返さないことを祈りたいと思う。  ちなみに放射線の爆弾(中性子爆弾)は漫画で見たことがあったが、本当にそんなものが現実に存在すると考えると怖いです。どうしてもっと有効活用ができないのでしょうか? 人間ってつくづく悲しい生き物だと思いました。(理学部)

・ビデオを見てすぐはただただ、“怖い”という気持ちでいっぱいで、こういう危険から自分を遠ざけることばかりを考えていた。けれどビデオを見てしばらくたった今ならビデオの内容について少しは冷静になって考えられるんじゃないかと思う。思うのは、遺伝子は私達にとってかけがえのないものだということ。正常な遺伝子を失った私達のからだはあまりにも無力で、今まで当たり前だと思っていたことがどれほど遺伝子あってのことだったか・・・。これから遺伝子治療というものが注目されていくと思うが、それが必要になるような、今回のようなケースが二度と起こらないことを望んでやまない。それにしても人間はなんて恐ろしい道具をつくってしまったのだろう。しかもそれを利用することをやめられないなんて。(教育学部)

・医療がどこまで発展すれば人間は満足するのだろう。事故や災害に巻き込まれてけがをしたり、むずかしい病気にかかったりしたとき、私たちはあらゆる手段を使って生き延びようとする。誰でもそうだ。死を全く恐れない人もいるけれど、その人だって自分の死は恐くなくても、誰か愛する者が亡くなるのは恐いはずだ。今治らないとされているけがや病気も、いつかは何てこともないものになるかもしれない。どんな病気にかかっても絶対に治る時代がくるかもしれない。だけど、それでどうなるのだろう。きっと、人間はお互いを大切に思わなくなる。お互いをいたわらなくなる。一人一人がたったひとつしか持っていないない命を、重く考えなくなる。世界は今以上に悲惨なものになる。それよりも、様々な事件・事故が起こらない安全な国・社会を築くことの方が「平和」だし、私はとても悲観的な考えなのかもしれないけれど、そちらを望む。(教育学部)

・東海村の事件に関して今まで知っていたのとは違う側面からみた事件の被害を知る事ができて良かったと思います。実際にDNAが破壊されると細胞が増殖しなくなり、現在の医療では死を待つのみという悲しい結果になっています。個人的にはDNAが解析されたとしても医療で使用できるまでには多大な時間と法的な設備が必要なので、現在行うべきは放射線被爆患者を出さないための対策というものが一番重要なのではないかと思いました。(工学部)

・私は生物科学科なので遺伝子の重要さは或程度は分かっているつもりだったから、「体の遺伝子が壊された」と、聴いた時「これはもう助からない」と、思いました。細胞分裂にDNAが必要だから新しい細胞がもう出来ない。。。絶望的です。でも、医師と看護婦の方々、家族の「回復させたい!」と、言う気持ちが伝わって来て、もしかして治るかもとか思いました。みんな「もしかしたら。。。」と、言う気持ちを飲み込みながら頑張ったのでしょう、なぜこんな事になったのか? と、いう疑問が湧きHPでこの事故を調べました。 詳細を知ってびっくりしました。。。 これは事故というべきではなく、殺人と言うべきでしょう。 放射性物質をあんなふうに扱ったらどうなるか上の人は分かっていたでしょうに! 講義を受けている人達から「原子力発電所はいらない」とか「しょせん人のすることだから」と、いう意見が上がったのは当然の事と言えるでしょう。 しかし、それは極論すぎると思います。新しい技術が生まれない限り、私達は原子炉はなくてはならない物です。 だから、細心の注意を払いながらやって行くしかないんじゃないでしょうか?(理学部)

・ビデオの内容は、私にとってとても衝撃的な内容でした。今まで、放射線が危険であることは分かっていましたが、詳しいことまではよく知りませんでした。放射線をあびた直後は、看護婦さんが言っていたように回復するのではないか、と思いましたが、DNAが破壊されてしまうと、最善の手を尽くしても回復しない。日に日に悪化していき、生きているけれど機械をつけまわされている様子を見ていたご家続はつらかったと思います。また、人はどこまで生きているといえるのか難しいと思いました。機械に支えられてでも生きていくのが本当に本人にとっていいことなのか?と思いました。また、このような事故が起こったのは作業状態に問題があると思います。人が直接ろうとのようなもので液をそそぐのは、このような事故が起こった時、対処のしようがなく危険な事であるにも関わらず、人間が人間にやらせるというのは無責任だと思います。これから先、放射線を浴びる人がいなくなる事を祈ります。(教育学部)

・人間の身体にとって染色体がこんなにも重要な役割をしていることに本当に驚いた。そして原子の破壊力の強さに恐怖の連続だった。体がどんどんひどい状態になっていっても看病を続けた看護婦や家族の人達の気持ちを考えると辛い。こんな事故が起こるような発電所の管理不足を悔やんでも悔やみきれない。こんな危険なものを扱っているのにどうしてもっと徹底的な管理をしていなかったのだろうか。こんな事を二度と起こしてもらってはならない。(教育学部)

===== レポートについてのコメント (by ARAKI) =====
・「原子力発電」の必要性や運営方針など、国民ひとりひとりが考えなければならないと思います。「癌」と放射線や紫外線の関係も重要です。

・「遺伝子細胞」という言葉はありません。「遺伝子」と「細胞」は、別物です。だまされたと思って、参考文献に挙げている「あなたの中のDNA」中村桂子著、ハヤカワ文庫(¥485)を買って、読んでみて下さい。

・講義中には言いませんでしたが、おそらく日本政府が全力を挙げて大内さんを死なせない、あるいは出来るだけ長生きさせるという方針で、医師団に圧力をかけていた(援助した)と推測します。もちろん私の個人的な推測で、事実は違うかも知れません。ただ、私の個人的な意見としては、最初に心臓が止まった時点で、そのまま眠らせた方が(本人にとっては)良かったと思っています。しかしながら、結果的にこの治療記録が残ったことで、私たちは貴重な体験をすることが出来ました。遺族が言っていたように、大内さんの死は無駄ではなかったと思います。

・まだ実用レベルではありませんが、遺伝子治療が可能なのは、ひとつの(あるいは少数の)遺伝子の異常です。大内さんのようにゲノム全体がダメージを受けた場合、遺伝子治療は無力です。将来、可能性があるとすれば、心筋の細胞の様に正常な細胞を探して細胞核を取り出し、核を取り除いた卵細胞に移植して試験管内で培養し、そこからES細胞を樹立し、神経細胞や肝細胞、血液細胞、皮膚細胞、など様々な細胞に分化させてから、患者さんの身体に戻すという方法ではないかと思います。しかし、そこまでして(細胞を入替えて)肉体を維持しても、本人の意識(記憶・自我など)を維持できるかどうか疑問です。

・確かに様々な事件・事故が起こらない安全な国・社会を築くことは重要です。ただし、事件・事故が起こるかもしれないということを想定して、その対策を考える事もやはり重要だと思います。
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