2002年度 レポート第4回 回答集

熊本大学・遺伝子実験施設
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2003年 1月 5日

2002年度 生命科学G レポ−ト第4回(2002年10月30日実施)回答集

[ テーマ ]PCR成功のカギとなった耐熱性DNAポリメラーゼについて

[ 回答 ](24人)

・PCR法を開発してから、この技術はいろいろなところで使用されている。でも、PCR成功は耐熱性DNAポリメラーゼが重要な役割を担っている。この耐熱性DNAポリメラーゼは、高温の温泉などに生息する細菌の中に七二度が至適温度のDNAポリメラーゼをもっている種類がいて、この細菌のDNAポリメラーゼを用いることにより、温度の上下(九五度→五五度→七二度→九五度)のサイクルを繰り返すだけでDNA合成の連鎖反応が起こり、試験管内で短時間にヒトのDNAを増やすことが可能となったと思う。(理学部)

・かなり画期的な発見(開発?)だと思う。人のものは高温で壊れてしまうというマイナス点を補い、しかも72度が最適とは何て素晴らしい材料だろう。実験は確かに面倒なこともしなくてはいけないが、それにも限度がある。何度も繰り返していたら成果を見つけるのに時間がかかりすぎる。それが試験管で簡単にできるようになるのなら、今までできなかった量の成果を同じ時間でだせて能率がいい。私はこの技術を利用して、色々な種類の遺伝子治療を数多く、かつ早く見つけて欲しいと思う。(法学部)

・普通の酵素だと失活してしまうような高温を最適温度としてはたらく、耐熱性の酵素があるということを初めて知りました。酵素の欠点をうまく補っていて、画期的だと思います。PCRの問題点にあげられている、「酵素の失活が結果に大きな影響を与える」という事についての説明を聞いて、PCRを利用するうえで酵素の失活を防ぐことは大きな意味をもつのだということが解りました。酵素のはたらきに影響を与えてしまう他の要因についても、何か解決策がないのだろうかと思いました。(法学部)

・この耐熱性DNAポリメラーゼが詳しくどんなものなのか前回の授業で理解しきれなかったため 簡単にでもいいので教えてもらえれば幸いです!(理学部)

・はじめ授業で聞いたとき、耐熱性DNAポリメラーゼがそんなに重要で複雑な意味を持つとは思いませんでした。PCRの理論はあってもポリメラーゼが壊れやすいために実践できないということは科学者にとってはとても虚しいことだったのではないかと思います。PCRの場合は現在では耐熱性ポリメラーゼが発見されていますが、ほかの分野でも理論があってもそれが活かされないということが現実にあるのではないかと思うと少し歯痒いです。それと同時にヒトがDNAの複製によって遺伝情報を維持するのと同じようなことが試験管の中で簡単に行うことができるようになった現実が少し恐ろしいというような気もします。(薬学部)

・最先端の技術であるPCRの実用化に重要な役割を果たしたのが、苛酷な環境で生きているバクテリアであるということが面白く感じられました。私の中の「酵素は熱に弱く扱いにくい」という安直なイメージも変化し、この酵素をもつバクテリアはどんなものだろうかと興味も湧いています。インターネットで少し調べてみたのですが分かりません。よろしければ教えてください。(法学部)

・PCRの実用化により、血液等の試料からの犯人特定や正確な親子鑑定のスピード化・ゲノム情報解読など、可能になった技術は高度になり、PCR成功の功績は、極めて重大である。以前の遺伝子工学は、細胞培養の問題があり、生き物を扱わなければならなく、特殊な設備のある実験室が必要であったが、PCRは、それを試験管内レベルにしたのである。そのようなPCR成功のカギとなったものは「耐熱性DNAポリメラーゼ」で、PCRの原理のサイクル中で相補鎖を合成させ、結果的に目的の遺伝子領域のみを増幅させる、というものである。この耐熱性DNAポリメラーゼの役割によりPCRが成立し、犯人特定などの高度な技術ができるのだから、耐熱性DNAポリメラーゼ開発の功績は、言葉では言い表せないほど感心ものだ(知識不足のため、これだけしか言えない)。(理学部)

・PCR技術実用化の大きな鍵となた耐熱性ポリメラーゼが遺伝子組換えのような技術からではなくて古細菌といった新しい細菌の発見によって確立されたというのが面白かった。ある事柄を考えるにあたってはいろいろな知識と多方面からのアプローチが必要だと思った。(工学部)

・高校の生物で、酵素は高温では熱変性してしまいそのはたらきを失ってしまうというふうに習ったので、はじめ説明を聞いたときは変だなぁと思った。けれど、火山などで生活する生物も酵素を持っていてその酵素は当然熱に強いはずだから耐熱性ということになるということを知り、納得できた。その耐熱性DNAポリメラーゼあってのPCRだということも。それにしてもPCRという機械はすごいと思う。機械の性能はもちろんだけれどそれを作り出した、というかそうやってDNAを増やすことを思いついた人たちに対してほんとうにそう思う。私はせめてPCRの性能を理解できるようになりたい。(教育学部)

・まずDNAポリメラーゼというのはDNA複製に必要な酵素の一種で、一本鎖DNAに付いたプライマーから、鋳型となるDNAに相補的な新しいDNAを伸ばしていく働きを持つ。これは全ての生物が持っている。でもPCRは本来二本鎖であるDNAを一本鎖にする際に94℃にしたり、なにかと(生物にとっては)高温下で行われるので、普通のDNAポリメラーゼだとたんぱく質が変異してしまう。そこで耐熱性DNAポリメラーゼ。コイツは高熱菌のDNAポリメラーゼで、もともと高温下で働いているから94℃でもへっちゃらだ。つまりPCRで使ってもまだまだいける。酵素だから何度でもいける。最初にある程度いれとけば、後からいれる必要はナシ。要するに超ラク。超ベンリ。DNA複製が思いのままに!このPCR用耐熱性DNAポリメラーゼ、今ならお試しキャンペーンで一箱30%offの20000円でご奉仕させて頂きます!!‥‥なんてウェブサイトまであるからおもしろい。とりあえず、それだけ耐熱性DNAポリメラーゼはスゴイってことで。(理学部)

・PCRの技術については、授業で説明のあった分はわかりました。ちょうど生化学で習ったようなこともあり、そのときはよく理解していなかったので、今回の講義はよい復習になりました。PCRの活用法については、あまり身近なことでなかったと思われて、ピンときませんでしたが、食中毒などの対策が早くできるのは有益なことだと思いました。(薬学部)

・耐熱性ポリメラ−ゼは94℃の条件下でも力を発揮する。一般に60℃以上になると酵素タンパク質が変性し、酵素が失活することを考えると、94℃でも反応できるというのは驚きだ。しかもその後55℃、74℃と何度も変化する温度に対応するのだからよほど強い酵素なのだろうと思った。新しいものがつくられたり発見されたりすると、技術がさらに進歩すると同時に様々な問題が出てくる。PCRも決して例外ではない。これから先、非人道的なものの手助けとならないでほしいと思う。(教育学部)

・1993年にMullisらがPCR法をScience誌に報告しノーベル賞を貰った。しかし、1993年以前にも、特定のDNA配列を増幅させることは可能だったのになぜ、Mullisらが受賞できたのかというところが今回のレポートの回答になると思う。DNAの増幅を行う際にはDNAの二重らせんが解けて一本鎖に分かれる必要があるが、二重らせんは水素結合によりがっちり固定されているので温度を上げる必要があり、増幅に使われる酵素がその温度では熱変性を起こしてしまうため熱変性を起こすたびに酵素を追加しなくてはならなかったので増幅速度が著しく減少する。それを、Thermusaquaticus由来の耐熱性ポリメラーゼ(Tapポリメラーゼ)を使うことにより実用レベルに高めたことでノーベル賞を受賞したのだ。それにより、以前ならDNA増幅はハイブリダイゼーションによってしか確認できなかったが、Tapポリメラーゼを使うことによりエチジウムブロマイド染色で直接確かめることも可能になった。
 余談ですけど、今回調べてみてLongPCR法というのを知ってすごいと思った。PCR法だと増幅できる核酸の鎖長はせいぜい5Kbが限界であった。これは、耐熱性ポリメラーゼの読み違いと増幅させる核酸の長さには限界があることによるが、ploof-reading(校正)機能をもつ酵素を加えることで読み違いを少なくし増幅を続けられる! こりゃすごい! 「増幅させる核酸の長さには限界がある」という問題は本を読んでもよくわからなかったんで、次の課題ということでとりあえず今日はここまでにします。また、遅れちゃった。(理学部)

・はっきりいって私はDNAポリメラーゼについてよく分からない。しかしDNAポリメラーゼが存在するおかげでPCRの実用が可能にになり、PCRの実用化によりさまざまな技術が可能になったということはポリメラーゼはすごいものだ。遺伝子レベルの難しい問題がPCRのおかげで実現可能になった。まさに夢の技術である。これからPCR技術の可能性がどんどん広がっていくことを期待したい。 (教育学部)

・私は耐熱性DNAポリメラーゼという言葉を初めて知りました。しかし、耐熱性DNAポリメラーゼがDNAを合成するというサイクルを何度も繰り返すことにより、目的とする遺伝子領域だけを増幅させる事ができるなんて、なんと画期的な酵素なんだと思いました。PCRの応用は様々な分野で行なわれていて、実用化により可能になった技術もたくさんあり私達の生活の中で役に立ってきていると知り、この耐熱性DNAポリメラーゼの果たす役割は大きいと思いました。(教育学部)

・今までDNAを増やすためには、大腸菌ばかりを用いているものと思っていた。そのた め今回PCRという技術があると知って率直に凄いという感想を持った。たった一個の DNAさえ手に入れることができれば大量に増やすことができ、これからもいろいろな 活用の道があると思う。それを可能にする耐熱性ポリメラーゼにもまたいろいろな活 用の道があるように思う。私はまだほとんど耐熱性ポリメラーゼのことを知らないの で、一概にいいとか悪いとか、有効な活用法などを言うことは出来ないけれども、で きる限り問題を起こさず良い方向に技術が発展していってほしいものと思う。(工学部)

・耐熱性DNAポリメラーゼはPCR法に不可欠な酵素で、PCRは私たちの生活にこれから更に深く結びついていく技術だと思います。先日の拉致問題で使われたDNA鑑定もこれがあればこそできた技術でしょうし、偉大な発見だったと思います。(薬学部)

・耐熱性ポリメラーゼのおかげで、DNAの中から特定の塩基配列を選んで増幅できたり、細胞を使わずに完全に試験管内だけで行なえたりという遺伝子技術に大変大きな改革をもたらしたといえると思う。現在では遺伝子診断や、少量のヒトDNA試料から任意の遺伝子を大量に得たいときなどに使われたりとこのポリメラーゼは大きな貢献を果たしていると思う。(工学部)

・耐熱性DNAポリメラーゼについてですが、やはりこの発見は現代生物学を考える上で非常に大きなことだと思います。良く考えると20年前には考えられなかった、わずかな試料から人物を特定するといった技術が急速に進んだ背景にはPCR法があるわけで、その根底には耐熱性DNAポリメラーゼが必要だったわけなので、とにかく素晴らしい発見と思います。あと質問なんですが、体内の複製はなぜ耐熱性のポリメラーゼではないのですか? よく分かりません。(理学部)

・耐熱性になったことが成功のカギだとしたら、いままでのDNAポリメラーゼは耐熱性ではないことに大きな問題があったことになるが、自分で考えた結果、DNAの一部分をいじると熱量が発生して耐熱性でないと壊れてしまうのではないか。本当のところはどうなのか知りたい。(工学部)

・DNAポリメラーゼは、タンパク質の酵素であるから、高温では3次元構造が変形してしまい、PCRによるDNA複製が困難であった。そこで新たに発見された耐熱性DNAポリメラーゼを用いることにより、PCRが利用しやすいものとなった。これにより、PCRは普及した。[今回のレポートは、何を書いてよいのかよく分からなかったのと、熊粋祭のせいで調べられなかったのでこの様なものになりました。](工学部)

・PCRを行うには、2本鎖DNAを1本鎖DNAへと変性させなければならない。しかし、DNAを変性させるためには、90〜95℃で熱しなければならない。DNAポリメラーゼもタンパク質であるので、その過程で変性してしまう。よって耐熱性DNAポリメラーゼが開発された。変性しないDNAポリメラーゼを作るということは、PCRができるかできないかに非常に大きくかかわる問題です。開発した人、そして耐熱性DNAポリメラーゼがどういう構造、成分からできているか、非常に興味深いです。これを機に調べてみたいと思います。(薬学部)

・普通のポリメラーゼは高温で失活してしまうので熱変性のサイクルに耐えられない。しかし、高温の環境で生きているバクテリアから単離されてできている耐熱性ポリメラーゼは、最適温度が高いため熱変性のサイクルに耐えることができる。これにより、PCR法という簡便な装置への機械化が可能となり、初心者でも再現性のよい結果を得られるようになった。しかし、エキソヌクレアーゼ活性が低いので、誤ったヌクレオチドを取り込む確立が若干高い(2 X 10-4ヌクレオチド/サイクル)ことがある。現在では、エキソヌクレアーゼ活性を持つ耐熱性ポリメラーゼが開発されている。(法学部)

・ポリメラーゼとは、ヌクレオチドの重合反応を触媒する酵素である。しかし、酵素を初めとするタンパク質類は、熱による変性を起こすことが多い。今回のテーマに挙げられている酵素は「耐熱性」である。この点について疑問を持ったのでインターネットで調べてみた。「BIOLASE」という耐熱性DNAポリメラーゼの製品はThermus aquatics YT-1という細菌(耐熱性)から産生されているそうだ。酵素は3次元構造にその性質が左右されることから、現在細菌に作らせる方法をとっている事を考えれば、耐熱性酵素を生産させることは可能である。しかし、細菌を一定の種に安定させることは突然変異の可能性がある事を考えると、難しいと思われる。そのためにも、一刻も早く酵素の3次元構造をコントロールできる技術を確立させることが重要であると考えられる。(工学部)

===== レポートについてのコメント (by ARAKI) =====

・酵素を阻害する物質が含まれていると感じた場合、一般常識ではサンプルを精製します。PCRではサンプルを水で希釈します。10倍、100倍と希釈すれば、阻害物質の効果は少なくなります。そのかわりにサイクル数を増やすことによりDNAを増幅することが出来ます。

・最近流行のDNAチップにも、PCRが大きく貢献しています。患者さんひとりひとりの体質に合わせた「テーラーメイド治療」という言葉を聞いたことがありますか?

・02/10/06配付資料の5枚目及び6枚目を見て下さい。DNAポリメラーゼは、鋳型(1本鎖)に相補的なDNA鎖を合成して2本鎖にする酵素です。普通の生物が持っている酵素は、37℃で最も良く働き、高温になると変性し酵素活性がなくなります。つまり、DNAを1本鎖にするために95℃に加熱すると失活します。そこで、PCRの考え方そのものはもっと前からあったのですが、実用化されませんでした。高度好熱菌由来の耐熱性DNAポリメラーゼを利用することで、初めてPCRは現実的な技術になったのです。特殊な環境で生きている古細菌などの研究は、現在様々な分野で新しい技術の実用化に役立っています。

・「理論があってもそれが活かされない」というのは、よくある話です。そんな中で、特殊な環境で生きている古細菌などの研究は、現在様々な分野で新しい技術の実用化に役立っています。

・「高度好熱菌」で検索をかけたら、ちょっと面白いページが引っ掛かってきました。「高度好熱菌ってどんな菌ですか?」[ http://members.jcom.home.ne.jp/biology/QA/items/seibutu9.html ]このページの一番下にある「目次に戻る」ボタンを押してみて下さい。お薦めです。

・遺伝子組換え技術を用いて、様々な生理活性物質が大腸菌や酵母菌などで生産されています。耐熱性DNAポリメラーゼについても、最初は高度好熱菌を培養し、そこから精製していました。当然ながら、高度好熱菌を培養するためには特殊な装置が必要になります。しかしながら、高度好熱菌のゲノムから耐熱性DNAポリメラーゼの遺伝子を単離し、ごく普通の大腸菌に組み込んで、ごく普通の装置(環境)で培養し、増えた大腸菌からタンパクを精製することができるようになりました。
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