優秀作品(3)

熊本大学
生命資源研究・支援センター
バイオ情報分野
荒木 正健

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2003年 5月10日更新


『死の病原体プリオン』(法学部)

 この本は色々な意味で衝撃的であった。正直言って第一部の人肉食のところなどは表現が詳細なこともあり、かなり怖かった。その詳細という点もこの本の特徴である。この本の内身である研究のことも私から見ればかなり詳細に記載されていて難しく、専門書を読んでいるような気すら起こった。ただし、専門書と違って研究の過程を追っていくし、研究者のことにも触れるので、比較的読みやすかった。今まで読んだことのないような本で本当に驚いた。
 さて、内容に移る。中心となる病気はクールー、CJD、スクレイピー、BSE、新型CJDである。物語の序盤、脳にスポンジのような孔が存在することに研究者達が何十年も気づかなかったことに対し、神経学者の職業的先入観を指摘していた。私はこれにかなり納得する。専門分野を極めれば極めるほど視野がせばまるとはどの分野にもいえることで、人が万能でないと知らされた気がした。しかしながら研究者というものはすごい人々で、次々と新たな発見をしていくのである。病気を比較しながら、孔の存在や炎症の欠如等の共通点、画一的と多様という症状の違いや損傷範囲の違い等の相違点を発見していく。また、病原体がホルマリン、フェノール、クロロホルム等の強力な薬剤で処理しても30分間煮沸しても、二ヶ月間冷凍保存しても生きのびるし、紫外線照射し強いことまで調べあげる。病原体の強さにも驚いたが、研究者のすごさにはもっと驚いた。動物実験の根気についてはさらにである。
 こうした研究のさなか、BSEが登場する。この発生原因について、高温処理の問題もあるが、私はもう一方のタンパク質を補うために使用された動物性飼料の方に注目する。これの使用増加の背景に国際通貨市場でのポンド価格下落による飼料価格高騰とあった。つまり、社会生活上の生物とは関係のない問題がBSEをひきおこしたのである。これは一つの問題が様々な分野の問題と因果関係を持つことを意味しており、これはとても重大なことである。それの顕著な例がBSEに対するイギリス政府の対応であろう。政府は牛スポンジ状脳症がヒトに感染するという事実を研究者からの意見や実例があった中、1996年の声明の時まで否定し、そのことにより被害者が増加したことは事実である。BSEは政府の監視体制や管理機構、または政策の失敗の結果だと書いてあったが、私もその通りだと思う。日本でBSEが発生した際の政府の対応は素人の私から見てもあまりに粗末なものであった。そしてそれに乗じて不祥事を引き起こした企業の存在もなさけないものであり、これはBSEを日本人がいかに知らないか、軽くみているかを示しているものとも言えよう。実際、今回本を読み、友人に話をしたら「BSEってヒトには感染しないんでしょ。」と断言されてしまった。政府はまず情報の提供から行うべきであろう。ニュースを見ていてもBSE発見としか言っていない。その上で的確な政策を取り、監視や保障に力を入れるべきである。農水産省が安全宣言をした後にも様々な問題が起きている。そしてついに国内で6頭目のBSE感染牛が発見された。このままの体制では日本がイギリスのようになるかもしれない。外国からの注意を無視したというその時はささいであった問題は、今大きな問題をひきおこしつつあるのである。
 ところで、本当に病原体は何なのだろうか。すごく知りたい。実際にアルツハイマー病のアミロイド斑の核のように、我々のまわりにあふれているものであるとするなら、我々はいつも危険にさらされていることになる。早く発見し、治療法を見つけてほしい。そのためには研究者にもっと協力しあってほしいと思う。ノーベル賞が欲しいと願う気持ちはわかるが、私はプルシナーのような研究者でなく、もっと病気の解明のために研究成果を公開し共に取り組むような研究者を望む。プルシナーの仮説も不完全であった。より早くより正確な説をだすには、またはプルシナーの仮説を証明するには、やはり相当の実験や知識が必要であるから、多くの者の協力があったほうが良いと考えるのだ。
 最後に本の中に私の興味がある異種移植について触れられていたので、私の考えを述べたいと思う。本によると、豚にもBSEは感染し、医原性の死の危険があるとされる。私は、ノックアウト豚やトランスジェニック豚は無菌飼育で医原性はないと思っていたのでBSEのことを死って驚き、そしてえさにも注意しなくてはいけないと思った。また、定期的な検査など、厳重な注意が必要である。実際に行ってしまった人々への検査も忘れてはならない。異種移植推進派の私にとって衝撃的な事実ではあったが、このことに関しては感染方法の限定等確率の低さを考えるに、施設整備や飼育、検査等をしっかりすれば何とかなるとも思えた。しかしとにかく病原体の特定の治療法の発見が最優先課題であることには変わりない。本当に考えさせられる病気であった。


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