優秀作品(4)

熊本大学
生命資源研究・支援センター
バイオ情報分野
荒木 正健

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2003年 5月10日更新


『動きだした遺伝子治療ー差し迫った倫理問題ー』(法学部)

 私はこの本を読んでいろいろなことを考えましたが、大きく分けて二つあります。一つは、遺伝のしくみについての事、二つ目は、遺伝子診断・遺伝子治療のことです。
 まずは、遺伝のしくみについて考えたことですが、二つあります。一つ目は、獲得形質の遺伝についてのことです。「獲得形質は遺伝しない」と高校の生物で習いました。この本にもそう書いてあります。獲得形質が遺伝情報としてかきこまれることは考えられないので、あたりまえのようにも思えます。しかし、私はこの事を進化との関係においては不思議に思います。生物は進化の過程で、不用な部分が退化し、必要な部分が発達してきたといえます。このことの説明として、生物の先生は、突然変異によって形質が変化し、うまく環境に適応できる形質をもった生物が生き残って子孫を残してきたからだと言っていました。でも、ヒトの尾や毛などは退化したといわれますが、尾があるからといって、また、毛があるからといって生き残っていけないものでしょうか。それに、同じ突然変異が、後世にその形質を100%のヒトに残せるほど、複数の人に同時期に起こるのでしょうか。長い年月をかけて進化したとはいえ、とても不思議な気がします。
 次に、DNAについての事です。「DNAのうち5%が遺伝子として働き、残り95%のDNAは遺伝子として働かない」、また、「この95%の部分の構造が一人一人で異なっており、DNA鑑定による個人の識別や親子判定は、このDNA構造の違いを目印にして行っている」というような事が書かれてあります。私はあまりDNAついての知識がないので、根本的に間違ったことを考えているのかもしれませんが、この95%のDNAが「いわばDNA上の個体差」と書かれてあり、上記のように個人の識別や親子判定に使われるということは、この95%が、人の体型、容姿を決めているということなのだろうかと私は考えました。95%のサイレントDNAがそれぞれの人のDNA上の個体差だとすると、これが人の体型、容姿など各個人の特徴を決定し、のこり5%がヒトの基本構造をつくりあげていると考えるのが自然だと思ったのです。しかし、もし、これが正しいとすると、遺伝子として働かないはずの95%のサイレントDNAが形質を遺伝させていることになり、矛盾が生じてしまいます。考えれば考えるほど疑問が生じてしまいました。
 大きく分けて2つめに考えたことは、遺伝子診断・治療の事ですが、まず、全体的な感想として、「病気の原因になる変異遺伝子が特定されても、簡単には治療や予防をすることができないのだなあ」と思いました。病気の原因になる変異遺伝子が特定できれば、その変異遺伝子を正常な遺伝子ととりかえれば良いと思っていたのですが、そのようなことは簡単にできないということを知りました。遺伝病には様々なパターンがあり、関与する遺伝子が多数存在したり、環境要因も関わってくるのだということが解り、私が考えていたよりもずっと複雑なものでした。
 遺伝子診断について、出生前診断は私個人の意見としては、病気が解ったからといって中絶してしまったら、胎児にも命があるのだから残酷だと思いました。しかし、その病気を受け入れられないで無理に育てたら、結局はその親にとっても、子にとっても不幸な結果になってしまうのかもしれないので、難しい問題だと思います。着床前診断については、「受精卵を"選出し"、着床させる」という文を見たときはぞっとしました。しかし、中絶をせずに、子どもが重い遺伝病にかからずに生まれてくるという点で確かに優れていると思いました。
 遺伝子治療は簡単なものでないということが解ったし、もしかすると、がんをひきおこしてしまうかもしれないという危険性があるという事も知りました。しかし、重い遺伝病の人を救うにはとても有効な手段だと考えられるし、これが可能になれば出生前診断の中絶も防げるかもしれないので、私としては、実用化できるくらいに発達すればいいなあ。と思います。実用化のためにはもちろんこの技術の更なる発達だけでなく、遺伝情報の管理、遺伝子診断後の精神的サポートの体制など、様々なシステムの整備が必要になります。そして私達自身も、受身になるのではなく、正しい知識を身につけて、遺伝子診断を受けるか受けないかなど、きちんと判断できるようにならなくてはいけないと思いました。


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