2003年度 レポート第11回 回答集

熊本大学
生命資源研究・支援センター
バイオ情報分野
荒木 正健
Tel : (096) 373-6501, FAX : (096)373-6502
2004年 5月 5日作成

2003年度 生命科学G レポ−ト第11回(2004年1月21日実施)回答集

[ テーマ ]クローン人間の誕生について

[ 回答 ](全14人)

・完全な個体としてのクローン人間に関しては、他の科学技術と比べても、もっとも批判の多いものだと思います。理由はいくつか挙げられますが、まず人間の倫理観ゆえの批判があるでしょう。人間の複製を人の踏みこんではならない領域だと考え、禁忌とするのは当然の発想です。クローン人間が既に実在した人物の完全な生き写しである以上、クローン人間そのものを生理的に嫌悪したりすることもあるはずです。その反面、クローン人間誕生に賛同する人がいるとすればおそらく、失った子供の代わりだとか、新しい自分の体を求めてだとか、優秀な人材を増やすためだとか、いずれにせよ、コピーであることに意味を求めた解答が得られるはずです。
 しかし、両論には決定的な問題点があると思います。個人ないし社会的な倫理観によって批判するにしても、ある人物の複製を願う人がいたとしても、そこにクローンとして誕生する人自身の意志など存在しないのですから。しかしそれは勿論、当然の話です。まだ生まれていない人間についての問題なのですから、当人は蚊帳の外という議論になってしまうのも仕方のないことでしょう。もっとも、それはごく普通に夫婦の間に生まれてくる子供についてもいえるはずですが。どんな赤ん坊も、自ら望んで生まれてくるわけではないのですから。しかし、子供の意志を聞くことはできずとも、その子供が生まれたあとの問題を考えることはできます。子供にどう接するか、子供を育てる環境をどうするかなど、それは当然の義務です。普通に生まれた子供ならば、これらが整えられていれば立派に育つことでしょう。
 では、クローン人間が誕生したあとのことを考えてみるとどうでしょうか。現代社会はその子を受け入れてくれるでしょうか。他の人間とは決定的に違う人間を野放しするような社会でしょうか。オリジナルの人間が故人ではなく生きている場合、その人物との関係はどうなるのでしょうか。自分は誰かの複製だという変えがたき事実を知ったときの、その子の気持ちが分かる人はいるのでしょうか。生まれてきたその子自身の人生について、つまり人権問題こそが、クローン人間批判の最たる理由だと思うのです。クローン人間はたとえ身体が健康であったとしても、生きていく上での障害を生まれついて持っているように思えてなりません。クローンとして生まれた人間に他と平等の人権が保障される確証など、どこにもないのです。
 ではクローンであることを隠し通せば済む、と考えても解決にはなりません。倫理観を抜きにしても、事実は事実であり、いつ判明するかも知れないことです。また、優秀な人材をコピーすれば結果として社会の役に立つ、などという合理性だけを重視した考えは、ただの人権無視の横暴な危険思想のようにしか思えません。人間を機械と同一視するようなものです。どんなにメリットがあるとしても、決して上回れないリスクがあるはずだと思います。
 クローンの技術はたしかにこの時代に誕生しました。しかし時代と社会は、少なくともそれが誕生した先進諸国においてはそれに反しています。確固とした法秩序は、ときに科学技術と激しく対立します。法による規制は科学をも規制し、それが科学の発展の妨げとなることもあるでしょう。規制されるべくしてされる以上、法が科学の暴走を抑える役目を果たすともいえるかもしれませんが。例えば、人間についての研究は人体実験が最も分かりやすく効率的だといえるはずですが、当然法による規制のために限定されます。全てを人間で実験したのなら、今以上に発展した分野もあるかもしれません。勿論この規制云々はいつの時代でもあったはずです。しかし、現代ほど法制度が整備されていない時代、もしくは混沌とした戦時中などには、現在では考えられない人体実験も多くあったと聞きます。勿論、現在の科学がそうした犠牲を超えて、その実験結果を吸収して土壌のひとつとしながらここまで発展してきたことも否定はできません。とはいっても問題なのはやはり今であり、権利問題を考えただけでも、クローン人間を認める社会であるとはいえないのが現状なのです。多くの国々がかつてないほど民主的で、人権を掲げ個人を尊重する価値観をもつこの時代そのものが、クローン人間を批判し受け入れないのでしょう。
 しかし、もしクローン人間を受け入れる社会があるとすればどのようなものでしょうか。それはおそらく、、人間の複製という概念に抵抗が全くない人々ばかりであり、クローンという技術が一般的に使われ、クローン人間が決して特殊とはいえない世界、そしてクローン人間に対し、保護などではなく当然のものとして扱うようになった社会ではないでしょうか。私には空想の中だけの世界にしか見えませんが。そのような社会と現代社会に優劣をつけようとは思いませんが、とりあえず現実を見つめると、クローン人間の誕生に関しては問題点が多すぎます。この世界ではクローン人間がまともに生きることなどかなわない、それゆえに彼等自身のために、彼等は誕生すべきではない、少なくともこの時代においては、そう考えるのが最も懸命なように思います。(法学部)

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 クローン人間に反対する最大の理由が人権問題であるとすると、社会が切望する人間(例えばアインシュタインやマザー・テレサなど)のクローンに対して、むしろ法律で特権を認めるという場合はいかがでしょうか? (コメント by ARAKI)

・クローン人間の誕生についてですか、何だか反対意見が多い割に具体的な反駁が少ない気がします。授業中に出た反対意見も妙にSFじみていた様に思えました。戦争への利用という例はあまり現実味を帯びて考えられませんでした。曖昧に反対するのではなくしっかりとした意見を参考にちゃんと考えてみたいと思いました。(教育学部)

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 確かにSFの様な話が続きますが、少なくともマウスについては、体細胞の核を用いて作製(した)クローンマウスの体細胞から核を取りだし、さらにクローンマウスを作製し・・・という作業を6回まで繰り返した人がいます。何故か6代までしか成功しなかったそうですが。体外受精などの生殖工学に関してはマウスより人の方が先行したことを考えると、どこまでが現実で、どこからがSFか判らなくなってきます。 (コメント by ARAKI)

・自分はクローン人間には反対だ。その最大の理由は、人間の命を道具として扱う風潮が広まる危険があると思うからである。例えば、息子が死んでもすぐクローンとして復活させることができる、つまり代わりが作れるのなら、その息子の命の重みは減るのではないか? また、本当の息子は大切にするとしても、代わりに作ったクローンはどうだろうか?自分は全く変わらないとは言えないと思う。さらに、これはどんな問題にも言えることだが、悪用されることは十分考えられる。人間を作れるのならなおさらだ。講義でも言われていたが、軍隊なんて作り放題だし、優秀な選手を増やしてスポーツをするなどは、個人的にはもはや競技をする意味自体失われているように思う。規制を作ればいいという考えもあるだろうが、もしそうなら核兵器も規制できて核エネルギーだけ有効に使われているはずである。つまり、上に挙げたクローン人間の利用は明らかに国家にとってプラスになるので、世界中の全ての国家が厳しく規制するはずがないし、その規制を破る者も当然でてくるだろう。生命を扱うこの技術において、規制の不備も許されない。このように、メリットよりも危険性のほうが大きいと感じるので、自分はクローン人間の誕生は望まない。(法学部)

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 『人間の命を道具として扱う風潮』は今に始まったことではありません。むしろ奴隷制度が普通だった頃の方がひどかったと思います。別の言い方をすれば、特別な1人の独裁者に限らず、誰でも支配者(?)としての地位に就いた時に、自分の自由になる道具(あるいは駒)を求める可能性があります。もしディベートの中で意見が出ていた様に、クローン技術で生まれた者は『人間』ではないという法律が出来たら、喜んで活用する『人間』が出てくることは間違いないと思います。現実の話でも、脳が無ければ『人間』ではないという考えに基づき、脳の無いマウスの研究を進めている研究者もいます。私も、クローン人間の誕生は、メリットよりも危険性の方がはるかに大きいと考えています。 (コメント by ARAKI)

・私はクローン人間を造るのには反対であるし、また法で禁止をするべきだと思う。一番の問題は造る側より造られる側の扱いであろう。人間にオリジナルとクローンがいるという事は絶対におかしいし、また実際に誕生したとしても、社会全体から差別を受ける事になると思う。またそれから人体実験の為だけに条件に合う人物のを量産するだとか国益の為に優秀な人物を量産するなどクローン人間を「道具」として扱う日が来るのではないかという懸念も捨てられない。(医学部)

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 『一番の問題は造る側より造られる側の扱い』という意見に賛成します。自分が誰か(神様ではなく)に造られたとしたら、まさにマンガやSFの世界ですが、冗談では済まされない時代になってきました。 (コメント by ARAKI)

・私は、クローン人間を誕生させることに反対です。前回のディベートでも意見が出ましたが、まずクローン人間を作る意図があまり見いだせません。作ったとしてもどういうメリットがあるのでしょうか。クローンに与えられる権利や心は、極論を言えば、外部に出さなければ何も問題にならないのかもしれません。しかしクローンと言えども1人の人間(と私は考えている)なので、人形と同じように扱うわけにはいきません。
 また、オリジナルとクローンのDNAは全く同じだとしても、個々が育つ時代・環境によって性格や考え方はまったく同じにはなることはあり得ないので、完璧なクローンは存在しないと思います。(工学部)

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 言葉の問題ですが、『完璧なクローンは存在しない』と言う場合、『クローン=コピー』という概念で言われていると思います。おそらく一般的にも、そう思っている人が多いのではないでしょうか。言葉の定義としては、『クローン=ゲノムDNAが同一である』ですので、むしろ『クローン=コピー』では無いということを強調する必要があるかも知れません。(コメント by ARAKI)

・一体クローン人間を誕生させて何になるのだろう。前回の授業でもそういう意見が出たが、本当にそう思う。死んだ息子や偉人を生き返らせても何になるのだろう。こう言うと、抽象論に聞こえてしまうかもしれないが、やっぱり人生とは一度きりのもので死んだら生き返れないことは人類のルールだと私は思う。子を失った親の気持ちなんて他人には理解できるものではないのだろうが、ルールには従わなければいけないのではないだろうか。。ましてや、ラエリアンムーブメントの資料であったが、不妊治療にクローン人間を使うのは意味が分からない。優秀な人物のクローンを作るのもというのも疑問が残る。差別の火種となりそうだし、ナチスの優生学を思い出してしまう。特にスポーツに使うのなら、スポーツを面白くなくしてしまうだけだと思う。パッと本人そのままのクローンができる訳ではないなど、他にも多くの細かい技術的な問題もあるだろうし、クローン人間は世の中を混乱させるだけで、人類に対する恩恵なんてほとんど無い可能性もある。今は状況を見守ることしかできないが、やっぱりクローン人間には強い拒否感を覚える。(文学部)

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 メリットが分からないから反対するというのでは、反対理由として少し弱いと思います。PCRや携帯電話など、実際に開発されてからその利用方法が検討され、様々な分野に応用されている技術もありますから。 (コメント by ARAKI)

・道徳的には反している行為なので理解はしがたいが、その技術がある以上それは起こりうる未来だから、そのためにも起こったときの準備が必要だと思う。(工学部)

・そもそもクローン人間とは我々と同じ人間として扱われるだろうか?私は扱われないと思う。と言うのもディベート中クローン人間作成の目的や利用についての意見が多くでたが、もうその時点で我々はクローン人間をモノ扱いしているような気がするからだ。更に事故死した子供のクローンをつくったという話があったが、それはクローン人間だけでなく亡くなった子供に対しても失礼でかわいそうだと思った。クローン人間の誕生は間違いなく禁止するべきだと私は思う。(工学部)

・クローン人間についてだが、クローン人間という一つの生命を造り出すことにどのような意味があるのか正直分からない。ES細胞を使った治療目的での部分的クローンは、完全に良いとは言えないが、役に立つものである。しかし、クローン人間を造っても、それが一つの生命であるかぎり、治療や実験には使えないのではないだろうか。ただいたずらに生命を造り出すだけなら禁止すべきだと思う。(法学部)

・私個人としては、クローン人間の製造というものもしょうがないと思う。なぜならば、それを望む人がいるからだ。例えば、子供を失った親などである。そういう人がいる限り作ることは悪ではないと思う。現在では、それを反対する声として、倫理観に反するとか、大国の軍事技術として使われるといった意見があるが、倫理観に関していえば、ヒトだけを特別と思うところに問題があると思うし、軍事技術にしても、クローン人間ばかり、取り上げてもしょうがないほどの様々な研究が 行われているだろう。なにより人は、遺伝子的要因より環境要因によって変わると私自身は信じているので、そ んなにうまくいくとも思えない。(医学部)

・私はクローン人間の誕生に反対です。最近までは反対と言う概念はあってもなぜかと問われたら理由が思いつきませんでしたが、今回ディベートをしてみて、クローン人間として生まれた人間の人権と言う見地からクローン人間を作成することは反対です。クローンと言えども人間です。脳もあり、考えることもできます。そんな存在であるものを人は自分の思い道理に動かす権利があるのでしょうか? 何故生まれて来たかを自問するとき彼が心から納得する答えを私たちはもっているのでしょうか? フランケンシュタインのように孤独にさいなまれてしまうのではないでしょうか。(法学部)

・クローン技術のひとへの応用は反対なので、クローン人間誕生については悲観的な考えしかありません。なぜなら、大きなメリットが見当たらないから。子を失った親がクローンを求めるかもしれないが、クローンというのは全く同じになるわけではないし、たとえ似たとしてもその子は前の子とは違うのです。倫理的な問題が出てくるのも当然のことだと思います。クローン人間が本当に誕生したのかどうかは分かりませんが、認めるにしろ禁止するにしろ早く国際的な法律の整備等を完了させてほしいものです。(医学部)

・私はこのクローン人間の誕生について反対です。このクローン人間の問題で一番重要なのは人権に関することです。クローン人間に対して実験を行う事も、クローン人間に対する人権侵害になります。また、クローンに対する差別も必ず出てくるはずです。こうなった時にも同じく人権侵害になります。他にも様々な人権侵害が発生するはずです。こういう人権侵害を防ぐために憲法の条文を使うことができると思います。よって国は憲法を使ってこのクローン人間を作ろうとしている研究を止めるべきです。(法学部)

・前回の授業でクローン人間の考え方について議論したが、私にはやはりクローン人間に反対の考えしか浮かび上がってこなかった。先生がおっしゃったように死んだ息子を生き返らせたいというような例があるだろうが、それを容認してしまうと非倫理的な世界になり、人間の尊厳が失われると思う。(理学部)


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