2003年度 レポート第2回 回答集

熊本大学
生命資源研究・支援センター
バイオ情報分野
荒木 正健
Tel : (096) 373-6501, FAX : (096)373-6502
2004年 5月 5日作成

2003年度 生命科学G レポ−ト第2回(2003年10月15日実施)回答集

[ テーマ ]『被ばく治療83日間の記録〜東海村臨界事故〜』を見て考えたこと

[ 回答 ](全14人)

・人間が作り出した数々の文明の利器は、時に危険な事故を引き起こし、多くの犠牲者を出してきました。この事故も例外ではありません。しかし危険性はあるものの、細心の注意を払えば防げた事故だと思います。もっとも、今そんなことをいくら語っても仕方がないのですが。ただ、このケースでいえば大内さんのような犠牲者は二度と出してはならないと、原子力を扱う人々は肝に銘じるべきでしょう。理想かもしれませんが、その責任感が重要だと思います。
 そして、この事故と大内さんの被害は、ビデオでも大きく扱った医療の分野においても大きな問題を投げかけたはずです。この事故は、至極珍しいケースかもしれません。全体から見れば、放射線汚染による被害などごく僅かな、稀な出来事だと思います。それゆえに医療の分野でも、特に遺伝子治療から迫った被ばく者治療は進んではいなかったかもしれません。ですが、現実に人間がまだ原子力を扱っている以上、100%避けられる問題でもないのです。そしてこのビデオの場合では、大内さんの命を必死に繋ぎとめておこうとすることはできても、決して根本から「治す」ことはできませんでした。多くの手段を模索し試みても、現在の医療技術ではそれだけしかできなかったのです。
 また、私はあえて大内さん自身やその家族の心情ではなく、彼の治療に携わった人たちの苦悩を考えてみようと思います。医者にとって、現在もつ技術では到底太刀打ちできない病に対面したとき、この患者を治したい、死なせはしないと諦めない気持ちの反面、命を長らえさせることしかできない現状に対し、怒りや絶望、むなしさなども感じるのではないでしょうか。私は医学を学んでいるわけではありませんが、ビデオでも数名の医師が語っていたように、自分が何のためにやっているのか分からなくなってくるというのも十分理解できます。
 また、患者がもはや自分の意思を示すことができなくなっても続けねばならないことなのか、かといって本人の意思に関係なく決めて良いことなのか、そういった問題はこのような場合必ず問われると思います。それは私にも、どちらが正しいかは分かりません。しかし、私はこうも思います。治せないと分かっている病気に対してもぎりぎりまで諦めないこと、諦めずに病に挑むことは決して無駄ではないと。そして、その患者を救えなかったとしても、その姿勢と経験、反省、そしてそれまでの問題点を活かして更なる研究を重ねることが、新しい発見や治療法を生み出すきっかけにもなるのではないかと。そうやって次の患者の死を防ぐことができたなら、それはとても意味のあることだったと思えるでしょう。亡くなった患者やその家族に対しても、せめてもの救いとなるだろうと思います。勿論すぐには無理な話だと思います。しかし不治の病が数十、数百年後はもはや不治でなくなることは、十分にありうる話です。これまでも多くの例がそうだったはずですから。
 そして今回それを成す可能性のひとつが、遺伝子を研究するということだと思います。遺伝子を操作するということは倫理的な問題が多くつきまといます。しかし、その操作が治療として役立ち人を救うことを、誰が間違っているといえるでしょうか。遺伝子に手を加えたとしても、かけがえのない命を救うことに批判できる部分があるのでしょうか。大内さんのような放射線被ばくだけでなく、遺伝子治療が人の命を救う可能性がある病はいくつもあるはずです。決して数多くの患者がいる分野ではないと思いますが、それを放っておくわけにはいかないと思います。そして、現状では夢物語であっても、いつかは叶える夢だとして研究を続けていって欲しいと願います。その精神こそが、今までもこれからも、医学を発展させる基本となっているのではないでしょうか。(法学部)

・ビデオを見て、まず思ったことは原子力の威力の凄さ、怖さについてである。被爆した際に見掛けは火傷した程度であるのに、染色体は復元が不可能なくらいボロボロにしてしまう。すなわち人体の設計図を壊してしまったのだ。本来、染色体は酸・塩基また紫外線、熱等で破壊したとしても元に戻ってしまう。それなのに直せないというのはこれ以上すさまじく効率的な破壊法というものは考えられないと思われる。
 次に思われたのは、管理の甘さである。このように恐ろしい原子力をバケツで扱うなど信じられない。またそれを認めていた会社と全く危険と考えていなかった従業員の考えの甘さには恐怖を感じる。 これから原子力は発電の面ではなくなることもあるかもしれない。しかし医学面等、必要とされる以上なくなることはないだろう。であるからこそ、その危険性を認識し、さらなる事故が起こらないように努力して欲しい。(医学部)

・延命治療について授業ではしたほうがよいという意見がでましたが、今回のビデオを見ていると、私は手のうちようがない場合に限っては延命よりもが苦しみを軽減する方法をとるほうがいいと思いました。今後期待されている遺伝子治療がどれほど大事かわかりました。(医学部)

・私は東海村での原発事故があったことも職員の一人が亡くなったことも新聞記事で読んで知っていた。しかし、これほどまでに壮絶な闘い、そして関係者の方々の苦悩があったなんて考えもしていなかった。人が人として生きられなくなる放射線の怖さを現実に体験することになってしまった大内さんと必死に治療を施す医療チームの姿には心をうたれたが、症状の進行を画面を通して見せられる度に私は自分の目を覆いたくなった。それは現代人を襲う極限状態の一つだろう。だが大内さんの死は私たちに多くの問題を問い掛けることとなった。医療の在り方も大きく揺らいだ。私は医術は、生きることの手助けだけでなく死の助けも含むものだと思う。とにかくこの事故をきっかけに、私たちは改めて考えなくてはいけない。(文学部)

・あの原子力発電所の事故のビデオを見たあと私は"最後まできちんとケアして欲しかった"と発表しましたがあれはあの状況であったからです。現在医療の現場ではインフォームドコンセントが行われるのが主流になっています。彼が一回目に延命治療を受けた時にこれが受けられたのでしょうか!? 半ば医療の実験台として治療を行われていた気がするのです。彼の意思とは無関係にすべての事が進んでいたように感じられたように思われたのです。生きようという彼の意思を尊重するなら最後までケアすべきだったと思いました。確かに無駄かもしれませんがそういう態度が医療に対する不信感を増長させる一因を持っているように思われます。(法学部)

・非常に考えさせられる映像でした。医療倫理について私たちは客観的にみることができ、それに対する意見を言うことができるが、実際その場に居た医者、看護士が決断する、もしくは考えたことはとうてい私たちには想像がつかないことだろう。その中で医者が家族の言葉に勇気づけられたという場面が印象に残った。(理学部)

・今回東海村の被爆者に関する実際の医療現場のビデオをみたが、やはり倫理的にはとても考えさせられた。どうすることが最善なのかは分からないが、とりあえず言えることは、このような事故を二度と起こさないことと、更なる医学の進歩は必要だと感じました。(工学部)

・東海村臨海事故のビデオを見て、私達が利益と損害のバランスをうまく保てるかが非常に大事だと感じました。原子力は使い方によっては人間の大きな利益にもなるし、大きな損害にもなります。バランスを動かす要因として自然の力や人為的な力があり、それぞれがうまく作用しながら均衡をとっているのだと思います。DNAをじわじわと壊していく放射線の恐怖を改めて感じ、利益と損害のバランスの均衡をうまく維持していくことが、これからの私達の課題だと強く思いました。(工学部)

・放射線を浴びた人がどういう症状になるのか知らなかったのでビデオの映像はショックなものでした。自分があのような症状になったら最後まで頑張ろうとは思えないだろうと思います。染色体が人間の体の地図だということは知っていましたが、染色体が壊れるというのがどういうことかを知り染色体の大切さを実感しました。(法学部)

・今回私がビデオを見て感じたのは、遺伝子レベルで障害が起きることは人間にとって非常に恐ろしいことであるということだ。専門ではないのでよくわからないが、医学が進歩しても人間が放射線障害を治療できるようになるとは想像できない。しかし、遺伝子の障害を治せるのはやはり遺伝子の技術だと思うので、研究が進めばいいと思う。(法学部)

・私はこの前のビデオを見て、とても残酷な治療だなと正直思いました。僕が思うに医療とは特別な場合を残し、治る見込みのある患者、もしくは延命させることが出来る患者に対して行うものであると思うのです。今回の被爆者に対して行なった治療は最初は延命させることが出来ていたのですが、後になるとどんな最新の医療を駆使しても治る見込みがないことは誰が見ても明らかなのです。もしインフォームドコンセントを被爆直後本人に対して行い、またなおかつ命ある限り治療を続けるよう頼まれたのならば話は別ですが、もししていないのならばあんまりです。なかば実験体のような感じで治療活動を続けられていたのは正直ショックでした。このようなことがもう二度とないようインフォームドコンセントを徹底させるべきです。(法学部)

・この事故の事はテレビ、新聞で知ってはいたが、被害者の方について詳しく知るのは初めてで、ビデオを見終わって感じる事は色々あった。まず1つには企業の指導のずさんさである。今時ウランの臨界量を原子力を扱う企業が現場の人間に教えないなんて有り得ない事だし、失礼かもしれないが被害にあった方もそういう常識を知らずに作業にあたっていたのは軽率である。ウランが一定量集まると核融合を始めることは高校で教えている所もあるくらいだ。
 また放射能の、核の脅威についても思い知らされた。放射能を大量の浴びた人間がどうなってしまうかをビデオで詳しく見て驚いた。染色体が壊れるだけで人間の体はあそこまで壊れてしまうものかと思った。  最後に被害者とその家族の戦いだ。もうボロボロの被害者を必死に助かるように願う家族の、また助けようとする医療スタッフの気持ちはよくわかる。だが機械によって生かされている被害者の気持ちは計り知れない。彼は本当に生きたいのかもしれないし、もう楽になりたいと願っているのかもしれない。私はどうしようもなくなったら治療は最低限のものにして家族と一緒にすごさしてあげるべきだと思う。(この場合は家族への放射能の影響があるからいたしかたないが)。いずれにしても延命治療の是非というのは医療現場での永遠の問題であろう。
 この世に原子力がある限り、放射能事故は将来必ず起こる。その時もうこの様な犠牲を出さない為に私たちは企業での管理の徹底、医療現場での放射能患者の受け入れ体制、治療技術の発展をさせなければならないと思う。(医学部)

・二年前に亡くなった父のことを思い出しました。余りに状況が酷似していて悲しくなりました。勿論被爆した訳ではありませんが白血球の激減、肌細胞の破壊、臓器の障害、肺に水が貯まる、心臓負担等様々な症状が一致していました。父は白血病でした。治療に放射線治療を用いていました。一体どれくらいの量の放射線なら人体に無害なんでしょうか。そして大内さんが受けた放射線はどの位のものだったんでしょう。放射能がどんなに危険か分かっていても、今のところ原子力発電に変わる有力な発電方法が挙げることは出来ないと思います。ですから対処法としては全ての作業をコンピューターにまかせるなど人に被害が100%出ないような形で行なう他無いのではないでしょうか。また、放射線被害に対応できる治療法が早く発見されればいいと思います。(教育学部)

・これまで小中高までに視聴してきた原爆に関する資料で放射線を浴びた時の症状は知っていたが、そのメカニズムは知らなかった。改めて恐ろしい科学技術であると感じた。ビデオは正直、ちょっと見てられなかった。医療現場の方々やご家族の方々は回復を祈り、手を尽くしていたが、もし自分があの被害者の方だったら、もう治療せずに楽になってしまいたいと思うだろう。たとえ回復しても元の生活と同じ様にはきっとなれないだろうし。本当に恐ろしい技術だと思う。(工学部)

===== レポートについてのコメント (by ARAKI) =====

・この事故の場合、医者や会社関係者から、大内さん本人に病状に関してちゃんとした説明があったとは考えられません。死の告知のようなものですから。

・現在の医学では大内さんの様なケースを救うのは不可能だと思います。しかしながら、将来治療法が確立されるとすれば、キーワードは「幹細胞」と「クローン技術」でしょうか。心筋細胞が生きていたように、もし造血幹細胞などが少しでも回収できれば、試験管の中で増やして血液細胞を作るだけでなく、さらに未分化な状態に変えて、他の臓器の幹細胞に変身させ、筋肉細胞や神経細胞を作ることも出来るかも知れません。もちろん今の技術では不可能ですが。さらに通常細胞(例えば心筋細胞)から細胞核を回収し、脱核したヒト未受精卵に入れてクローン胚を作製し、そこからES細胞を作製するという方法も考えられます。

・遺伝子治療は困難ですね。現在の医学で大内さんを救うのは不可能ですが、将来治療法が確立されるとすれば、キーワードは「幹細胞」と「クローン技術」でしょうか。もし造血幹細胞などが少しでも回収できれば、試験管の中で増やして血液細胞を作るだけでなく、他の臓器の幹細胞に変身させ、神経細胞などを作ることが出来るかも知れません。さらに通常細胞から細胞核を回収し、脱核したヒト未受精卵に入れてクローン胚を作製し、そこからES細胞を作製するという方法も考えられます。

・悲しい思いをさせてゴメン。昨日は返事を出すことが出来ませんでした。今日、アイソトープ総合施設の島崎先生に質問しました。白血病の場合、若い患者さんだと放射線治療と抗癌剤を併用するので、どちらの副作用か見分けるのは困難だそうです。抗癌剤の場合もほとんど症状(副作用)は同じだそうです。年配の患者さんの場合、放射線治療だけを行うので、副作用は少ないということです。
 被爆放射線量をグレイという単位で表します。0.2グレイ以下では人体に影響はなく、0.2グレイ以上で何らかの影響が出ます。2.5グレイを1度に浴びると50%の人が死亡します。大内さんは約25グレイを1度に浴びました。1グレイは胃のレントゲン撮影千回分に相当します。白血病の放射線治療では、1回の照射量は少ないがトータルすると20グレイ程度照射するのではないかということでした。
 長崎原爆の場合、爆心地からの距離0.5km地点で80グレイ、1.0kmで8グレイ、1.5kmで0.9グレイ、2.0kmで0.13グレイ、2.5kmで0.02グレイと推定されています。島崎先生から「放射能Q&A」という冊子をいただきました。長崎県原爆被爆者対策課がまとめたものですが、分かりやすく書いてあると思いますので、興味があれば次回の授業に持っていきます。

  目次に戻る
  教育活動
  MASA Home Page
  遺伝子実験施設ホームページ
熊本大学 生命資源研究・支援センター 遺伝子実験施設,
E-mail: www@gtc.gtca.kumamoto-u.ac.jp