2003年度 レポート第3回 回答集

熊本大学
生命資源研究・支援センター
バイオ情報分野
荒木 正健
Tel : (096) 373-6501, FAX : (096)373-6502
2004年 5月 5日作成

2003年度 生命科学G レポ−ト第3回(2003年10月29日実施)回答集

[ テーマ ]人は誰でも20個以上の遺伝病の保因者だという事実について

[ 回答 ](全14人)

・「人は誰でも20個以上の遺伝病の保因者だという事実について」ですが20以上という数字に驚きました。自分が何らかの遺伝病にかかるというのも恐いと感じましたが、自分に子供が出来たとしてその子供達が自分が持っていた遺伝子で遺伝病になってしまう可能性がないとは言えない事に恐ろしく思いました。また技術の発展により、正確な遺伝子診断が可能になったのは素晴らしいことだと思いますが胎児の遺伝子診断や不治の病の宣告などは倫理的に問題があるように思います。遺伝子診断が盛んになることに反対するわけではないのですが、個人個人の意志を尊重した対応、態勢が整うまではそう性急に遺伝子診断を行なうべきではないと私も思います。(教育学部)

・かなりまれな病気で計算しても一人当たり20以上もの病気を持っていると考える と、完全な人間というものはいないのだと感じられ、人間が進化の過程でいかに傷 だらけになっているかが想像され、同時に進化というもののリスクの大きさというも のも感じられた。また、そのようなことが分かるようになった遺伝学の発達に感心 し、このまま行けば本当にあらゆる病気を治療することができるのではないかと期待すると共に、生きる気力・希望といったものを奪い取ってしまい、また、保険に 入れなくなったりし、人間の一生に絶望といったものを与えてしまうのではないか と不安にもなる。学問の発達における善悪というものを本当に考えさせられる。(医学部)

・「ヒトは誰でも、潜在的に障害を持っている」   遺伝性疾患の研究が進み分かってきた事実です。これは人類にとって、大きな可能性を秘めていると思います。
 しかし、一方で大きな問題も抱えています。人類の歴史、数万年の歴史のうちのほんの数十年で明らかになった事実。それは、逆に言えばそれまで誰も知らなかった、知りえなかったということです。知る必要がなかったからだと考える人もいることでしょう。遺伝性の疾患が産まれたときから、そしてそれ以前の胎内にいるうちから分かると、それに伴う様々な問題が発生するからです。
 自分の未来が分かるとなると、どのような問題が生じるでしょうか。良い未来ならともかく、悪い未来、例えば若いうちに死が待つ未来ならば、それを避けようとするのは当然のことです。多くの疾患における遺伝性素因が生まれてすぐに判明するということは、この、未来を予知できることと同等だとさえ私は思います。あくまで病という面だけですが、病は人の一生に常につきまとう問題です。だからこそ注意が必要だと思うのです。
 未来が分かって、それが変えられるものであれば心配は無用でしょう。しかし、現実にはそうはいかないものです。遺伝性素因をもつことが判明し、その疾患がその時点で不治の病であり、かつ未然に防ぐこともできないとしたら、そのときの絶望感はどのようなものでしょうか。それは知ってしまった故に感じる絶望です。知らなければよかった、そう思う人もいるはずです。
 逆に、おそらく、死ぬと分かっているなら早く教えてくれ、と思う人もいるのが難しいところですが。ともかく、情報、知識を得ることは、それに繋がる様々な問題を解決する第一歩だとは私も思います。しかし、未来を知るだけでは何もできません。指を咥えて見守って何もできないようではいけないのです。一歩を踏み出したあとが大切だと思います。変えられる未来になってこそ、はじめて予知は役立つのです。  また、情報科学も発展している現在、この遺伝情報に関わるプライバシー問題の危険性も懸念されています。法律を学ぶ一人として見れば、まだこの分野が完全に、十分に備えられているとはいえないと思います。勿論社会における情報の取り扱いにおいて、法律が大きく動いているのも事実ですが。しかし情報科学もそうですが、この場合直接的な、生命科学自体に関わる法律なども不十分といえるでしょう。科学に法が追いついていないのです。
 仕方がないという見方もできます。法律自体、歴史を見ると数千年もかけて発達してきました。しかし、特にここ数十年でこれまで人類が知らなかった知識や、手にすることのなかった技術が急激に増えてきました。遺伝子の分野をはじめ、これらの新しい知識や技術はその高い利用価値の反面、それまでの人間社会を一変させるほどの問題や危険性も持ち合わせています。それを人類にとって都合よく、真に便利な道具や手段として利用するために必要なルールとして、法律は大きな役割を担っていると思います。
 この遺伝性疾患、遺伝性素因の場合、最も重要なのはそれ自体を人類の為に役立て、いずれは悪影響のある遺伝性疾患をすべて未然に防ぐ技術を得ることだと思いますが、その陰で、人類の得た莫大な情報を氾濫させないために、悪用されることのないように、直接的ではないにしろ科学の発展を支える、それが法律そして法学者の果たすべきことだとも思っています。
 法律を学ぶ者の一人として感じる責任、というわけではありませんが、多少なりとも法の社会における役割の大きさを知った為に、そう感じるのかもしれません。科学がひとり突っ走るだけではいけない、そのフォローも大切だ。簡潔にいえば、そういったところですが。人のいのちに直接関わる問題だけに、より強く思うところです。(法学部)

・そんなに多くだとは思ってもみませんでした。遺伝病の多さの現れでしょうか。ひとつの遺伝病で保因者が10人1人などということはないと思うので、相当の遺伝病があるのかなと感じました。また、遺伝の複雑さ、歴史の長さが関係しているのかなとも思います。(医学部)

・人はだれでも20以上の遺伝性の病気を持っていることはかなり驚きました。自分自身も遺伝性の持っていることは知っていたのですが、それが多くの人にあるなんて知らなかったです。もっといろいろなことを研究して減らせるものは減らして行けたら素晴らしいと思います。(工学部)

・これまで遺伝病というのは特殊なもので、かかってる人というのは不幸な生い立ちで、自分にはおよそ縁遠いもの、思ってたので驚いた。あと授業中出てきた保険会社や雇用の話だが、(もちろん自分がそれをやられたらいやだが)会社側からすれば当然の権利のように思える。もちろん社会的な権利保障は整えるべきとは思う。(工学部)

・参考文献の「40億年の進化における自然淘汰の戦いをくぐり抜けてきたヒトの遺伝子は、みな満身創痍の身であることを心に深く刻んでほしいものである。」という言葉が印象的だった。このテーマは単に自分にも20個の遺伝病が潜んでいるんだと、トリビアですむものではない。遺伝子レベルでの研究がすすむと、その成果が大きく、応用範囲が広いために遺伝子万能感に陥ってしまう可能性も否定できない。過去を振りかえるとナチスの優性学のように、体の病への過度な拒否反応が心の病につながる。ゆえに遺伝病ではなく遺伝的特徴ととらえるべきだと思う。(文学部)

・我々が20個以上の遺伝病の保因者であると言われてもあまりぴんとこないが、そこからも人類の長い歴史を感じる事ができるし、また我々の子孫が遺伝病にかかる確率が増えるという事でもあるのでこれから遺伝子診断が発達されなければならないだろう。(医学部)

・自分が遺伝病を持っているとは一度も考えたことがなかっただけに、今回の授業内容は驚かされました。今現在は健康だが数年後にはどんな症状が現れるか分からないというのはかなり恐いものがあります。これから遺伝子の研究がもっと進み、どんな症状も治療出来るようになることを切実に希望します。(法学部)

・最初、自分は遺伝病とは全く関係ないと思ってました。しかし事実は遺伝病の発症率が何十万分の一というだけで誰しもが少なくとも20個の遺伝病の保因者であると聞いた時は驚きました。今健康であっても、年を重ねるうちに発症する可能性もあることを怖く思います。この事実で僕が問題に思ったことは結婚のことです。遺伝子診断をした結果、二人が同じ遺伝病を持っていたとしたらそれだけ発症率が高くなります。それが結婚の妨げの原因になる可能性もあり、差別につながるかもしれないからです。そういった意味での情報も問題になるでしょう。しかしこれから先、遺伝子治療がもっと発達していけば、それらの問題も乗り越えられるかもしれません。最後に思うのが誰しもがそういう可能性を持っていることを知って忘れないことだと思います。(工学部)

・自分が20個以上の遺伝病の保因者であるというのは信じられない。遺伝病は全人口に対して発症する割合が少ないので、深刻な問題だとは知りつつも自分が発症するとはとても思えなかった。遺伝病については全く知らない人がまだたくさんいると思うので、もっと多くの人に知ってもらわなければいけないと思う。自分もより深く理解を深めていく必要があると感じた。(法学部)

・人は皆20個以上の遺伝子病にかかる可能性を持っているということを聞き、非常に驚いた。それはそんなに多くの遺伝子病があるのかと思ったからだ。今まで私は糖尿病ぐらいしか知らなかった。これだけ多くの遺伝子病があるなか自分が健康でいられることはどれだけすごいことかを知ることもできた。 遺伝子解読がほぼ完了した今、個人レベルでの解読が情報として流出することが防げるかどうか問題ではないでしょうか。(法学部)

・人はそれぞれ20種類もの遺伝病を持っているのを知ってものすごく驚きました。僕にとって遺伝病とは別の世界にあるようなもので自分には関係がないものと思っていました。  この遺伝病たちを治すには遺伝治療が大切だと思うので遺伝の研究をもっと進めるべきだと思います。(法学部)

・「人は誰でも20個以上の遺伝病の保因者である」−と聞いて思ったのは、誰でも遺伝病を発病する危険があるかもしれない、ということです。遺伝病については高校の生物で習ったこともあり、大変興味のある部分です。  発病率が低いにしろ、遺伝子が元で起きてしまう病気は、現代の技術では完治は難しいと思います。この解決方法として、数年後には実現するであろう遺伝子治療が挙げられますが、個々人の持つ遺伝子が情報として保存できることによって、その悪用や差別などの悪影響も考えざるを得ません。これからは、遺伝子について単に学ぶだけではなく、その扱い方や考え方も同時に学んでいかなくてはならないと思います。(工学部)

===== レポートについてのコメント (by ARAKI) =====

・遺伝病に限らず、合成保存料や農薬など様々な発ガン物質の存在や、環境破壊、交通事故など、私たちはいつどうなるか分からない危険の中で生きています。いたずらに恐れてノイローゼになっては本末転倒ですが、そういう環境で生きているということは自覚しておいた方が良いと思います。また、遺伝病が特殊な病気ではないということも。

・いつも力の入ったレポートありがとうございます。確かに、生命科学や遺伝情報に関する法律の整備はまだ不十分だと思いますし、科学の発展にともない更新し続ける必要もあると思います。『これらの新しい知識や技術はその高い利用価値の反面、それまでの人間社会を一変させるほどの問題や危険性も持ち合わせています。それを人類にとって都合よく、真に便利な道具や手段として利用するために必要なルールとして、法律は大きな役割を担っている』という認識は正しいと思います。頑張って下さい。

・確かに現実の世界で「完全な人間」というものは存在しません。『イエスの遺伝子』(マイケル・コ−ディ著、内田昌之訳)というSFでは、キリストの遺伝子は完全無傷という設定になっていますが。

・レポートの中の、次の文の意味が不明です。『ひとつの遺伝病で保因者が10人1人などということはないと思うので、相当の遺伝病があるのかなと感じました。』 質問は、25万人に1人発症するまれな遺伝病の場合、250人に1人が保因者であり、そのような遺伝病が5000種類あるという講義内容を前提にしています。

・個々の遺伝病の発症機構が解明され、治療法が確立されれば、差別や本人の精神的苦痛も問題ではなくなると思います。

・遺伝性素因の有無によって生命保険会社が保険の掛け金を変えたり、就職や結婚を断られるという話は、いつ現実にそういう事件が起きてもおかしくないところまで来ています。確かに、社会的な権利保障を急ぐ必要があると思います。

・『体の病への過度な拒否反応が心の病につながる』というのは、とても良いスローガンだと思います。また、『遺伝病ではなく遺伝的特徴ととらえるべきだ』という主張にも賛成します。講義中にも、どんどん意見を言って下さい。ディベートが楽しみです。

・「我々」ではなく、「自分」が20個以上の遺伝病の保因者であるということを考えて下さい。あなたの子供が、遺伝病を発症することを想像してみて下さい。

・『イエスの遺伝子』(マイケル・コ−ディ著、内田昌之訳)というSFは、たったひとつの体細胞から人間の遺伝子すべてを解読できる装置“ジ−ンスコ−プ”の発明から始まる新しい世界を紹介しています。もちろんこれはあくまでSFですが、『個人レベルでの遺伝子解読』のスピードは、現実の世界でも急速に研究が進んでいます。究極の個人情報である『遺伝情報』の取り扱いには細心の注意が必要です。
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