2004年度 レポート第9回 回答集

熊本大学
生命資源研究・支援センター
バイオ情報分野
荒木 正健
Tel : (096) 373-6501, FAX : (096)373-6502
2006年 5月19日更新

2004年度 最前線の生命科学C レポ−ト第9回(2004年12月 22日実施)回答集

[ テーマ ]『プリオンは生物か非生物か』

[ 回答 ](全11人)

生物だと思う(3人)
・どっちかというと、プリオンは生物だと思っています。なぜなら、生物が以下の三つの定義がされているそうだからです。
(1)代謝をしている。つまり“生きている”という状態を維持する様に身体の中で様々な化学反応がまとまった系列として行われている、ということです。簡単に言うと栄養からエネルギーを取り出しそのエネルギーを使って栄養を朽取する、と言う様な事です。
(2)自己複製能を持っている。分裂する、増殖するなど、とにかく自分と同じ遺伝的性質を次世代に伝えて行く能力が有る事で、つまり子孫を残す事です。
(3)成長する。昨日と今日では少しずつ状態が変わって来る事で、大抵は大型化して行くことです。また環境要因に適応する為に自己改造を行うことも含まれています。
プリオンは全部持ってるんですから。生物ではないかなって思っています。 (文学部)

・私はプリオンは生物であると思います。確かにプリオンは蛋白質でありDNAも持っていませんが、一応脳内で増えていくため自己複製能力があるので、生物学上の定義で言えば生物になるのではないでしょうか。 (医学部)

・プリオンは実質生物でしょう。何らかの活動を行って実際に生き延びる、または増殖している物体は生物の範囲だと思います。そもそも、DNAをのあるなしで生物かどうかを決めるということ自体おかしなことだと思います。大体誰がどういった規準で決めたのでしょう。生命の尊さを考えてみるとDNAがあると生物である、という仕切りはあまりに適当というか、思い切りが良すぎると感じます。ここら辺り哲学に較べて科学は学問としては適当な感じがします。感情的に言えば、ぜったい奴らは生き物です。奴らには生に向かう何らかのプラスの意志が感じられます。ですから科学的に絶対な裏付けがなければDNAのあるなしによる生物の定義には承服できません。 (医学部)

生物ではないと思う(8人)
・蛋白質Aが蛋白質Bを変化させる。しかし蛋白質Aは反応において変化はしてない。これは過酸化水素水から酸素を生成する際の二酸化マンガン。つまり触媒に当たると思う。だからただ変化させるから、それが生物であるというのはおかしいと思う。
 質問なんですけど、prpscって何で直接脳に行くんですか?普通蛋白質って体の中に吸収する際一度細かくアミノ酸に分解しますよね?そしてそのアミノ酸を再び繋ぎ合わせて蛋白質を作るんですよね?じゃあなぜprpscは体内に存在するんです? (医学部)

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 食べた物が消化吸収される際に、トリプシンやペプシンなどのタンパク質分解酵素が重要な役割を果たします。ところが、変異型プリオンタンパク質はタンパク質分解酵素で分解されません。従って、そのまま体内に存在します。 (コメント by 荒木)

・生物と物質の違いがまず論点になっていくと思います。とりあえず、繁殖に依存があるのでウイルスと同じ立場で半生物というところでしょうか。あぁ、でもRNAやDNAといった遺伝子の設計図ももってないしなぁ。
 確かに、なんか、生き物に感染してくから生物に近しい存在かも・・・と思うとこがあるかもしれないけど、放射線とか外的な要因とかと同じ系列に捉えていいかもしれないと思います。というのは、プリオンの繁殖はなんか子孫とかを増やすという感じがしないからです。むしろ、感染された生き物が勝手にそうなってしまったって感じで、放射線を浴びてDNAが変性して違うものができるっていうのに似ていると思います。だから、生物じゃないと思います。 (医学部)

・僕は、プリオンは非生物であるという方に意見を傾けます。生物であるかどうかを考えるならまず生物の定義が問題になってくるけれど、講義で習った生物の定義からは、プリオンはかなり外れています。自己区画性もないし、固有の遺伝子も持っていません。ただ自己増殖能だけが生物に近い様相を呈していて、タンパク自身(自己の本体自身)が遺伝子の代わりとみなされているのでしょうか? 実質はそんな新しい概念が、生物の範疇に加えられるかという問題である気もします。
 ですが、物質のことだけを考えるのなら、僕にはそう新しい物事には思えません。確か有機化学で習ったのですが、物質には確か、協調性(共鳴性)というものがあります。言葉の正確な定義は忘れてしまいましたが、僕が知っている知識では、結晶パターンが感染?すると言うことです。物質に感染という言葉を使うのは少しおかしいので、確か協調性とか、共鳴、シンパシーなどの言葉が使われていました。
 一昔前に、酒石酸を結晶化させる研究で、どうしても異性体の酒石酸を結晶化できないという問題がありました。ですがある学者が偶然結晶化した異性体の酒石酸を発見し、それを同酒石酸の液体に加えたところそこでも結晶化が始まったというのです。プリオンの話は、それと似すぎているように思えてなりません。
複雑な構造のタンパクで同現象が起こるかどうかというのが泣き所ですが、ありえないことではないと思います。結晶化というわけではありませんが、凝集体を形づくるところが似ています。  ちなみにこの話の怖いところは、結晶体が発見されて研究が始まった矢先、いっせいに他の離れた研究室でも結晶化が起こるようになったということです。自分の知識もうろ覚えで、小説から読んだ話も入っているので、確かではないのですが。物質が共鳴していくのではないか、とあいまいな説明が書いてありましたが、同現象がプリオンで世界中に起こったら怖いですね。
 あまりに知識の出所が曖昧で、信憑性がないので、いくらか調べてきました。
 小説では、カート・ヴォネガット著、「猫のゆりかご」という話に出てきます。僕がもっと詳しく読んだのは別のものですが、実際には酒石酸エチレンジアミン(EDT)のようですね。グルコースの異性体でも同じ話があったように思うのですが、詳しく覚えておりません。この本は大学の生協内にありました。こちらの説明のほうが百倍くらい分かりやすいので、良ければ読んでみて下さい。アイス・ナインという通常とは別の氷の結晶型として話が出てきます。
 酒石酸エチレンジアミン(EDT)の結晶型が、第二次大戦中にある工場の成核剤が偶然からか異常型の結晶に汚染され、世界中の結晶型がすべて異常型に変化してしまった、という事件が実際にあったようです。結晶化のために成核剤というものをすでに用いていたようですね。プリオンの動向もこれにとても似ていると思います。
 ただ、タンパクはその環境上、動的なものであるらしいから、プリオンを生物とするとしたら、僕らの体には他の生物がいたるところに蔓延している、と言うことになりかねません。僕はやはりプリオンは非生物でいいのではないか思います。 (医学部)

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 プリオンの感染は物質の結晶化に似ているという指摘は重要です。参考図書として紹介した『死の病原体 プリオン』の最後の方で、この話が出てきます。是非一度読んでみて下さい。 (コメント by 荒木)

・私はプリオンは生物ではないと思います。なぜならプリオンは我々の体の中で恒常的に発現しているタンパク質で、当然核酸などは持っていないからです。 (医学部)

・私は「プリオン」は非生物だと思います。「プリオン」はあくまでもタンパク質だからです。生物は細胞から成り立っており、自己増殖能力、エネルギー変換能力、恒常性(ホメオスタシス)維持能力をもっています。「プリオン」はタンパク質でありながら自己増殖をするような挙動を示しますが、それはタンパク質が変異して蓄積していく過程がそのように見えるだけであって、生物としての自己増殖とは異なると思います。
 「死の病原体プリオン」を読みました。研究者達が「免疫反応を起こさない感染症」の謎解きをしていく過程がを知ることができて、おもしろくて一気に読んでしまいました。タンパク質でありながら自己増殖をするような挙動を示す「プリオン」、これが初めて発見された時は研究者達にとっても衝撃だったと思います。変異型プリオンがどのようにして正常なプリオンを変化させていくのか、そのメカニズムについて分子生物的にどこまでわかっているのか、興味を持ちました。 (理学部)

・私はプリオンを非生物だと思います。やはり核酸を持たないという点で生物ではないのではないでしょうか。遺伝子とはその生物が生物としてある為に必要不可欠な物質であります。また、冷凍しても加熱しても紫外線を照射しても不活性化しないことからこの物質が生物だとしたら私は信じられません。資料に記載されていたようにプリオンは自然発生しています。この自然発生した牛海綿状脳症の牛を肉骨粉にし、他の牛へ飼料として与えた為、爆発的に感染していきました。よって根本的には一個体の病気が原因であるので、プリオンを生物だというには現時点ではあまりに早計かと思います。
 しかし、セントラルドグマにおいてDNAからRNAへそしてタンパク質へという方向性がいわれていますが、逆転写酵素が発見されてこの方向に可逆性が示されました。このプリオンから「逆翻訳」のような物質が発見されるとしたのであれば、講義中での「プリオンは核酸を持たない生命体」という表現が正しいのかとも感じています。 (理学部)

・私はこの講義を受けるまでは狂牛病はウイルスによって引き起こされている病気なのだと思っていました。だからその狂牛病の原因のプリオン生物なのだとばかり思っていました。しかし、今回の講義でプリオンはもともと体内に存在していてそれが変異して病原型プリオンになり、それが増えることによってBSEになるということを聞いて驚きました。
 私は工学部で、専門知識も持っていないので、正直プリオンのことをあまりよく理解できなかったが、DNA、もしくはRNAを持たないのならやはり生物ではないのではないのかと思います。 (工学部)

・私はプリオンは非生物だと考えます。確か生命の定義は、細胞膜で包まれていること、自己増殖能を持つこと、DNAを持つこと、だったはずです。プリオンのアミノ酸構成から配列を読み取ることが出来れば、それはDNAを持っているのと同じ扱いをしてもいいでしょう。また、プリオンが、「アミノ酸から」自身を増殖させることができるのであれば、自己増殖能を持っていると言ってもいいでしょう。 しかし、現実そうではありません。ならば、非生物として扱った方がいいのではないでしょうか?人がいる限り増え続ける、とかではウイルスと大差ないわけですし。 (医学部)


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