2008年度 レポート第9回 回答集

熊本大学
生命資源研究・支援センター
バイオ情報分野
荒木 正健
Tel : (096) 373-6501, FAX : (096)373-6502
2009年10月29日更新

2008年度 最前線の生命科学C レポ−ト第9回(2008年12月4日実施)回答集

[テーマ]プリオンは生物か非生物か

[ 回答 ](全33人)

生物 <5人>

・私はプリオンは生物だと思います。DNAやRNAがないので生物ではないとも考えられるけど、増殖するのを考えると生物といってもいいと思います。
 カビや細菌などは微生物なのですか。微生物もDNA、RNAを持っているのですか。持っているから微「生物」というのですよね。 (工学部)
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 カビや細菌だけでなくウィルスも微生物と呼ばれます。ただし、ウィルスについては、微生物学者の中でも生物か非生物かは意見が分かれると思います。 (コメントby 荒木)

・厳密な「生物が生物たる定義」に従えばプリオンは生物ではないのかも知れませんが、僕自身の意見としては、プリオンはある意味生物と考えることができるのではないでしょうか。僕がそう思うのは、病原型プリオンタンパク質は連鎖反応によって増殖するという点を重く見ているからです。増殖のメカニズム自体は普通の生物とは全く異なりますが、「増殖する」という結果だけをとらえるならこれは全く生物と同じで、人類にとって大きな脅威であり、むしろウイルスなんかよりずっと厄介なものなのかも知れません。BSE対策が急がれるのはもちろんですが、感染牛発見からの年数を考えると相当数のBSE患者がいることも覚悟しないといけないのかな、と思います。 (薬学部)
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 私も「相当数のBSE患者がいることも覚悟しないといけない」と思います。私自身の可能性も含めて。 (コメントby 荒木)

・生物は以下の3点により定義されると考える。実体(自己と非自己の境界)があること、代謝があること、基本的に自己と同じものを複製することである。ここでプリオンについて考えてみる。プリオンはタンパク質であり、実体はあると考えられる。代謝は他の臓器と同様、行われている。他者への依存はあるが、自己も複製できる。したがってプリオンは生物だと考える。 (医学部)
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 「代謝は他の臓器と同様、行われている」という文章については、その意味がよく分りませんでした。少し補足して頂けるとありがたいです。 (コメントby 荒木)

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 プリオンはタンパク質ですが、そういった「タンパク質」と生物体内の普通の「細胞」及び「臓器」は同じようなものであり、代謝はするだろう、と勝手に考えていました。しかし、ご指摘を受けて、これらはそれぞれ関連はあるものの互いに異なるものであり同等に扱ってよいものではないと考えました。細胞は化学反応によって物質を合成したりエネルギーを得たりして、代謝を行います。臓器も多数の細胞が集まった組織により構成されるので、代謝します。しかし、タンパク質は単なるアミノ酸の連なりであり、物質やエネルギーを合成したりはせず、代謝を行いません。したがって、プリオン(プリオンタンパク質)は生物の定義を満たしておらず、生物ではないと考えます。…言葉の使い方や認識が非常に杜撰でした。失礼しました。
(コメントを受けたレポート第2報)
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 了解しました。 (コメントby 荒木)

・私は,プリオンは生物だと考える。プリオンを調べていくにつれて,哺乳類のプリオンなどが出てきたりして,生物であるとしか考えられなくなったったからである。 (工学部)

・プリオンは生物の体内に存在するので生物である。 (薬学部)
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 非常に興味深い意見ですが、この意見で相手を説得するのはかなり困難な気がします。 (コメントby 荒木)

非生物 <22人>

・プリオンは自己増殖したりと一見生物であるかのような働きを見せますが、その実体は単なる蛋白質の一種であり、生物とはいえないと思います。ただ人の体内で化学反応を繰り返した結果、体に悪影響を与える異常なプリオンが増えてしまっているだけであって、生き物の生命活動とは異なると思います。 (工学部)

・プリオンは、化学反応の範囲内においてほかの物質に対して相互作用を起こすことはできるだろうがその行動(反応)が生物の理由とはなると思えない。また、DNAを持たないため無性、有性においても生殖活動ができず己の性質を継がせることができない。このことよりプリオンは非生物だと考える。 (薬学部)
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 常識的な意見ですが、立派なレポートだと思います。 (コメントby 荒木)

・私はプリオンは生物ではないと思います。DNAもRNAもそれにあたる物質もないなら生物とは呼べないと思います。 (工学部)

・プリオンは無生物だと思います。生物か無生物かという定義についてはかなりいろいろな決め方の観点があり、難しいと思います。ウイルスはまだ自己を増やすために他の生物に依存しているため、生物だといわれてもわかるのですが、プリオンはたまたまぶつかったものが形を変えているように思えるので、生物だといわれてもなんとなく納得できないからです。 (薬学部)

・何年も何十年も症状を起こさないで潜伏したり、病原型プリオンタンパク質が正常タンパク質を異常な形に変えることで増殖するという点では非常に生物に近い気がする。しかし、病原型プリオンタンパク質はバクテリアやウイルスを一掃できるほどの熱、放射線、化学物質がまったく効かないので、一般に生物と言われているものとは違う気がする。また、生物学的に生物はエネルギー代謝を行うことも条件だということなので、プリオンは生物とは言えないだろう。 (医学部)

・この講義で初めて、プリオンをいう言葉を聞きました。生物の定義が、私の中であいまいなところがあるので詳しくはわからないのですが、私はプリオンは非生物であると思う。それは、プリオンには核をもたず、また普通の生命体にはない、自然発生という現象が起こる。自己増殖が可能であるという点からは、私たちと共通かも知れないが、それだけでプリオンが生物であるとは認められないと思う。 (工学部)

・プリオンは非生物だと思います。タンパク質ではあるが、DNAやRNAを持ってないこと、一般に生物と呼ばれる条件となる、(1)外界と自己を区別する仕切りをもつ、(2)物質代謝を行える、(3)エネルギー代謝を行える、(4)増殖して子孫を増やす、のうち(1)、(2)、(3)を満たしていない。また(4)も、プリオンそのものが自己増殖するわけではなく、正常なプリオンタンパク質を病原型に変化させて増殖するため、これも満たしてないと思われる。よって、プリオンは非生物である。 (薬学部)
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 良く書けていると思います。 (コメントby 荒木)

・私はプリオンは非生物だと考えます。プリオンというのは単なるタンパク質の一種であると思います。確かに脳をスポンジ状にするという説明をうけた時はまるでSF作品に出てきそうな地球外生命体のように感じ少し鳥肌がたちましたが物質(?)としてみるとタンパク質なので到底生物とはいえないと思います。 (工学部)

・私はプリオンは生物ではないと思います。何故なら癌と同類のものであり、生物の身体中で起こる一つの現象にすぎないと思っているからです。こういう細胞も生物として認めてしまったら、人間などは生物群体みたいなものと認識されるような気がします。 (工学部)
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 「生物の身体中で起こる一つの現象にすぎない」というのは、その通りかも知れません。 (コメントby 荒木)

・プリオンは非生物だと思います。ただ自己増殖するので限りなく生物に近い微生物だと思います。ただプリオンは核を持たないので生物とは言えないと考えます。 (工学部)

・私は、プリオンは生物ではないと思います。プリオンを生物とするなら、タンパク質も生物であるかのように思えるからです。 (教育学部)

・プリオンは自然発生したり、熱や放射線などにも影響を受けないので生物ではないのかなと思います。 (教育学部)

・私は非生物だと思います。確かに資料によるとプリオンが連鎖反応で増殖すると書いてあり生物みたいだが、プリオンは単一のたんぱく質ということなのでやはり非生物だと思います。 (工学部)

・プリオンは生物でないと思いす。タンパク質が生物だとは想像できません。 (工学部)

・私は非生物だと思います。プリオン自体は活動はなく、他の影響によって動くのは生物活動をしているとは言えないのではないか?と考えるからです。車などもそれ自体は動かないし、無害だけれども、人が動かすことによって事故など殺人も可能なものへと変わることと同じだと思います。 (工学部)
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 立派なレポートだと思います。 (コメントby 荒木)

・僕はプリオンは生物ではないと思います。生物の定義から外れている以上生物とするのはおかしいと思うからです。ですがDNAやRNAを持っていなくても一応『増殖』しているのだから増殖能力があるとも思います。現段階では生物とは思いませんが、このことが生物の定義を変えることがあるかもしれないとも思います。 (工学部)

・ 私は、プリオンは非生物だと思います。
 理由としてはまず、生物としての定義の問題があります。厳密内身での生物の定義は、自己増殖能力、エネルギー変換能力、恒常性維持能力という3つの能力があることです。恒常性維持能力は持つかもしれませんが、エネルギー変換能力はありません。またプリオンは増殖はしますが、正常型プリオン蛋白質を変質させるという形のため、それが「自己」増殖かというと疑問が残ります(汚染による増殖とも解釈できると思います)。
 そして、生物と非生物の境界線であるというウイルスが一般に生物ではないとみなす判断が多い、というのも理由のひとつです。
 こうして学術的な面から理由を述べてきましたが、私がプリオンを非生物だと思う一番の理由は、「私自身がプリオンを生物としてみなすことが出来ない」ということです。私には、感染能を持つタンパク質因子であるプリオンはあくまで生物の構成要素のひとつとしてしかとらえることが出来ません。 (工学部)

・プリオンはDNA を有してないので非生物だと思います。 (薬学部)

・プリオンは非生物だと思います。それはタンパク質の折りたたみの変換が原因だからです。しかし、他の生物にも感染するため、タンパク質だけどウイルスのように振る舞う特殊な物質だと思います。 (薬学部)

・狂牛病を引き起こすプリオンは、誰もが持つ正常なタンパク質がねじれて正常な働きをしなくなったもので、正常なプリオンタンパク質を異常な形に変えることで増殖するという点で、ガン細胞と同じようなものだと思うので、生物とは言えない。 (薬学部)

・私はプリオンは非生物だと思います。なぜならプリオンは増殖できないからです。数を増やしてるじゃないかと言われるかもしれませんが、牛海綿状脳症などにおけるプリオンは正常な蛋白質を変化させることによって増えています。これは増殖と言うよりも化学反応による変化と言ったほうが近いでしょう。だから、プリオンは生物ではないと思います。 (工学部)

・プリオンは非生物ではないかと思います。プリオンが感染性の病原菌とは言っても、正常な細胞のタンパク質が変異したものと考えれば、ある意味白血球と同じようなものではないかと思うからです。また、自然発生するという性質を持っていることも、私がそう考える事の一因となっています。 (工学部)

どちらとも言えない <6人>

・生物の定義については諸説あり、それによってウィルスを生物とする者としないとする者に分かれています。そこで、プリオンはどうなのか、というのが課題でした。生物の定義の一つに、自己と外界との境界を持つ、というものがあります。また一方で自己増殖することを定義の一つとするものもあります。その意味で現在生物の定義として挙げられているいくつかの条件は満たすのかもしれません。
 しかしそもそも、生物か非生物かという問い自体が適当なのか私にはわかりません。光が果たして波なのか、粒子なのか、人類が悩んだ末に得た結論は両方の性質を持つ素粒子である、というものでした。生物なのか、非生物なのか、それはつまり私達ヒトの存在そのものを根本から問い直しているのではないでしょうか。 (医学部)
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 立派なレポートだと思います。プリオンは生物か非生物かという問いが「光が果たして波なのか、粒子なのか」という問いに似ているというのはその通りだと思いますし、『プリオンは生物と非生物の両方の性質を持っている存在である』という回答も引き出せると思います。しかしながら、「生物か非生物かという問い自体が適当なのか」というのは、なかなか宗教的な、あるいは哲学的な重みのある意見ですね。私は今生きていると思っていますし、自分自身を生物だと思っていますが、それも実はあやしいということでしょうか?  (コメントby 荒木)

・プリオンはDNAやRNAなどの核酸を持たないタンパク質である。これまでの生物は核酸を次世代に受け継ぐことで種を保存してきた。このプリオンは確かに核酸を持たないが連鎖反応によってできる病原型という形の自己を未来に残し食物連鎖に紛れ込んで広めるという手段を持っている。
 しかしこれが生物だとしたら、生物から他生物ができるという新しい概念が成立してしまいこれまでの生物学の歴史が覆ることになるような気もする。なのでプリオンは生物という枠ではなく“準生物"などの新しい格付けをしてもよいのかもしれない。 (薬学部)
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 確かにプリオンを生物だと考えると、非生物(細胞型プリオンタンパク質)が生物(病原型プリオンタンパク質)に変わるという事になります。まるで死者がゾンビになるみたいですね。でも冗談では済まされないかも知れません。 (コメントby 荒木)

・プリオンは純粋な生物では無いと思います。確かに増殖を繰り返しますが、それはドミノ倒しのような連鎖反応であって、ドミノの駒となる生命体の繁殖要素を自分では持っていません。いわば他者依存型であり、自分と同じ正確な形質を受け継がせていないことになります。ただこの世の全てを一つの枠で括ろうとすると綻びが生じるように、プリオンを生物で無いと言い切れないのも事実です。 (医学部)

・プリオンはウイルスだ。ウイルスが生物に属するか知らないが、HIVウイルスと似ていると思った。潜伏期間が長く感染する病原体であるから。狂牛病は厄介な病気だが、アメリカ産牛が輸入されなくなったら今日の私たちの食生活において石油危機やガソリン高騰と同じ現象が起きてしまうであろう。 (教育学部)
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 ウィルスはDNAまたはRNAのゲノムを持っていますが、プリオンはタンパク質ですのでウィルスではありません。しかしながら、狂牛病などのスポンジ脳症の原因となる病原体が、実はプリオン(タンパク質)ではなくて未知のウィルスである可能性も否定出来ません。講義中に紹介した「もう牛を食べても安心か」(福岡 伸一著、文春新書、242ページ、720円)も、そういう観点から書かれた本です。 (コメントby 荒木)

・プリオンが実際にBSEなどの病原かどうかは定かでないが、それが生物か非生物かは大きな問題とも思えない。どちらにしろ警戒すべきなのは同じだ。 (医学部)
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 確かにその通りです。 (コメントby 荒木)

・生物の主要な構成成分は水、タンパク質、脂質、炭水化物、 核酸であるのにプリオンはタンパク質は持っているものの核酸がないため成分的には非生物だといえると思います。生物だというにはやはりDNAもしくはRNAのようなゲノムが必要であると思います。
 しかし、自然発生し、他の細胞へと侵入することができる。この点は生物であるといえるのではないかと思います。 (教育学部)
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 「自然発生」に関しては、通常は非生物であると主張する場合の根拠のひとつになります。つまり、「生物」は「生物」からしか生まれないと考えられているからです。しかしながら、『それでは最初の生物は何だったのか?』という疑問に必ず行き着きますので、どちらとも断言は出来ないと思います。 (コメントby 荒木)


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