2003年度 教養科目
I 自然と情報  生命科学G
−−夢の技術PCR−−

熊本大学
生命資源研究・支援センター
バイオ情報分野
荒木 正健
熊本市本荘2−2−1
Tel : (096) 373-6501, FAX : (096)373-6502
2004年 4月15日更新


2003年度期末テスト

 今年度の期末テストを2004年2月18日(水)に行いました。昨年に引き続き公開します。なお、事後承諾になってしまったのですが、記事の一部を使用させていただいたBiotechnology Japan Webmasterの宮田 満氏に連絡し、ホームページ掲載に関して快諾を得ることが出来ました。この場を借りて御礼申し上げます。

回答集
<肯定派;13人>
<否定派;2人>

======= 生命科学G 2003年度 定期試験 =======

(問 題)

 『BTJ /HEADLINE/NEWS 2004/02/12 SOLUTIONS 第495号』に掲載された下記文章を読んで、設問に答えて下さい。

 韓国の新聞が今朝、スクープをしてしまったため、「クローン胚盤胞由来のヒトES細胞誕生」のニュースが世界を飛び回っています。これはわが国が事実上、実験を凍結しているTherapeutic cloning(治療目的の体細胞クローン)が、お隣の韓国で実現してしまったことを意味します。
 ヒトの体細胞核を、ヒトの卵子に核移植し、発生させた胚盤胞の内部細胞塊から、ヒトES細胞株を樹立しました。まだ、完全に単為発生を否定してはいませんが、ほぼ完璧に総ての細胞へ分化発生する能力を持つ、ヒトES細胞が樹立できたと考えて間違いはないでしょう。簡単に言うと、私の体細胞から核を取り出し、私と同じ遺伝情報を持つES細胞を作製できる、つまり、拒絶反応の心配なく、細胞を移植できる可能性が拓けたのです。まだ、すい臓や肝臓などの組織に自在に細胞を分化させることは、尚研究が必要ですが、他人の死や機能低下を前提とした臓器移植医療とは次元の異なる再生医療への期待が膨らみます。
 わが国のヒトES細胞研究のリーダーの一人である理化学研究所発生・再生科学総合研究センター幹細胞研究グループ・ディレクターの西川氏は「私はこの論文を読みましたが、優れた論文だと思います。様々な条件をちゃんと検討して、クローン胚を発生させる条件を決め、ES細胞を樹立しています。また、その分化能も検索できています。唯一、卵と同じドナーの卵丘細胞を核のソースとして使ったため、本当にクローンかというような議論は今後起こるかもしれません。ただ、アメリカのMichael Westらの雑な仕事と比べると信頼が置けます。驚く点は、この研究目的で卵の提供が行われたことで、これはそれぞれの国の問題でしょう。最後に、患者さんにとっては、どこで行われようと朗報で、マウスで想像されたスキームが人でも使えることが明らかになった事は大きなことだと思います。これから、日本でやるかどうかなどはもう科学者の手を離れ、議会などで決めることだろうと思います」と指摘しています。
 英国ではTherapeutic cloningが認められています。ここまで科学的事実が集まったらわが国でこの技術を臨床に使うべきか、またどう使うべきか、国民的な合意形成を行う時期が来たと私も思います。
 2月13日のScience誌にヒトのTherapeutic cloningの論文は掲載されます。歴史的な論文となるはずです。どうぞご一読下さい。韓国国立ソウル大学のMoon教授が率いるチームがこの成果を出しました。韓国の再生医療の水準は国際レベルです。特に、体外受精治療の予備に凍結保存された卵子を200個以上、ボランティアから集めたことが、実験の成功の原因となった詳細な培養法、初期化の条件などの検討を可能にしました。最先端のバイオ研究には市民の理解と応援が不可欠であることを示しています。
 昨年8月に神戸で開催したバイオビジネス国際フォーラムにMoon教授を招聘、ヒトES細胞研究の最先端を講演していただきました。このフォーラムでもっとも集客に苦労したのがMoon教授だったことを、今、苦笑いして思い出しています。科学は今や全地球レベルで進展しています、いつまでも欧米信仰ではいられません。特にヒトES細胞には文化的な背景によって米国のように制約を受ける場合もあります。意外にアジアの寛容さが研究を進めるエンジンとなるかも知れません。

(A)この記事を読んで感じた第1印象を書いて下さい。

(B)このヒトクローン胚を女性の子宮に戻せば、クローン人間の誕生につながる可能性があります。一方で、拒絶反応の無い移植治療が可能になり、再生医療が飛躍的に進歩することは間違いありません。あなたは、この『Therapeutic cloning(治療目的の体細胞クローン)』の研究をどう思いますか?

(C)仮に『Therapeutic cloning』の技術が確立し、再生医療の一般的な手法になった世界を想像して下さい。当然ながら、ヒトの卵子が大量に必要になり、『体外受精治療の予備』では不足すると考えられます。もしかしたらヒトの卵子が売買されるかも知れません。あなたはこの問題をどう思いますか?

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回答集
<肯定派;13人>
<否定派;2人>


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