2007年度 教養科目
I 自然と情報  最前線の生命科学C
−−夢の技術PCR−−

熊本大学
生命資源研究・支援センター
バイオ情報分野
荒木 正健
熊本市本荘2−2−1
Tel : (096) 373-6501, FAX : (096)373-6502
2008年 7月26日更新


2007年度期末テスト

 2007年度の期末テストを2008年2月14日(木)に行いました。ホームページへの掲載について本人の同意を得ています。大変遅くなりましたが、昨年に引き続き公開します。なお、今回も、この講義に対する評価及びアドバイスを含めて公開することにしました。

回答集
<回答集1>
<回答集2>
<回答集3>
<回答集4>
<この講義について>

======= 最前線の生命科学C 2007年度 定期試験 =======

(問 題)

 [1]次の記事を読んで、設問に答えて下さい。

蚊を絶滅させるための「遺伝子組換え蚊」   WIRED VISION
2008年1月29日 Alexis Madrigal [日本語版:ガリレオ-天野美保/高橋朋子]

 イギリスのバイオテクノロジー企業、Oxitec社の研究者たちが、若いうちに死ぬようプログラムした遺伝子組換え蚊によって、デング熱(別紙参照)の蔓延を抑制できる確証を得たという。
 デング熱は、蚊が媒介する感染症だ。マラリアが農村部でよく発生するのに対し、デング熱は主に発展途上国の都市部を襲う。
 Oxitec社によると、オスの遺伝子組換え蚊を作って自然界に放ち、野生のメスと交配させることで、蚊の個体数を大幅に減少させることができるという。これらの蚊から生まれた子には、生殖機能が発達する前に死ぬ致死遺伝子が組み込まれているのだ。Oxitec社はワイアード・ニュースの取材に対し、最新のテスト結果から、遺伝子組み換え蚊は野生の蚊と同じように繁殖できることがわかったと述べている。同社の主任研究者Luke Alphey氏は次のように語った。「デング熱は、その媒介蚊を特に大都市部で制御することで抑制できる。それによって、非常に多くの人々をデング熱から守ることが可能だ」
 米疾病管理センター(CDC)によると、蚊の媒介によってデング熱に感染する人は年間で最大1億人に上り、うち最大500万人が死亡するという。今回のテスト結果を実際の環境で再現できれば、デング熱を媒介するネッタイシマカの次世代の半数を殺すことが可能になり、デング熱の蔓延を有意に抑制できると研究者たちは述べている。順調に行けば、Oxitec社は3年後にマレーシアで遺伝子組換え蚊を大規模に放す計画だ。
 Oxitec社の公衆衛生担当責任者S.S. Vasan氏が寄せた電子メールによると、同社の最新調査結果は、今年2月にインドのプリで開催される『第9回媒介生物およびその媒介疾患に関する国際シンポジウム』で発表される予定だが、その中にはマレーシア保健省の医学研究所が独自に行なった評価のデータも含まれるという。そのデータは、野生のメスの蚊の最大50%が、Oxitec社のオスの遺伝子組換え蚊と交配したことを示すものだ。
 Oxitec社の研究には、世界の経済界も関心を寄せている。同社は今年の世界経済フォーラム(ダボス会議)(1月23日〜27日)において、『テクノロジー・パイオニア』企業39社の1つに選出された。米Microsoft社会長の慈善団体、ゲイツ財団の『世界の健康に関する世界的課題』プロジェクトは、Oxitec社に対し今後5年間に500万ドルを提供する。さらに同社は、米East Hill Management社と英Oxford Capital Partners社から数百万ドルのベンチャー投資も受けている。
 Oxitec社の技術は、「不妊虫放飼法」(別紙参照)という実績ある手法をアレンジしたものだ。不妊虫放飼法とは、北米でラセンウジバエやチチュウカイミバエの駆除に以前から使用されているもので、対象となるオスのハエに放射線を照射して、不妊になるような突然変異を起こさせる。不妊のオスを自然界に放すと、メスと交尾するが子は生まれない。
 だが、この手法は蚊には用いることができない。必要な放射線を照射すると、蚊は死んでしまうからだ。そこでOxitec社のAlphey氏は不妊虫放飼法に改良を加え、一般的な抗生物質であるテトラサイクリンを与えなければ死ぬように、蚊の遺伝子を組換える方法を突き止めた。
 テトラサイクリン投与によって死ぬ時期を遅らせることにより、遺伝子組換え蚊を、大量に繁殖するまで生かしておくことができる。野に放たれた後の遺伝子組換え蚊はテトラサイクリン投与を受けないため、それまで沈黙していた遺伝子が活動を始める。これらの蚊は野生のメスと交尾するまで生きられるが、交尾によって生まれた次の世代は、生殖機能を持つ前に死ぬ。
 つまり、これらの蚊は遺伝子的に毒された状態だが、野に放たれるまでは解毒剤で延命されるわけだ。
 「この方法を使えば、殺すにせよ不妊化するにせよ、昆虫を好きな状態にできることがわかった」とAlphey氏は言う。
 感染症抑制手法には、上述の遺伝子組換え手法とは異なるアプローチで研究されているものもある。いわゆる「個体群置換」だ。この手法は、デング熱を媒介しにくい蚊の個体群を作り、それを自然界の蚊の個体群と入れ替えることで、デング熱の人への感染を防ごうとするものだ。
 対するOxitec社の手法では、遺伝子組換え蚊は死滅するようプログラムされており、既存の個体群に取って代わって増え続けるわけではないため、一部の研究者からは、個体群置換より問題が少ないと考えられている。だが、遺伝子組換え作物を開発している米Monsanto社といった企業と同様に、Oxitec社は警戒心を抱く人々から激しい批判を受ける可能性がある。特に、環境保護団体『Greenpeace』は、自然界に放たれる可能性のある生物の遺伝子組換えに反対している。
 技術の監視団体『ETC Group』のJim Thomas氏は次のように述べている。「遺伝子組換えで殺し屋となった蚊を自然の生態系に大量に放すことは、危険な技術を、無謀で制御不能なやり方で実験するようなものだ。Oxitec社(のプロジェクト)は、蚊を放った後にその封じ込めや回収が必要になる可能性を想定しているふりさえしていない。問題が発生した場合に、同社はどんな法的責任を負うつもりなのだろうか。」
 Thomas氏はさらに、Oxitec社の技術の核心部分――テトラサイクリンを使った寿命制御――にも疑問を呈している。「この技術は、蚊が自然界ではテトラサイクリンを摂取できないことを前提としているが、テトラサイクリンは自然界にいる土壌バクテリアから作られるもので、農業にも広く使用されている」とThomas氏は述べた。『有機消費者協会』(Organic Consumers Union)の責任者、Ronnie Cummins氏は、「害虫駆除のために遺伝子組換え昆虫を用いれば、その先に待っているのは文字通りの惨事だ」と電子メールで述べている。
 だが、Oxitec社のAlphey氏は、この手法のメリット――デング熱を抑制できると同時に殺虫剤の使用量を減らせる可能性がある――を訴えることで、人々の抵抗をなくせると考えている。「どんなメリットがあろうと、この方法を全く受け入れない人は必ずいるだろう。だが、一般の人々はマラリアやデング熱といった疫病について知っている。それらの疫病が望ましくないものであることも。彼らは、(われわれのような)人間がやろうとしていることの意味をよく理解している」とAlphey氏は述べた。
 Alphey氏とともに綿花につく害虫の研究を行なったことがある、カリフォルニア大学リバーサイド校の昆虫学者Thomas Miller氏は、現在行なわれている蚊の抑制方法はどれも適切でないと話す。
 通常は、殺虫剤を使用したり、幼虫が孵化する水溜りを取り除くなどの方法が取られている。だが、デング熱の媒介蚊が生息する都市部では、空き缶やスペアタイヤ、溝などの小さな水溜りを完全になくすことは困難だ。寝床に蚊帳を吊るすといったローテクな手法が、蚊の個体数を減らさずに蚊媒介性感染症の発生率を低下させる効果を発揮しているとは言っても。
 Oxitec社は現在、ミバエ、ワタキバガの幼虫、コドリンガの遺伝子組換えにも取り組んでいる。

(問1) この記事を読んで最初に何を感じましたか? 第1印象を書いて下さい。

(問2) 講義中に説明した「カルタヘナ議定書」や、「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」(カルタヘナ法)は、生物多様性の確保を最大の目的としています。しかしながら、この記事にあるように、人間にとって害になる存在(生物)は、絶滅させた方が良いという考え方もあります。遺伝子組換え生物を使うかどうかは別として、害虫の駆除やウイルスの根絶を目的とした「不妊虫放飼法」についてどう思いますか?

(問3) 「遺伝子組換え蚊」の様な遺伝子組換え生物を自然界に放すことに関してどう思いますか?

(問4) 地球温暖化によって、これまで熱帯あるいは亜熱帯地方で流行していた伝染病が、日本など現在の温帯地方にも広がることが懸念されています。つまり、デング熱やマラリアは、決してヒトゴトではありません。そこで、もし仮にあなたが日本の政策を決定する立場にあるとしたら、どのような対策に力を入れますか?

[2] 今年度、この『最前線の生命科学C』を受講して良かったと思いますか? あるいは受講したことを後悔していますか? その理由も書いて下さい。そして、もしあなたが私(荒木)の立場だったらどんな講義をするか考えて、来年度の講義の参考になるアドバイスを書いて下さい。

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