第14回生命資源研究・支援センターシンポジウム

「遺伝子改変技術を用いた雄性不妊モデルマウスの開発と機能解析」 

  大阪大学微生物病研究所附属遺伝情報実験センター遺伝子機能解析分野 藤原 祥高 先生

 細胞には、様々な種類の膜タンパク質が存在し、細胞内外の環境を調節するなどの重要な役割を担っている。その中でも、GPI (glycosylphosphatidylinositol)と呼ばれる糖脂質を介して細胞表面に局在するGPIアンカータンパク質は、真核生物において広く保存され、哺乳類では100種類以上存在することが知られている。そして、近年GPIアンカータンパク質の細胞膜からの遊離が、重要なイベントであることも明らかになってきた(1)。その一方、生殖細胞においても、GPIアンカータンパク質が複数存在するにも関わらず、その生理機能はほとんど分かっていなかった。

 そこで、ヒトやマウス精子に存在し、抗体による受精阻害が報告されている雄性生殖細胞特異的なGPIアンカータンパク質TEX101(testis expressed gene 101)に着目し、遺伝子改変マウスを用いて機能解析を行った。その結果、TEX101欠損マウスは雄性不妊を示し、その原因が精子の雌性生殖路内での移行障害であることが分かった。さらに詳細な解析から、TEX101は血圧調節で有名なACE(angiotensin I converting enzyme)によって精子形成期に細胞膜から遊離することが、精子受精能にとって必須であることも明らかにした(2)。また、TEX101と複合体を形成するGPIアンカータンパク質LY6K(lymphocyte antigen 6 complex, locus K)欠損マウスも、TEX101欠損マウスと同様の表現型により雄性不妊を示すことが分かった(3)。これらの表現型の主原因である精子膜タンパク質ADAM3(a disintegrin and metallopeptidase domain 3)についても紹介したい。他には、ゲノム編集ツールCRISPR/Cas9を用いた遺伝子改変マウス作製法の開発や機能解析にも取り組んでおり、その近況についても報告する(4, 5)。

 今後も、これまで培ってきた遺伝子改変を目的とした「発生工学技術の開発」と「雄性不妊モデルマウスの作製と機能解析」を研究の両輪として推進し、男性不妊の病態解明や診断・治療法の確立を目指して研究を行っていきたい。

1. Fujihara Y and Ikawa M. GPI-AP release in cellular, developmental, and reproductive biology. J Lipid Res. 57(4):538-45. 2016

2. Fujihara Y et al. Expression of TEX101, regulated by ACE, is essential for the production of fertile mouse spermatozoa. PNAS. 110(20):8111-6. 2013

3. Fujihara Y et al. GPI-anchored protein complex, LY6K/TEX101, is required for sperm migration into the oviduct and male fertility in mice. Biol Reprod. 90(3):60. 2014

4. Miyata H et al. Genome engineering uncovers 54 evolutionarily conserved and testis-enriched genes that are not required for male fertility in mice. PNAS. 113(28):7704-10. 2016

5. Fujihara Y et al. Human globozoospermia-related gene Spata16 is required for sperm formation revealed by CRISPR/Cas9- mediated mouse models. Int J Mol Sci. 18(10):2208. 2017