第3回 KBRP ワークショップ

「メダカを用いて性決定遺伝子進化の謎を探る」 

  基礎生物学研究所バイオリソース研究室 特任教授 成瀬 清 

 多くの生物は「オス」と「メス」という2種類の性を持つ。脊椎動物の多くは遺伝的なメカニズムによって性が決定しているが、ワニやカメなどでは胚期の孵卵温度によって性が決まると言うことが明らかになっている。魚類や両生類・は虫類の一部では性を転換する種も存在する。遺伝的性決定システムではXX-XY(オスヘテロ型)とZZ-ZW(メスへテロ型)がある。脊椎動物において最初に見つかった性決定遺伝子は1990年に哺乳類(マウスとヒト)で発見されたSry(Sex-determining region Y)である。Sryは哺乳類全般に保存されている性決定遺伝子で、その遺伝子を持つとオス方向へに分化が起こる。Sry遺伝子はHMG boxをDNA結合ドメインにもつ転写因子であり、X染色体上に存在するSox3(SRY-related HMG-box3)遺伝子の対立遺伝子であったと考えられている。脊椎動物第2の性決定遺伝子はメダカで発見されたDMY/DMRT1-Ybである。DMY遺伝子はDM(doublesex and mab-3-related transcription factor)ドメインをもつ転写因子である。 DMYが発見された当時は、哺乳類と同様にこの遺伝子は魚類の多くに保存されているのではと考えられ、その探索が行われた。しかし驚いたことにDMYはメダカとその姉妹種であるハイナンメダカでのみで保存されており、他のメダカ近縁種にはDMY遺伝子そのものも存在しないことが明らかとなった。 さらにメダカ近縁種の性決定システムと性染色体を同定したところメダカ属にはXX-XY型とZZ-ZW型の性決定システムが存在し、性染色体も種によって異なることが明らかとなった。一連の研究から脊椎動物の性決定遺伝子は種によって異なり、Sryのように多くの種で共有されている遺伝子の方が希であることも明らかとなってきた。今回のセミナーではメダカ近縁種の性決定遺伝子の同定を通じて明らかになってきた性決定遺伝子の進化プロセスについて考えていきたい。