第14回生命資源研究・支援センターシンポジウム

「脊椎動物の胚発生における栄養素の代謝動態と器官形態形成への役割」 

  ハーバード大学医学部 Olivier Pourquie Laboratory 荻沼 政之 先生

 代謝は生命現象の中心であり、細胞の恒常性の維持、増殖等の基本現象に必須である。代謝研究は成体の病理学の観点からの研究が進んでいるが、発生中の胎児がどのように栄養素を取り込み代謝され、どのように発生過程に寄与するのかはほとんど分かっていない。哺乳類では、胎児への栄養供給は胎盤を通じて行われており、妊婦の栄養状態の胎児への影響は、偏食が進んだ現代社会において重要な課題だが未知な部分が多い。そこで我々は脊椎動物の発生過程の一つであり、体幹部の脊椎・筋肉の原基である体節形成過程を栄養・代謝の観点から研究した。

 体節形成は胚の後方端における未分節中胚葉の産出を伴う胚の後方伸長と、未分節中胚葉の周期的分節化の2つの過程から成り立ち、Wnt/Fgf/Notchという3つのシグナル経路によって制御されることが知られている。我々はまず体節形成過程における代謝状態を包括的に調べるために質量分析法を用いたメタボロミクス解析と高感度マイクロアレイ法を用いたトランスクリプトーム解析を行った結果、エネルギー代謝経路が体節形成過程において動的に変化していることを発見した。未分節中胚葉の後方では解糖系が盛んであり、一方、ミトコンドリア呼吸は前方で増加するという、相反的な勾配を作成していた。次に代謝経路の機能阻害実験から解糖系は胚の後方伸長に必要なのに対して、ミトコンドリア呼吸は体節形成に必要なことが分かった。興味深いことに、未分節中胚 葉後方の解糖系は癌細胞で観察される特徴的な代謝状態と一致しており、「ワールブルク様勾配」と名付けた。驚くべきことに、癌細胞における解糖系は細胞増殖を促進するのに対して、胚の解糖系は細胞増殖にほとんど関与しておらず、既知の発生機構であるWnt/Fgfシグナル経路と協調して未分節中胚葉の細胞運動、細胞分化を制御していた。以上の結果から、胚発生中における栄養素の代謝は組織特異的であり、細胞の恒常性の維持・増殖等の基本現象の制御を超えた機能を持ち、既知の発生機構と協調して胚のパターン形成、細胞分化に積極的に関与していることが分かった。

 本シンポジウムでは上記の研究成果に加え、古いようで全く新しい研究テーマ「代謝と胚発生」の今後の展望について議論したい。