第14回生命資源研究・支援センターシンポジウム

「造血器悪性腫瘍におけるエピゲノム制御異常の解明に向けて(多発性骨髄腫を中心として)」 

  ダナファーバー癌研究所 メディカルオンコロジー分野 大口 裕人 先生

 多発性骨髄腫は、B細胞の最終分化段階である形質細胞の性質を有する悪性腫瘍であり、血液悪性腫瘍中2番目の頻度である。多発性骨髄腫の治療成績は、21世紀に入り、プロテアソーム阻害薬、免疫調整(IMiDs)など新規治療薬の導入により飛躍的に向上したが、未だに治癒は期待できず、新たな治療ターゲットが模索されている。多発性骨髄腫の発症、進展には、まず、非腫瘍性のクローナルな形質細胞の増殖段階であるMGUS、続いて、無症候性骨髄腫、さらに症候性骨髄腫へと進む多段階モデルが考えられているが、その病態には、遺伝子学的な変化に加えて腫瘍微小環境からのシグナルが関わり、それに伴うエピゲノム変化も重要な役割を果たす。我々は、骨髄腫細胞におけるヒストン修飾酵素の役割を検討してきた。そして、骨髄腫細胞において、ヒストン脱メチル化酵素KDM3Aの発現がこの疾患の進展とともに上昇すること、また、骨髄間質細胞からの刺激で誘導されることを見出した。KDM3Aは、H3K9脱メチル化依存的に転写因子KLF2およびIRF4の発現を制御し、これら転写因子ネットワークと協調的に機能することで骨髄腫細胞の生存、維持に関わることを明らかにした。この結果は、エピゲノム制御因子と転写因子ががん種特異的ネットワークを形成することを示した。また、もう一つのヒストン脱メチル化酵素KDM6Bも骨髄間質細胞により骨髄腫細胞で誘導され、骨髄腫細胞において重要な経路であるMAPK経路関連遺伝子を制御し、骨髄腫細胞生存を維持することを明らかにした。この機能は酵素活性非依存的であり、ヒス トン脱メチル化酵素の多機能性を示した。今後さらに骨髄微小環境が骨髄腫細胞に引き起こすエピゲノム変化をゲノムワイドで解析し、その生物学的意義を明らかにしたい。

 ダウン症は、21番染色体トリソミーに起因する症候群であり、人類で最多の先天性遺伝子疾患である。その頻度は高齢期出産の増加に伴い、増加傾向にあるものの、未だ根本的な治療法は確立されていない。ダウン症では精神遅滞、先天性心疾患を始めとした多様な合併症が問題となるが、血液学的異常として、急性白血病、特に急性巨核芽球性白血病の高率な発症を認める。この白血病は、21番染色体トリソミーの存在を背景に、GATA1遺伝子変異を獲得後、一過性異常骨髄増殖症を発症、さらに、コヒーシン、CTCFやエピゲノム制御因子である EZH2などの遺伝子変異が付加されることで発症するが、なぜ21番染色体トリソミーが血球前駆細胞でX染色体上のGATA1遺伝子に特異的な変異を誘導するのか、21番染色体上の遺伝子群とGATA1変異、さらに付加されるドライバー変異がどのように協調して白血病を引き起こすか、また、その過程で引き起こされるゲノミック、エピゲノミックな変化については今のところ十分に解明されていない。これらの分子機序の包括的な解明を目指していきたい