プロテオミクスによる脳疾患研究へのアプローチ
〜脳腫瘍、神経細胞死に関連する分子の解析〜
荒木 令江

熊本大学 大学院医学薬学研究部 腫瘍医学分野

 ヒトゲノム配列決定完了によって、約3万〜4万個の遺伝子がヒト染色体に存在することが判明した。そのうち約500個の遺伝子が脳神経筋疾患に確実に関連する遺伝子として報告されている。これらの遺伝子の作る正常蛋白質群は、細胞生存、細胞死や細胞周期、細胞分化や器官形成などの重要な生理的シグナルの調節に必要不可欠な役割を果たしており、これらの関わる細胞内シグナルのマップは一つの模式図に書ききれないほど複雑化してきている。このような生理的な細胞現象を、一つ一つの分子を別個に調べて各分子の側から説明するのではなく、全ての細胞内発現蛋白質を網羅的に時間軸を追って解析し、如何にトータルとしての機能制御が行われて生物活動が成り立っていくのかを調べていくこと、そして、如何なる細胞内蛋白質群のどの様な変化がおきて正常の細胞活動が破綻し、病態をprogressさせて行くのかという網羅的な情報を得ること、即ちこれらを全て含む病態プロテオミクスが注目されている。我々は、ヒト及びマウス脳神経系組織・細胞蛋白質の2次元電気泳動によるプロテオームマップの作成と、ゲノムデータベースとリンクしたニューロプロテオミクスデータベース構築を行っている。これらの情報を基礎に、2D-DIGE法(fluorescence difference gel electrophoresis;2重蛍光標識法を用いた2次元電気泳動)とcICAT法(cleavable Isotope-Coded Affinity Tags;安定同位体を標識したタンパク質のLC-MSによるショットガン的同定法)によるdifferential proteomic display、及びaffinity cellular proteomic mappingによる細胞内結合タンパク質の機能プロテオーム解析を行い、脳疾患、特に脳神経系腫瘍、変性疾患に関わるものを中心に病態発症メカニズムの解明、疾患の治療や予防法開発を目的とした病態プロテオミクスを展開している。本シンポジウムでは現在我々が検討しているp53ノックアウトマウスを用いた虚血性神経細胞死に関連する蛋白質の検索、2D-Immuno-Blotting を用いた自己免疫性脳変性疾患の標的蛋白質の検索、及び神経系腫瘍関連分子と関連して結合分子群の解析による腫瘍化に関連する細胞内シグナルの解析などを中心に、病態解析におけるプロテオミクスの現状と問題点、将来の可能性について報告する。

「参考文献」
1.荒木令江「脳疾患の病態プロテオミクス」"注目のプロテオミクスの全貌を知る!" 磯辺俊明・高橋信弘編集、洋土社, 実験医学別冊pp152-164, 2002.
2.荒木令江「in vitroラベル法」オンラインLC-MS法による発現プロファイル解析“決定版!プロテオーム解析マニュアル〜発現解析・機能解析の最新プロトコールからデータ整理,トラブル対処法まで” 磯辺俊明・高橋信弘編集, 羊土社 2004, 3月発行
3. 荒木令江・戸田年総 編集“疾患プロテオミクスの最前線”MedicalDo社、遺伝子医学別冊, 2004, 5月発行予定
4. Kimura, Y. et al. Nature Medicine, 4(8);915-922, 1998.
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12. Feng L. et al. FEBS Letters, 16;557(1-3):275-282, 2004.


熊本大学 生命資源研究・支援センター 遺伝子実験施設,
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