遺伝子実験について熊本大学 生命資源研究・支援センター 動物資源開発研究部門バイオ情報分野 助手 吉信 公美子 今からちょうど50年前、ワトソンとクリックがDNAの二重らせん構造を発見しました。そして現在、遺伝子組換えやDNA増幅など遺伝子技術の進歩により、私たちはDNAをある程度自在に操作し、DNAに秘められた情報を引き出すことが可能になりました。では実際に、どのような手法で『DNAを操作』するのでしょうか? また、DNAを操作することで何がわかるのでしょうか? 遺伝子実験の手法や遺伝子実験をとりまく環境についてお話します。 |
|
組換えDNA実験指針の概要熊本大学 生命資源研究・支援センター 動物資源開発研究部門バイオ情報分野 助教授 荒木 正健 文部省と科学技術庁の統合に伴い、それまで二本立てであった「組換えDNA実験指針」が一本化されるとともに、内容も一部で大きく改訂された。その最も大きな変化が「教育目的組換えDNA実験」というカテゴリーの導入である。これまでの「組換えDNA実験指針」は、大学や企業などの研究機関を主な対象として記述されていた。しかしながら今回の指針では、中学・高等学校等の学校教育機関はもちろん、博物館などの社会教育機関でも一般社会人を対象として「教育目的組換えDNA実験」を行うことが可能になった。 この講義では、平成14年1月31日に公表され、平成14年3月1日から施行されている『組換えDNA実験指針』の内容を簡単に紹介し、熊本大学において組換えDNA実験を行うために必要な手続きと、中学・高等学校等の理科実験室で「教育目的組換えDNA実験」を行うために必要な手続きを説明する。 |
|
病気と遺伝子熊本大学 医学薬学研究部 分子遺伝学分野 教授 森 正敬近年の遺伝子技術の進歩とそれに伴う生命科学の発展は目覚ましいものがある。分子生物学の誕生により、生物の形を作るのに必要な全ての情報がDNA上の4種類の塩基の配列に書き込まれていることが明らかとなった。この情報がいかにして子孫に伝えられ、また細胞内でいかにしてタンパク質に読みとられるかも明らかになった。このような研究の過程で、DNAを切ったり、つないだりする組換えDNA技術が生まれた。そしてこれらの技術は遺伝医学にも導入され、爆発的な発展を見せている。遺伝病の病因遺伝子を取り出して遺伝子異常を解析したり、DNA診断によって保因者診断や出生前診断をすることができるようになった。さらに、遺伝病の根本的な治療を目指す遺伝子治療の研究が進んでいる。本講義では、分子遺伝学の進歩によって明らかになった生命の不思議と医学への応用についてお話したい。 |
|
染色体の話琉球大学 医学部 医科遺伝学分野 助教授 要 匡染色体は、細胞生物学、遺伝学においてよく登場しますが、DNAとの関係を解説しているものは、あまり見かけません。そこで、染色体の構造とDNAとの関係、染色体の性質、染色体から見た遺伝子、病気について歴史を交えながらお話しようと思います。また、最近の組換えDNA技術の発達により可能となった、染色体操作(人工染色体の作成など)について紹介する予定です。 |
|
遺伝子改変マウスの胚・精子バンクシステム熊本大学 生命資源研究・支援センター 動物資源開発研究部門資源開発分野 教授 中潟 直己 近年、世界各国で遺伝子導入および遺伝子破壊マウスといったいわゆる遺伝子操作マウスが、爆発的な勢いで作出されており、もはやその正確な系統数は誰も把握していないのが現状である。このような状況を鑑み、今後、これらマウスを有効利用するためには、個体での保存は不可能であり、胚や精子の凍結保存以外には考えられないことから、世界の国々でマウスの胚・精子バンクが設立されている。我が国においても、平成10年、熊本大学に動物資源開発研究センター(CARD ; Center for Animal Resource and Development)が設置された。今回は、熊大CARDを中心に世界の代表的なマウス胚・精子バンクについても併せて紹介する。 |
|
教育現場への遺伝子実験導入について八女学院中・高等学校 非常勤講師 崎村 奈央科学を教える上で忘れてはならないのは、“生徒たちに、科学に対する興味を持たせる”ということです。私たち教員は、“生徒たちがどのようにしたら科学に興味をもつか”ということを常に頭においておかねばなりません。今回のテーマである「遺伝子組換え」は、食品や医療、産業に利用されることで新聞・ニュースでも頻繁に取り上げられる身近な話題でありますが、難しいというイメージを持つ人が多いため誤解も生じています。ですから実験を行うとなれば、その内容を分かりやすく、そして正しく伝えなければなりません。そうすれば、生徒たちは、これまで未知であった遺伝子に関するさまざまな話題について興味をもって考えることができます。遺伝子とは何であるのか知らない生徒たちが授業で知り、遺伝子組換えの実験をした後、どのように意識が変わるのか生徒たちの声を紹介します。 |
|
生命科学と倫理熊本大学 生命資源研究・支援センター長 佐谷 秀行生物の進化は遺伝子の変異と生死による選択、つまり自然淘汰という単純な繰り返し作業によって行われてきた。遺伝子に変異を起こさない生物が存在したとすれば、その生物は進化する能力を持たないし、また遺伝子に変異があまりに頻繁に生じる生物は環境への順応能力が低いことになる。つまりは遺伝子の安定性と変異のバランスの上で、環境変化に耐えうる生物が長い年月を経て選択され、進化してきたと考えることができる。しかし、その進化の果て、ヒトは他の生物あるいは自身の遺伝子をある種の意図を持って解読したり操作できる技術を獲得し、長い生命の歴史の中で初めて偶然や自然に支配されない生物を人為的に作成することを可能にした。私達は技術を獲得することによって得られる恩恵と同時に、その技術によって生じるあろう不利益を冷静に理解する必要があり、新たな発見や進歩だけを目指した科学から哲学や倫理観に根ざした教育・研究を展開する必要がある。遺伝子解読技術及び組換え技術がもたらす恩恵と問題点について例を示し、教育者、研究者として持つべき姿勢を討論の中で考えていきたい。 |