DNAと仲良くなろう熊本大学 生命資源研究・支援センターバイオ情報分野 助手 吉信 公美子 新聞やテレビなどで目にしたり耳にしたりするDNAの話題を挙げてみると・・・ヒトゲノム、DNA鑑定、DNA診断、遺伝子治療、クローン、遺伝子組換え食品・植物。そして、あらゆる病気の原因が遺伝子と結びつけて考えられ、個人の性格さえも遺伝子が関係していると言われています。このようにDNAが日常に浸透したのは、人間がDNAの性質や仕組みを詳しく知ることができたから、と言えます。DNAは、いわばATGCという4種類のヌクレオチドがつながった化合物、なのですが、大変複雑な機構で私たちの体を支えています。DNAの性質や仕組みとはどのようなものなのでしょうか? |
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LMOのABC熊本大学 生命資源研究・支援センターバイオ情報分野 助教授 荒木 正健 平成14年3月に施行された『組換えDNA実験指針』において、「教育目的組換えDNA実験」というカテゴリーが新たに導入され、中学・高等学校等 の学校教育機関はもちろん、博物館などの社会教育機関でも組換えDNA実験を行うことが可能になりました。 さて、この『組換えDNA実験指針』が廃止され、今年2月に施行された『遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律』(規制法)では、「遺伝子組換え生物」のことをLMO(Living Modified Organism)と呼び、LMOに関する正しい知識・情報が重要とされています。そこで、中学・高等学校等の理科実験室でも実施できるLMOの第2種使用(P1レベル)を中心に、規制法の内容を具体的にご紹介します。 |
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遺伝子組換え作物・食品の現状について九州東海大学 農学部 バイオサイエンス学科タンパク質化学研究室 教授 荒木 朋洋 近年の遺伝子組換え技術の進歩により,食品利用目的の作物に対しても遺伝子組換えを利用して従来の植物に無かった性質を付加する取り組みがなされています.これらの組換え作物は,組換え医薬品と違って健康な人間が食することから,生産現場では大きなメリットを生み出すにも関わらず消費現場では様々な問題点が指摘されています.本講では,組換え作物がどのような原理によって作り出されているのか,その生産の現状と利用はどのようなものか,また,現在行政レベルで行われている安全対策についても紹介します.さらに,現在問題となっているリスクを回避する最新の研究の取り組みについても紹介します. |
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病気と遺伝子熊本大学 医学薬学研究部 分子遺伝学分野教授 森 正敬 近年の遺伝子技術の進歩とそれに伴う生命科学の発展は目覚ましいものがある。分子生物学の誕生により、生物の形を作るのに必要な全ての情報がDNA上の4種類の塩基の配列に書き込まれていることが明らかとなった。この情報がいかにして子孫に伝えられ、また細胞内でいかにしてタンパク質に読みとられるかも明らかになった。このような研究の過程で、DNAを切ったり、つないだりする組換えDNA技術が生まれた。そしてこれらの技術は遺伝医学にも導入され、爆発的な発展を見せている。遺伝病の病因遺伝子を取り出して遺伝子異常を解析したり、DNA診断によって保因者診断や出生前診断をすることができるようになった。さらに、遺伝病の根本的な治療を目指す遺伝子治療の研究が進んでいる。本講義では、分子遺伝学の進歩によって明らかになった生命の不思議と医学への応用についてお話したい。 |
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遺伝性疾患の診断と治療−FAPを中心として−熊本大学 医学薬学研究部 病態情報解析学分野講師 安東由喜雄 アミロイドーシスとは、アミロイドとよばれる線維状の難溶性蛋白質が臓器に沈着することにより機能不全を来す疾患単位である。沈着様式により全身性と限局性の2つに大別されるが、アルツハイマー病も脳局所にアミロイド沈着を来たし、アミロイドーシスのひとつに分類される。FAP(Familial Amyloidotic Polyneuropathy:家族性アミロイドポリニューロパチー)は、遺伝的に変異したトランスサイレチン(TTR)が全身の諸臓器にアミロイドを形成し、臓器障害を起こす常染色体優性遺伝の予後不良の疾患である。本症は中年期に発症し、約10年の経過で、心、腎などの臓器障害や感染症で死にいたる難病である。しかし、異型TTRの主たる産生部位が肝臓であることから、これを移植により正常者のものと取り替えることにより、病気の進行が抑えられことから、世界各国で肝移植が行われるようになった。本邦でも10年前から本治療が行われるようになり、ほとんどの肝移植患者が社会復帰を果たしている。わが国では、FAP患者は脳死患者からの移植はほとんど望めないことから、親族から肝臓の一部の供給を受け移植を行う、部分生体肝移植がそれに変わる治療法として定着してきている。 |
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本能行動の分子生物学−体内時計と睡眠の遺伝子−熊本大学 発生医学研究センター 幹細胞制御分野助教授 粂 和彦 人間のような高等生物も、遺伝子情報を設計図として作られ、生命現象は物質の言葉で理解できる、というのが、現代の生物学の考え方です。しかし、実際には、私たちが、なぜ、どのように意志や感情を持ち、ある行動をするのか、というレベルの神経科学の問題は、まだまだ解けそうもありません。その中で、例えば、記憶・学習の仕組みなどの、一部の神経機能については、物質の言葉でかなり説明できるようになっています。 さて、海外旅行の時に「時差ぼけ」を経験して、眠気と不眠に悩むのは、脳の中に体内時計があるためで、それが外部の時計とずれるからだと、ご存知かと思います。この体内時計は、さまざまな本能行動を支配する大切な神経機能ですが、最近、その仕組みが分子レベルで解明されました。私たちに、とても身近な睡眠と体内時計を題材に、分子生物学が本能行動を、どのように解明しつつあるかを、解説します。 |
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教育現場への遺伝子実験導入について久留米大学附設高等学校・中学校 非常勤講師崎村 奈央 生徒たちが「生物が好き。」「生物なんか嫌い。」というときの基準は何でしょうか。単にテストの点数だけでしょうか。授業のときに心がけなければいけないのは,生徒が「面白い!!」と感じることです。面白いと思うのは考え方であり、論理的思考力を伸ばすことが必要です。自然の中にある現象にはそれぞれ意味があり,そのほとんどが関係しています。できるだけ身近な話題を取り入れ,多方向からそれぞれの現象を分析することができるようになれば,きっと面白くなります。今回のテーマである"遺伝子組換え"は、新聞やニュースで取り上げられることも多く,正確に内容や考え方を伝えることができれば,楽しさをつかむきっかけになるはずです。 前回行った研修会では実験キットが高すぎるという声が上がりました。そこで今年はより安価である熊本大学オリジナルのキットを使用し、講義と実験を行いました。今回の講義ではその様子や、生徒が面白いと思うポイントを紹介します。 |
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グループ討論「先端生命科学の教育現場への導入−その光と影−」熊本大学 生命資源研究・支援センター長 佐谷 秀行生物の進化は遺伝子の変異と生死による選択、つまり自然淘汰という単純な繰り返し作業によって行われてきた。地球が誕生してから長きに渡り、その変異と選択のプロセスにはまったく意図的な作業は差し挟まれることはなく、生物と環境のバランスによってのみその生存と存続、そして死滅が支配されてきた。しかし、ヒトという生物は、高度な精神活動能力を獲得したことにより、他の生物あるいは自身の遺伝子や細胞をある種の意図を持って操作できる技術を手中にし、長い生命の歴史の中で初めて偶然や自然に支配されない組織や生物を人為的に作成することを可能にした。私達は技術を獲得することによって得られる恩恵と同時に、その技術によって生じるであろう不利益を冷静に理解する必要があり、新たな発見や進歩だけを目指した科学から、哲学や倫理観に根ざした教育・研究を展開する必要がある。遺伝子組換え技術など先端生命科学がもたらす恩恵と問題点について例を示し、教育者、研究者として持つべき姿勢を参加者と共に討論したい。 |