リン酸化とユビキチン化:
タンパク質修飾のプロテオミクス
中山 敬一
九州大学 生体防御医学研究所 分子発現制御学分野
科学技術振興事業団 戦略的創造研究推進事業
タンパク質の翻訳後修飾はタンパク質の活性、局在、あるいは安定性の制御など機能調節において非常に重要な役割を担っている。翻訳後修飾は時間的・空間的に変化するきわめてダイナミックなものであり、一見して解析が困難に思えるが、その一方で、修飾基を利用して修飾を受けたタンパク質を特異的に濃縮するための‘タグ’としての利用が可能である。
われわれは、代表的なタンパク質翻訳後修飾であるユビキチン化やチロシンリン酸化に特化したプロテオーム解析を行うため、これらの翻訳後修飾基に対する特異的抗体を用いたアフィニティー精製法、およびこれらのタンパク質の網羅的同定法の確立してきた。ユビキチン関連プロテオーム(Urp)に関しては通常条件下(Urp-N:ユビキチン化タンパク質及びその結合タンパク質)で330種類、変性条件下(Urp-D:ユビキチン化タンパク質のみ)で350種類のタンパク質を同定した。Urp-NとUrp-Dの間にはそのスペクトルに明らかな違いが認められた。さらに、MS/MSスペクトルからいくつかの基質分子のユビキチン化部位が同定された。また、チロシンリン酸化関連プロテオームに関しては様々なシグナル伝達系の解析へ適用している。まず3種類の細胞(Jurkat細胞:T細胞、Namalwa細胞:B細胞、HEK293T細胞:胎児腎臓上皮細胞)に特異的な刺激又は非特異的な刺激(過酸化水素・バナジン酸処理:pervanadate)を与えることによって、細胞特異性とシグナル特異性の網羅的解析を試みた。既にJurkat細胞ではT細胞受容体刺激下で360種類(7回の測定の総計)、pervanadate刺激下で202種類(1回)、Namalwa細胞ではB細胞受容体刺激下で120種類(2回)、HEK293T細胞ではpervanadate刺激下で240種類(2回)のタンパク質を同定している。いずれの場合も40種類以上の既知のシグナル伝達分子を網羅的に同定可能であった。また多くの未知の分子群も同定され、現在これらの分子機能解析も行っている。さらに、安定同位体標識法との組み合わせることで、翻訳後修飾関連プロテオームの定量的解析に成功した。このように、翻訳後修飾タンパク質の網羅的定量解析法によって多数のタンパク質に関する情報を一度の解析で得ることが可能であり、今後、シグナル伝達などの複雑な反応系の総合的・体系的な理解に大いに貢献すること期待される。
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