『タンパク質相互作用ネットワークの大規模解析』

夏目 徹

産業技術総合研究所 生物情報解析研究センター
タンパク質ネットワーク解析チーム
チームリーダー

 ポスト・シークエンス時代を迎え、プロテオミクスによる大規模・包括的なタンパク機能解析が急務とされている。しかしその進捗は、はかばかしくない。その理由は、タンパク質が化学的に多様で不安定性だからであり、質量分析を代表とするハイテク機器を駆使しようとも、核酸のように大規模・システマティックに扱うことが本質的に困難だからである。我々は、ダイナミックレンジが広く、且つ微量なタンパク質サンプルの解析を可能とするため、測定前処理の生化学的プロセス全てを改革・全体最適化を行い、超ナノLCをオンライン化したタンデム質量分析システムを独自に開発した。本システムは、サブ・フェムトモルレベルの感度で、150以上のコンポーネントからなる複雑なタンパク質複合体を、電気泳動などすることなく、1時間ほどで決定することを可能とする。この解析プラットフォームと、ヒト完全長cDNAを用いたタンパク質相互作用解析の大規模解析が現在進行中である(1)。
 本講演では、1,500cDNAを使ったfeasibility studyの概要と細胞内シグナル伝達に関わる分子のWhole pathway 解析(Wnt/beta-Catenin, Classical MAP kinase, TNF-alpha pathway)とUbiqutination/Proteasome系の大規模解析から明らかとなった新規なシステム発見の概要を中心に紹介する(2-6)。

1. 夏目徹. 『完全長ヒトcDNAを用いた大規模蛋白質ネットワーク解析』(2004).蛋白質 核酸 酵素 PNE 49(14): 2222-29
2. Nakayama, K., et al. "Skp2-mediated degradation of p27 regulates progression into mitosis" (2004). Dev Cell, 6(5): 661-72.
3. Higo, T., et al. "Subtype-specific and ER lumenal environment-dependent regulation of inositol 1,4,5-trisphosphate receptor type 1 by ERp44" (2005) Cell, 120(1): 85-98.
4. Komatsu, M., et al. "A novel protein-conjugating system for Ufm1, a ubiquitin-fold modifier" (2004). EMBO J, 23(9): 1977-86.
5. Ishigaki, S., et al. "Physical and functional interaction between Dorfin and Valosin-containing protein that are colocalized in ubiquitylated inclusions in neurodegenerative disorders" (2004) JBC, 279(49): 51376-51385.
6. Bannai, H., et al. "An RNA-interacting protein, SYNCRIP (heterogeneous nuclear ribonuclear protein Q1/NSAP1) is a component of mRNA granule transported with inositol 1,4,5-trisphosphate receptor type 1 mRNA in neuronal dendrites" (2004). JBC, 279(51): 53427-53434.


熊本大学 生命資源研究・支援センター 遺伝子実験施設,
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