『熊本大学・病態プロテオミクスコアラボラトリーの構築と、
  これによる組織細胞内分子シグナルネットワークの解析』


荒木 令江
熊本大学大学院 医学薬学研究部 腫瘍医学分野 講師

 疾患/病態プロテオミクスは、様々なヒト疾患における生物学的な個性や各ステージにおける病態・進行状況等を蛋白質レベルで詳細かつ正確に解析して、個々の疾患発症メカニズムや各患者に最も適した治療標的や臨床マーカーなどを明らかにすることによって、合理的な治療薬や予防法を開発することを目的としている。近年の質量分析器を用いた蛋白質同定技術の加速的な進歩に伴って、各種ヒト組織・細胞のプロテオームデータベースの充実化やproteomic differential display技術(2次元電気泳動法,LCショットガン法,データベース検索ソフト等)の高感度・高性能・high throughput化が促進され、これらを用いた細胞内疾患関連シグナルの異常・破綻メカニズムの解明と、これらの情報を用いた臨床応用、特に、ヒトの様々な疾患に関連する蛋白質群の検索や、これをターゲットとした治療法や予防法開発、臨床検査への応用は、オーダーメイド医療につながるものとして最も大きく期待されている。
 本シンポジウムでは、熊本大学拠点形成研究B「次世代生命科学におけるプロテオミクス研究教育システムの構築」グループの活動の一環として、熊本大学医学部・病態プロテオミクスコアシステム(医学総合研究施設内に昨年度完成)の構築における完全サポートの詳細と、現在構築中のゲノム・トランスクリプトーム・プロテオーム統合情報ステーションの概要、プロテオミクス研究教育活動の紹介を行うとともに、このシステムを用いた最先端proteomic differential display (cICAT, iTRAQ, 2D-DIGE, LC-shotgun法)を応用した腫瘍関連分子の解析、我々は、脳神経系腫瘍に関連する病態発症メカニズムの解明・治療ターゲットや臨床マーカー開発を目的として、LC-MASSを用いた腫瘍関連組織・細胞のproteomic differential display、及び腫瘍形成における鍵分子をコアとした細胞内結合タンパク質群の定量的differential解析を行っている。本セミナーでは、熊本大学医学部・病態プロテオミクスコアシステムを用いた、最先端proteomic differential display (cICAT, iTRAQ, 2D-DIGE, LC-shotgun法)による腫瘍関連分子の解析、さらに、同時進行で行ったtranscriptome解析データの意義付け、すべての検出タンパク質群の分子ネットワーク検索、特異的腫瘍関連シグナルの抽出、機能解析までの一連の解析ストラテジーを中心に、病態解析におけるプロテオミクスの現状と問題点、将来の可能性についてお話したい。

<プロテオミクス関連参考図書>

1. “疾患プロテオミクスの最前線” 〜プロテオミクスで病気が治せるか〜 
戸田年総・荒木令江 編集 遺伝子医学MOOK, MedicalDo社2005(最先端ラボ紹介・熊本大学・プロテオミクス解析コアシステム、荒木令江、入江厚、荒木正健、最先端技術紹介・proteomic differential display の最前線、最新プロテオミクス疾患病態解析, 他)、
2. “プロテオミクスでみえてくる生命機能の新たなメカニズム”実験医学4月号vol23(7)羊土社 2004 (荒木令江「脳腫瘍の病態プロテオミクスで見えてくる新たなシグナル伝達経路」pp1050-1058)
3. “バイオ高性能機器・新技術利用マニュアル“ 蛋白質核酸酵素49(11 Suppl) 2004(荒木令江 「生体材料からの蛋白質調整 Methods for protein purification from biological samples」1495-1505)
4. “決定版!プロテオーム解析マニュアル”磯辺俊明・高橋信弘編集、実験医学別冊 羊土社 2004 .(荒木令江「in vitroラベル法」オンラインLC-MS法による発現プロファイル解析pp111-124)
5. “プロテオミクスに向かう臨床タンパク質検査”戸田年総・平野久・伊藤喜久編集、臨床検査増刊号, vol.47(11), 医学書院2003 (荒木令江「脳神経系腫瘍および変性疾患の病態プロテオミクス」動き出しているプロテオミクス研究pp1373-1385)
6. “最新プロテオミクス実験プロトコール” 谷口寿章編集 細胞工学別冊実験プロトコールシリーズ秀潤社、2003
7. "注目のプロテオミクスの全貌を知る!"磯辺俊明・高橋信弘編集、実験医学別冊 洋土社, 2003 (荒木令江「脳疾患の病態プロテオミクス」pp152-164)


熊本大学 生命資源研究・支援センター 遺伝子実験施設,
E-mail: www@gtc.gtca.kumamoto-u.ac.jp