遺伝子実験施設セミナー

熊本大学・遺伝子実験施設
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2003年 1月11日更新


第2回遺伝子実験施設セミナー

日時;平成10年11月 5日(木)
   15:00〜17:00

場所;熊本大学遺伝子実験施設 6階 講義室

テーマ;『老化』

講師および講演内容;

『ウエルナー早老症に於けるヘリケースの役割』

  エイジーン研究所 所長 古市 泰宏

 RecQ型ヘリカーゼは、生命維持に必須ではないものの、DNAのメンテナンスという重要なプロセスに関与し、この機能が損なわれると染色体の不安定化を誘発し、ウエルナー症やブルーム症に見られる早老・老化に伴って起こる病気の早期発症、及びガン多発症の原因となっている。ヒトRecQ型ヘリカーゼには、これまで知られているQ1、ブルーム(Q2)、ウエルナー(Q3)ヘリカーゼ3種と、新たに紹介する新規2種、Q4及びQ5ヘリカーゼを含む5種類があり、これらのヘリカーゼは「互いに補い合えない」独立した機能を果たしているように見える。このうち、研究が最も進んでいるウエルナーヘリカーゼについて、我々は、それが核質(Nucleoplasm)に存在し、Nuclear Dotsを形成していること、N末端領域にDNA unwinding依存的に働く5'-3' exonucleaseが存在すること、また、SV40やEBVでトランスフォームした細胞と癌細胞等、増殖の早い細胞中では高発現していることを見い出している。組織に於ける発現では、Q1とQ5ヘリカーゼについては各組織に普遍的に発現しているが、ブルーム、ウエルナー、Q4ヘリカーゼでは、組織特異的な発現を示し、発現の高い組織と病気との関連が示唆される。本発表では、我々の研究所で得られたウエルナーヘリカーゼの知見を中心として、これらのRecQヘリカーゼについて、その発現・局在・生物学的意義や病気との関連について、述べるつもりである。

『個体老化の分子機構』
  京都大学大学院医学研究科 教授 鍋島 陽一

 我々はトランスジェニックマウスを作成する過程で挿入突然変異によって早期老化症状を呈するKlothoマウスを樹立した。多彩な老化症状は単一遺伝子の欠損に起因しており、原因遺伝子のクローニングと構造、機能解析、また、様々な老化症状の発症機構の解明を進めるために変異マウスの詳細な解析を行った。
 本変異マウスは常染色体性劣性遺伝形式をとり、ホモ個体では(1)成長障害(2)早期死亡(3)動脈硬化(4)骨粗しょう症(5)神経細胞の脱落(6)性腺の萎縮(7)胸腺の萎縮(8)軟部組織の石灰化(9)皮膚の萎縮、など多彩な老化症状を呈する。しかし、クレアチニン、アルブミン値などは正常で単なる内分泌障害、カルシウム代謝異常、腎不全、栄養障害などではなく、全体としてはヒトの早老症によく似たものであった。
 ついで原因遺伝子を同定した。プラスミドレスキュー法によって得られた挿入遺伝子に隣接する染色体DNAをプローブとして挿入領域をカバーする遺伝子を分離した。挿入位置から6Kb離れた部位から転写単位を同定され、ついで、cDNAクローンを分離し、全塩基配列を決定した。得られたcDNAが原因遺伝子であることを確認するために得られたcDNAを普遍的に発現するプロモーターに連結し、トランスジェニックマウスを作成し、突然変異マウスと掛け合わせ、変異表現型が回復することを確認した。
 得られたmRNAは約5.2kで、N端にシグナル配列、C端に膜貫通ドメイン構造をもつ1014アミノ酸からなる新規の1型膜蛋白質をコードしていた。その発現は腎臓で高く、弱い発現が中枢神経系で観察された。RT-PCRにより卵巣、精巣などでも発現が確認されたが、骨、皮膚、胃などでは発現は認められなかった。ホモ、ヘテロ、野生型マウスのmRNAの解析により、ホモではほとんど発現しておらず、変異マウスはnullに近いhypomorphであることが確認された。マウスcDNAをプローブとしてヒトcDNAライブラリーより相同遺伝子を分離し、その構造を決定したところ、同様の1型膜蛋白質をコードするmRNAとスプライシングの制御により、蛋白中央にストップが入るmRNA、すなわち、分泌型蛋白質をコードするmRNAが同定された。
 今回得られた挿入突然変異マウスは世界で始めて得られた顕著な早期老化を示すマウスであり、加齢にともなって発症する多くの疾患の成り立ちを解析するための重要なモデルマウスとなると期待される。同定された原因遺伝子の機能についてはレセプター、リガントなど、幾つかの可能性が考えられるが、今後の課題である。ヒト早老症の原因遺伝子の解析から体細胞突然変異の蓄積が老化に結び付くとの考えが提出されているが、本実験の結果は異なる概念による老化機構の存在を示唆している。


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