第4回遺伝子実験施設セミナー
日時;平成12年11月21日(火)
16:00〜18:00
場所;熊本大学遺伝子実験施設 6階 講義室
テーマ;『ヒトゲノム計画の現況と展望』
講師および講演内容;
『生命設計図の解読からヒト分子生物学への展開』
慶應義塾大学医学部 分子生物学 教授 清水 信義
ヒトゲノムすなわちヒトという生命の設計図を解明しようとする研究は国際プロジェクトとして10年前に開始され、その壮大な目標から生命科学におけるアポロ計画として推進されてきた。昨年12月、我々を含む日英米チームは人類史上初めて、ヒト染色体(22番)を一本丸ごと解読することに成功し、天地創造の瞬間に喩えられた。次いで、今年5月には日独チームの一員として21番染色体の解読にも成功した。今年中には国際チーム協同でヒトゲノム「生命の書」の概要版が公表される。このようなヒトゲノムの情報と技術は、新たな生命科学の展開や疾病の診断・治療・予防法の開発に必須の基盤であり、生命の尊厳に関して新しい価値観をも生み出すと思われる。本講演では、我々の成果を中心にヒトゲノム解析研究の最先端を紹介し、ヒトという究極の生物の設計図の謎解きに迫る。また、その厖大な成果を有効利用するためのデータベース構築の試みを述べ、新たなヒト分子生物学とゲノム医学への展開について考察する。
『ヒトゲノムの全解読と比較ゲノム解析』
東京大学医科学研究所 教授 榊 佳之
ヒトゲノム計画は、今ドラフトシーケンスの段階を終え、本年6月にヒトゲノムの真性クロマチン領域の85%以上をカバーする配列データを得たと発表した。我々はこのヒトゲノムドラフト配列解析プロジェクトに参画し、高速のシーケンス解析システムを構築して11番及び18番染色体を担当した。先ず、その解析の状況を報告する。
このヒトドラフト配列データは、BACクローン単位ごとにいくつもの断片的配列のままでDDBJ/GenBank/EMBLのデータベースに登録されており、ヒトゲノムの全体像を見るのは容易ではない。我々はドラフトシーケンスされた約23, 000BACをそのシーケンスの重複をもとにマップし、シーケンスデータを編集したデータベースHGREPを作成した。このHGREPをもとにした、ヒトゲノムの全体像の解析についても次に報告する。
ヒトゲノムの全配列の解読は、間もなくである。しかし現在までに99.99%以上の精度で染色体丸ごとで解析を完了したのは、21番と22番染色体の2つのみである。我々は、このうち21番染色体の全解読で中心的役割を果たした。本講演では、225遺伝子の同定や遺伝子砂漠領域の発見など、この21番染色体解析の詳細について報告する。
しかし、このような高精度のデータを手にしても、ヒトゲノム配列のみの解析から引き出せる情報には限界がある。そこで、我々は機能的に重要な配列は進化的に保存されることに注目し、マウスゲノムとの比較解析を進めている。この解析を通して、新しい遺伝子の発見や転写制御エレメントの同定などに成功している。この比較ゲノム解析の有用性について考察する。
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