2002年度 レポート第11回 回答集

熊本大学・遺伝子実験施設
熊本市本荘2ー2ー1
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2003年 2月 6日

2002年度 生命科学G レポ−ト第11回(2003年 1月15日実施)回答集

[ テーマ ]ヒトES細胞を用いた研究について賛成か反対か

[ 回答 ](21人)

賛成 9人

・私は賛成です。賛成か反対を大きく分ける決め手は胚盤胞を胎児と見るかどうかだと思います。いつ頃から胎児とみなすかは意見が分かれているようですが、ES細胞として使われる胚盤胞は試験管の中で人口受精されたものなので、妥協してもよいと思います。ヒトのES細胞を用いた研究がもたらす最大の利益のひとつに臓器移植のための臓器確保が考えられます。ドナーが見つからずに亡くなっていく人もいるので、この研究が進めば、健康な人の死を待つ必要もなくなります。また、脳死は人の死である、というのは認めがたい人も多くいるので、ヒトのES細胞の研究を進めてみる価値はあると思います。(薬学部)

・僕は賛成だ。それは、この研究によって得られる利益はとても大きいと思うからだ。唯一で最大の問題の受精卵を使う事についてだが、僕はそんなに問題ないと思う。中絶という事が認められている現代で、試験管のなかで人工的に作られた受精卵を重病で苦しむ人達に使うことがなぜ認められ無いのか!? ただ、研究者の独断で受験を強行してもいけないと思う。きちんとした枠組みを決める事が大事だと思う。そして、研究者達がその枠組みを守ることも…  あと、前に体細胞からES細胞を作る事に成功したと聞いたのですが…(理学部)

・私は賛成です。皮膚やさまざまな臓器などの移植を待ち望んでいる方々の事を考えるのはもちろん、自分がもし怪我や病気などでそれらの移植が必要となったときの事も考えると、あらかじめ自分自身のES細胞を作って保管しておく事ができれば、拒絶反応もなく移植を行えたりしてとても有用であると考えるからです。ただ、「ヒトまで作り出す事が理論上可能」という話を聞く限り、クローン人間の問題と同じく大きな危険をはらむ研究でもあるようです。したがって、研究を進めるにあたっては具体的に「研究の目標」を明確にした上で、その範囲を超える研究を禁止する厳格な法制度の設立が必要不可欠であると思います。(法学部)

・私は賛成です。反対理由に「核を抜くことは殺人と同様の行為である」とありますが、私は人としてまだ形成されてないと思うのでそうは思いません。それよりも何にでも変化するES細胞が人の生命等を助けることになる方が重要だと思います。臓器移植一つとっても他のどんな方法より生命への危険性が低くなるでしょう。ただこの研究を行うことは社会で禁止されているクローン人間を作ることにつながりかねない危険性を持っているので、それは避けるよう厳重な注意をしてもらいたいです。意思を持つ人間を作り出して意思に関係なく利用するという行為だけはあってほしくないので‥(法学部)

・ES細胞の研究について、僕は賛成だ。ES細胞を利用すれば、今まで治療することが不可能だった病気も治療することができるからだ。しかしヒトの胚を壊して研究するということの倫理的な問題の大きさは計り知れない。受精してから1つの命なのだと考えるなら、不妊治療の体外受精で余ったものだとしても、それをモノとして扱い、利用しようというのだから。しかし不治の病で苦しんでいる人がいるのも事実だ。僕は術があるのなら、なんとしてもその人たちに救いの手をさしのべたい。たとえ倫理の壁を乗り越えても。(理学部)

・私自身は、ES細胞を使うことに問題は無いものと思います。私は、ES細胞が人だとは認識していないからです。しかし、「人はいつから人なのか」という問題を解決しなければ(解決しない問題かもしれませんが・・・)ES細胞を使うことに対する論争は無くなることはないのだろうと思います。(薬学部)

・自分は人ES細胞を用いた研究には賛成です。まだ研究段階とはいえ今後進展すればES細胞から臓器などをつくりだすことも可能となり様々な医療に応用できると思います。また完全な人の形になる前なのでその段階ならばまだ人体実験とも言いにくいのではないかと思います。しかも研究における受精卵は相手の了解も得ているのでなにも問題はないと思います。(理学部)

・私はヒトES細胞を用いた研究に賛成である。なぜなら、これからの医療や薬品の進歩発達に大きく貢献するからと思うからだ。今までは治療が難しかったパーキンソン病や糖尿病治療、肝硬変治療、心筋梗塞の治療などにも用いられるらしい。もし自分がこのような病気になった時になるべく拒絶反応がなく効率よく治したいと思うはずだ。今も苦しんでいる人が大勢いるだろう。そのような人のためにも研究は続けて欲しい。(工学部)

・賛成。現在は、DNAの解析も進んでおり、ES細胞を用いた研究も同時進行した方がより新しい技術が得られるのではないかと思う。法や倫理がしっかりしていれば、新しい技術の悪い面は管理でき、良い部分は利用できるだろう。(工学部)

反対 6人

・私はヒトのES細胞を用いた研究には反対です。ES細胞は実際にヒトに応用するまでその成功率や安全性は確実に知ることは困難なのではないかと思います。それではヒトに対するリスクは大きいのではないかと思います。そしてもし実行するにしてもまだ法的な規制が少ないのではないかと思います。こういった技術が乱用されないためにもしっかりした法的規制が必要だと思います。(薬学部)

・ES細胞をつくるのに使われるのは不妊治療で余った胚だそうだ。 その胚を人間として扱うかどうかで賛否が別れるのだろうが、私は反対だ。自分が死んだ後に遺体を提供するのを前もって伝えておくのとは違い、胚は自分の意志で自らを提供しないからだ。考えることができないから人格がないものとみなすのは強引だと思う。 もし将来ヒトES細胞がつくられるようになっても、犠牲になっているのは生命なのだから、決して軽く考えてはいけないと思った。(教育学部)

・私はこの研究についての意見は反対です。この研究はメリットがありますが、でもいろいろな問題もあります。例えば、細胞の安全性の問題です。ES細胞は、細胞がどんどん増殖するという点ではガン細胞と似た状態です。いったん分化させてしまえば無制限の増殖は止まるのでは、と考えられていますが、腫瘍形成の危険性は可能性として残っています。また移植されたES細胞と患者さんの身体の間で起こる免疫拒絶反応も問題です。通常の移植では、白血球の組織適合抗原の型を合わせることが大変なのですが、同じことがES細胞でも言えるのです。これについては、多くの型のES細胞をそろえることは困難ですので、遺伝子レベルで組織適合抗原の型を変える研究が進められているようです。だから、私は反対です。(理学部)

・意見から先に言えば、ヒトのES細胞を用いるのは反対である。 ES細胞というのは、受精卵が分裂して4〜5日目に胚盤胞になった時に、内部細胞塊という所からできた細胞を未分化な状態のときに取りだし、培養した細胞のことをいう。このES細胞というのは、分化全能性をもつわけだが、ヒトのES細胞を使うというのは、その人が分化するということではないか。つまり、これはやはり人間倫理に反しているであろう。従って、ヒトES細胞の利用は反対である。(理学部)

・反対である。技術が進化することで確かに今以上に多くのことが可能になると考えられるが、このことは同時に人間が生態系から独立する事になってしまうと思う。確かに現在でも生態系上では考えられない立場となっているが、この進行がこれ以上進むことは危険に感じられる。(工学部)

・ヒトのES細胞を実験で利用するということは、胎児の段階で胚を取ってきて試験管で培養するということだから、倫理的に問題があると思う。それに、人間にとって都合の良い遺伝形質を集めたクローン人間を作製することにもつながるので、こわいし、賛成できない。(法学部)

どちらとも言えない 6人

・私は、それに賛成するか反対するかはその研究によりきりであると思う。といっても、遺伝子に関連した研究に決まっていると思うが。もしもその研究が遺伝病治療のため使用されるならば私は賛成する。生まれてきた生命のことを助けるのが目的の為の研究は個人的な感情であるが期待したい。しかしクローンのことに使用されるならば反対である。何故かというと返答に困るが、生まれてくる生命に手を加えたくないからだ。(工学部)

・人によって判断の基準は異なると思いますが、ES細胞を利用して医療の発展につなげるのであれば私は賛成です。しかし、どの段階で人と研究に使用する細胞とを分けるかの基準は決めかねます。個人間でも考え方に相当の差があるのですから、国家間では更に差が広がると思われます。よって当分はこの問題の基準は定まらないと思います。だからといって開発段階の研究を凍結させることをしては発展は望めません。従って、現段階では研究者の良心ある判断から研究を進めるか否かを決定するしかないのではないでしょうか。(工学部)

・ES細胞と普通の細胞の違いといえば、普通の細胞は分裂によってそれが属している組織や臓器の細胞を増殖させるにすぎないが、このヒトES細胞は神経、皮膚、筋肉、骨などのあらゆる組織に分化し、希望するままの臓器を作り出せるものである。こうしたことから現在、深刻な臓器不足に悩む移植医療界にとって、大きな光と希望をもたらしたといえると思う。    しかし、このヒトES細胞は受精卵を分割して作り出すものだけに、人の命を軽視しすぎではないかという倫理的問題がある。また知的能力や運動能力に優れた人間を造り出したりできることからむやみにビジネスに使われるなどの悪用の問題が考えられる。このようなことから私は、このヒトES細胞を使った研究が良いか悪いかは一概には言えない。(工学部)

・わたしは今回の授業で初めて"ES細胞"という言葉を知ったので授業のその他の内容についてもぼんやりとしか理解できませんでした。そこでインターネットを使って"ES細胞"を検索してみると、けっこう詳しく書いてあり、自分が時代の波に乗り遅れていると痛感させられました。そこで賛成か反対かということですが、ここで問題なのはヒト胚を人間とするかどうかだと思います。わたしにはなんともいえません。しかし、この研究がもたらす成果によって、しあわせになる人は必ず出てくるでしょう。そう考えると、自分は賛成の立場なのかなぁと思います。やはりここでも問われるのは研究者の倫理的意識だと思います。(教育学部)

・ES細胞! それはどんな細胞にも分化する可能性を持つ万能細胞! すごい! 臓器問題解決!!  去年の私はただただそればかり考えていました。 ES細胞が受精卵から取り出されていることは知っていましたが、新しい発見に目を奪われ深く考えていなかったんでしょう。でも、今は受精卵に手を出すなんて許されることなんでしょうか? と疑問が沸いてきています。「提供者が許可を出した」だから使ってイイなんておかしいですよね? 子供の命はいつから親のものになったんでしょう!? ES細胞の研究が人にとって有益になりうることは同意しますが、そうやって利だけを追い求めるからクローン人間とかを実際に作る人が出てくんでしょうね。 今月から京都大学再生医科学研究所ではES細胞の研究を始めたようですが、どうなんでしょう?早すぎるのでは?  先生〜去年の事だから情報は更新されてるかもしれないのですが、なにかで、「ES細胞と同じように万能性を秘めた細胞を骨髄の中から発見」みたいな記事を見ました。そのころはまだ、実証はされてなかったのですが、それはどうなったのでしょうか?(理学部)

・ヒトES細胞を用いた研究に賛成か反対かということでしたが、今回の授業は私にとって難しくてきちんと理解できたとはいえないので、はっきりと賛成か反対かを言うことはできません。ただ、研究を行っても倫理上の問題があるために実際に使うことができないのなら、何か他のことに研究の成果を応用できる場合を除いては、研究の意味が無いのではないかと思いました。(法学部)

===== レポートについてのコメント (by ARAKI) =====

・「体細胞からES細胞を作る事に成功した」というのは、何かの間違いだと思います。「体細胞の核を移植したクローン(マウス)胚からES細胞を作る事に成功した」ではないかと思います。

・現在の技術では、ES細胞の樹立には受精卵(胎児)が必要です。「自分自身のES細胞を作って保管しておく」事が出来るようになるまでには、まだまだ時間が必要だと思います。やり方としては、『自分の体細胞(皮膚など)の核』を『自分または誰かの脱核した卵子』に移植し、試験管内で胚盤胞まで発生させ、そこから内部細胞塊をとりだし、ES細胞を樹立することになります。

・「核を抜くことは殺人と同様の行為である」というのは、卵子または受精卵から脱核することを指していると思いますが、今回のテーマであるヒトES細胞の研究においては、核移植は必要ありません。もちろん、将来クローン技術と組み合わせて、「自分自身のES細胞を作って保管しておく」ためには必要ですが。

・私も『考えることができないから人格がないものとみなすのは強引だ』という意見に賛成です。しかしながら、現実には『生殖医療』はどんどんエスカレートしています。クローン技術も、研究レベルを通り越して、『生殖医療』として扱われようとしており、大変危険だと思います。

・「ES細胞と同じように万能性を秘めた細胞を骨髄の中から発見」という話は、今はあまり信用されていないようです。しかしながら、体細胞の中にある神経幹細胞や造血幹細胞などの『組織幹細胞』に関する研究は、今一番ホットな領域であり、何が飛び出すか分からない分野でもあります。ところで、1月24日(金)16:00〜17:30の予定で、第30回遺伝子技術講習会を開催します。タイトルは『Wonder World of ES cells』で、講師の丹羽 仁史先生は、(マウス)ES細胞研究の第1人者です。場所は遺伝子実験施設・6階・講義室(602)で、本荘地区ですが、興味があれば誰でも参加できます。

********* 第30回遺伝子技術講習会のお知らせ *********

 下記日程で、第30回遺伝子技術講習会を開催します。今回、御講演をお願いした丹羽先生には、実は第11回遺伝子技術講習会(平成10年10月23日開催)で『マウス初期発生過程におけるOct-3の役割---ES細胞を用いた解析---』というタイトルの御講演をしていただきました。その後の丹羽先生の御活躍はめざましく、今では「ES細胞の多分化能の研究」における第1人者と言って過言ではないと思います。多数の方の御来聴を歓迎いたします。

======= 第30回遺伝子技術講習会 =======

テ−マ;『Wonder World of ES cells』
日 時;平成15年1月24日(金)16:00〜17:30
場 所;遺伝子実験施設・6階・講義室(602)
講 師;丹羽 仁史 博士
   理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター
   多能性幹細胞研究チーム チームリーダー
内 容;
 胚性幹細胞(Embryonic stem cells:ES細胞)は、初期胚に由来する多能性の幹細胞株で、1981年にマウスで初めて樹立された。1989年にES細胞を用いたノックアウトマウスが作成されてからは、発生工学には不可欠のツールになっているが、1998年のヒトES細胞樹立以降は、再生医学の分野でも注目を集め続けている。しかしながら、このような応用的な視点からではなく、細胞生物学的見地からES細胞を眺めたとき、そこには他の培養細胞では決して見ることの出来ないような、深遠な興味深い世界が広がっている。本セミナーでは、我々の研究成果を中心に、マウスES細胞を用いた「幹細胞生物学(stem cell biology)」について、様々な角度から概説したい。

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