2002年度 レポート第13回 回答集

熊本大学・遺伝子実験施設
熊本市本荘2ー2ー1
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2003年 3月 1日

2002年度 生命科学G レポ−ト第13回(2003年 1月29日実施)回答集

[ テーマ ]出生前診断について賛成か反対か

[ 回答 ](22人)

賛成 7人

・出生前診断について、私はどちらかといえば賛成である。両親が子供のことをよく知っておくのは悪くはないことだ。しかし、胎児が遺伝病と知って親がどのような対策をとるかは難しい話である。両親はその子を産むかどうかでかなり迷うだろう。おろしたりすると必ず親のエゴだと批判する第三者がいるが、これも悩んだ末の決断であるという理解がほしい。遺伝病はふつうの病気とは違うからだ。それに出生前診断をしてもそれ以後に診断をしても結局は同じことだろうし。 (工学部)

・基本的には賛成だ。しかし、それには最低条件がある。それは、親が本当に真剣に子どもの事を考えて出した決断であるということだ。僕は中絶が絶対悪いとも思わないし、この出産前に遺伝子診断をしてから中絶を決める事もそこまで悪いとも思わない。やはり、親が子どもの事をどれだけ考えてるかというのが一番だと思う。 (理学部)

・私は、この出生前診断が確実で母子への負担がほとんどないのならば賛成です。というのは、先天性異常を早期発見することで治療が軽く済む可能性があるからです。逆に、胎児の先天異常が著しく重く、生きていく事が困難であると診断され、その子を経済的、精神的にサポートできないのであれば堕胎を選択してもよいと考えます。判断については両親だけでなく、周囲の人、医者等の意見を充分吟味してなされるべきであると思います。子供の人格形成は両親の精神状況に大きく反映すると思います。周囲の人の理解、助けがあってその両親も子供を支えていけるのではないでしょうか? (工学部)

・出生前診断する方がいいと思う。なぜなら、例えば、重い遺伝病の子供が生まれる可能性がある夫婦に体外受精を行い、受精卵が四−八細胞に分裂した段階で細胞を一個取り出して遺伝子を検査する。遺伝病の恐れがない受精卵だけを母親の子宮に移植し、出産につなげる。妊娠中絶を回避できるのが利点とされるが、不妊でないのに体外受精を受ける負担が生じる。また、今、障害児が多いので最初から出生前診断していいんじゃない! (理学部)

・私は、出生前診断を行うことに賛成です。出生前診断で最も問題とされるのが、診断の結果、この世に生まれることのない胎児達の人権です。しかし、彼らを育てあげる際の精神的、金銭的な負担をしていくのは、多くの場合、彼らの両親です。両親が、その子を幸せにする自信が無い場合は(その子が障害を患った状態で生き続けたいか、その人生は幸せか、は分かりませんが・・・)生まない事も一つの選択肢ではないでしょうか? (薬学部)

・少なくとも、親が我が子に遺伝病の可能性があることを知っていれば、心の準備という点でも、かなり有益ではないでしょうか。産むか産まないかはその人の判断に任せるしかありませんが、個人的にはそんなに簡単にあきらめないでほしいと思いました。 (薬学部)

・私は遺伝子診断について賛成です。なぜなら極めて発現性の高い病気の遺伝子を自分が持っていることを、あらかじめ知っておけば子供をつくるかつくらないか、あるいは生むか生まないかを決めることができるからです。もし子供が生まれてから病気が分かったとしたら、子供は一生その病気に対して苦労をすることになり、ほとんどの親は一生“私のせいでこんな辛い目に・・・・”という負い目みたいなものを感じてしまうと思うのです。これは現在治療法の確立されていない病気について特に言えることだと考えています。 (工学部)

反対 11人

・・出生前診断は親を助ける意味では良いものだが、胎児にとってはどうだろう。産むかを決めるための診断である以上、異常が見つかった場合は殺される可能性が高い。生まれて苦しむより良いと考えられるかもしれないが、胎児の意思に関係なく行う以上そうは言えない。また、診断が一般的になると、異常が見つかった場合に産まないように社会的や家族の圧力がかかる可能性もあり問題である。
では、出生前診断により胎児が殺されるのを避けるために発症前診断をしてもともと子供を作らなければ良いと考えるかもしれない。しかし診断で分かるのは生死に関わることだから、異常が発覚して子供を作らないことを考えるような余裕があるとは思えない。家庭、人生を狂わす可能性が大きい。発症率100%ならば死刑宣告を受けたようなものである。限られた人生を有意義に‥なんて割り切れるだろうか。また仮に割り切れたとしても発症年齢期になると、健康でもいつ発症するかと日々おびえることになる。覚悟している死刑囚でも執行を待つのは気が狂いそうらしいので相当だろう。普通の生活が出来るとは思えない。その上もし発症率が低くて発症しない場合、それがずっと続くことになる。
 また、社会的問題が出てくる可能性がある。企業は診断で異常が無い者を採用するシステムを取り、保険加入審査も同様にされる。結婚でも親族からの圧力や本人による選別が起こる。診断が一般的になればこれらの差別が生まれる可能性は否定できない。そして差別とは別の問題として、異常を知った者による犯罪の増加がある。どうせ死ぬのだからと考える人間がいないとは思えない。
 従って、治療が可能でない病気の遺伝子診断には反対する。確かに親族に患者がいたら心配になるかもしれないが、それは診断で異常を知らされるのに比べればましである。診断は異常が無い者には良いことであるが、ある者への心的影響は計り知れない。自殺する者もでるだろう。こんな危険なことには絶対に反対である。
 しかしながら治療が可能な病気の遺伝子診断ならば大いに賛成である。 (法学部)

・出生前診断に私は反対です。産まれてくる前に診断して異常があったら産まないなんて胎児がかわいそうです。例え病気や障害を持って生まれてきても我が子は我が子です。そんな風に人の命を選択するような行為は絶対に許せません。 (教育学部)

・出生前診断については反対である。ただ、男か女かでさえ知ろうという人が少ない様なかでどれくらいの人が、この診断を利用するのかなという疑問がある。そのことを除外してもやはりこれから誕生するであろう生命を選択する権利は人間には無いと思う。 (工学部)

・私は出生前診断については反対です。生まれる前の子供の命を親が勝手に殺してはいけないと思います。子供の命は子供のものであって親のものではありません。そしてこの前のディベートとも重なりますが、もし出生前診断で子供が大人になったとき治療法の確立していない遺伝病にかかる可能性があると考えられても、他の病気や事故で死んでしまう可能性もあると思います。それは他の子供にも言えることだし、子供が育つ上でいろんな危険性があるのだから子供に対して絶対的な安全を求めるなら子供は産めないと思います(もちろん危険を最小限にするあらゆる努力をするべきですが)。何が原因で死んでしまうかなど、実際にその時になってみないとわからないし、そんなことで既に命を持つ子供をふりまわしていいのかと疑問に思います。 (薬学部)

・私は反対です。最初は、胎児を診断した結果で出産するかどうか判断するのはもっての他ですが、妊娠する以前に個人が遺伝子診断することは望ましい事だと考えていました。しかし、今はそれすら疑問に思っています。遺伝子病の保因者が遺伝子診断を受けた結果で妊娠・出産を断念することが続いていけば、将来的には遺伝子病の患者は存在しなくなることになるのでしょう。それは私たちからすれば望ましい事のようにも思えますが、現在遺伝子病で苦しみながらも希望を持って毎日を生きている患者の方々の心境を考えてみたとき、将来的にはなくなる遺伝子病に罹患している自らの存在理由を疑ってしまうことになるのではないかと懸念されるのです。もっとも、このような考えも健常者の無配慮な意見かもしれませんが。 (法学部)

・ディベ−トでは、個人がある遺伝病を持っているかどうかを調べるための診断も含まれていた。個人が自分のことを知りたいと思えば、その人の意志を尊重することになるので認めてもいいと思う。強制的ではなく、また、ある程度のことを受け入れられる覚悟があれば本人の自由だ。
 しかし出生前診断には反対だ。産むか産まないかを親が勝手に判断する権利はない。また、現在様々な遺伝病と闘っている人々にも失礼だと思う。
 全てにおいて健康な人間なんていないのに、それを生まれてくる子に求めるなんて筋違いだと思うし、自分が苦労したくないだけのようにしか聞こえない。 (教育学部)

・親であれば、子供に健康で生まれてきて欲しいと願うのは当たり前のことである。もし重い病気で生まれてきたらお金もかかるし、自分の時間も持てなくなるだろう。ハンチントン病の場合50%の割合で子供に遺伝子がいってしまう。もちろん、このような病気になれば生活することは厳しい。しかし、この病気にかかった人がすべて不幸ではないとおもう。生きていれば何か楽しいことはある。出生前診断は胎児の異常をみつけることを目的としているが、実際この診断で異常が見つかれば90%位の人が中絶を行っている。これは病気や障害を持つ人を差別することにつながりかねない。また中絶自体にもさまざまな問題がある。 (工学部)

・僕は出生前診断には反対だ。胎児の人権がないがしろにされていると思うからだ。胎児の意志は関係なく、親の意志で調べられ、その結果が(その親にとって)悪ければ堕ろされるかも知れない。どんな子供でも育てるという意志がないのなら、子供を作らないほうが良いと思う。それに、そのうちいろいろな遺伝子が解明されたり、遺伝子技術が発達すれば、より親が好む遺伝子を持ったデザイナーチャイルドなどにもつながっていく話だと思う。それはやっぱりダメだと思う。 (理学部)

・私は出生前診断には断固として反対である。なぜなら、出生前に病気の遺伝子が発見された場合、その子を生まずに堕胎することを選ぶ人が出てくると思うからだ。確かに病気、特に重病の子供を持つ親は、普通より多くの苦労を背負うことになり、大変だと思う。しかし欠陥があるなら生まれてこない方がいいという考え方はどうだろうか。人間が自分やお互いのことをそう思うのはとても悲しいことだと思う。また、出生前診断を親の看護する権利のひとつとして肯定する意見もあると思うが、それに対しても反対である。生まれてきた後にその子供を守るためならもちろん許されるが、生まれる前に行うことは、親の興味本意で越権行為のような気がしてならない。 (法学部)

・出生前診断はしない方がいいとおもう。第1なんの為に行うのでしょうか? チェックに引っ掛かったら堕ろすのでしょうか? それだけは止めてほしい。私は遺伝子診断には賛成だが、出生前診断には反対です。前者にあって後者にないもの、それは本人の同意です。いくら親だからと言っても何でも許されるものではないでしょう。特に父親は赤ちゃんを産まないから、実感がわかないまま堕ろさせそうでこわい。 (理学部)

・出生前診断については反対である。
 ここでは、治療法未発見の遺伝子病の出生前診断について考えてみた。
 主な反対理由としては、ディベート中に出た反対意見と同じである。また、一時、この「出生前診断」と「ガン告知」とは、“余命を伝えるという上で同じなのではないか”と混乱してしまった。ところが、再考してみたところ、「ガン告知」の場合、病気が生活習慣が原因の生活習慣病だし、告知される時期は、既に病中(しかも末期)である。一方、「出生前診断」は、言うまでもなく産まれる前に、「あなたは病気です。遺伝子に原因にあり、治療法はないので、近いうちに死にます!」と罪のない赤ちゃんに言うようなものである。場合により誕生をも否定する(もちろん、これは倫理的問題に該当する)。従って、両者はまるっきり状況が違い、前者は許され、後者は許されないべきではないか。 (理学部)

どちらとも言えない 4人

・・出生前診断はつまり子どもを産むか産まないかを決めるひとつの手段のようなものです。すると当然中絶ということにもつながっていくのだろうと思います。中絶は倫理的にいけないものだとわたしも思います。けれど中絶を禁止することに賛成はしません。とても矛盾しているのは自分でもよくわかっていますが、それには複雑な事情(遺伝病もそのひとつだと思いますが)があって絶対的な答えなど存在しないと思います。
 出生前診断自体には賛成も反対もありません。ただわたしに言えるのは出生前診断を廃止するということには反対ということです。中絶をするしないは当事者が決めることでその決定手段ひとつに対しても部外者が口を出すべきではないと思います。 (教育学部)

・出生前診断を個人的にすることに関しては反対はしませんが、行政的な因子が絡んでくると、賛成できません。出生前診断が一般的になってくると、出生前診断なしに子供を生むことが難しくなるかもしれません。また、もし胎児に異常があった場合、おろすのが当然のように思ってしまうかもしれません。このように患者に何らかの圧力がかかるおそれがあるものはできるだけ避けるべきです。しかし、例えば、経済的な理由で障害を持った子供を養えない場合などには、出生前診断は有効な手段だと思います。それでよく考えて仕方なくおろすのならば、それは許されることだと思います。ディベートの時に、胎児の意思なくおろしてはいけないとありましたが(よく言われることですが)、親は子供の保護者であるし、子供のことを思ってするのであれば、問題ないと思います。だから、受けたい人にはそのようなシステムを提供すべきです。確かにメリットはありますが、前述の危険性のほうが怖いので出生前診断には、思い切って賛成はできません。 (薬学部)

・出生前診断について、私は賛成とも反対とも言えません。診断後に予防や治療などができる場合は、その子にとって良いだけでなく、その両親等の負担も軽減できるので、良いと思います。しかし、治療法などが確定されていない病気の場合は、診断の目的が分娩方針決定になるので、個人的にはあまりしてほしくないです。ただ、この場合も、子供の病気を受け入れられない親がきちんと育てられるのかということを考えると、場合によっては、やむをえないのかもしれないと思いました。 (法学部)

・私は出生前診断について反対の立場でしたが、自分がもし遺伝病の保持者で、赤ちゃんが障害を持って生まれてしまうと言うことがわかるなら、生まないと思い、出生前診断によってそういう事が事前に分かるので、賛成にも傾いてしまいました。出生前診断には、良い面も悪い面もあると思います。 (教育学部)

===== レポートについてのコメント (by ARAKI) =====

・講義では触れませんでしたが、症状が同じでも、原因になる遺伝子の異常が異なる場合は、治療方法・治療効果が違ってきます。つまり、病気の判定においても遺伝子診断は重要です。ただし、本人がきちんと理解するためのインフォームド・コンセントが重要になります。出生前診断の場合、本人の意思を確認することは不可能です。診断することによって治療・救命が可能になり、出産する場合は良いと思いますが、それ以外の出生前診断には問題があると感じています。

・何人かに送ったメールで「インフォームド・コンセプト」と書いたのは「インフォームド・コンセント」(Informed Consent)の間違いです。訂正します。概念(Concept)を説明しても、患者が同意(Consent)しなかったら意味ないですね。失礼しました。


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