2003年度 レポート第9回 回答集
熊本大学
生命資源研究・支援センター
バイオ情報分野
荒木 正健
Tel : (096) 373-6501, FAX : (096)373-6502
2004年 5月 5日作成
2003年度 生命科学G レポ−ト第9回(2003年12月17日実施)回答集
[ テーマ ]アイスランドのバイオデータベース方式に賛成か反対か
[ 回答 ](全12人)
・アイスランドのデータベース方式には賛成です。企業が主体となって行なっている事なので何らかの問題が起こったときに適切な対処が出来ると思うからです。また、三年も前から活動が行なわれていながら今日ディベートで挙がっていた様な問題が起こっていないのが凄いと思います。具体的な活動成果が挙がっていることから様々な国でも同様にデータバンク設立が可能ではないかと思いました。(教育学部)
・私は、バイオデータベース方式に賛成します。その理由を以下3つの点から説明します。
もしある病気の原因因子が人によって異なり特定できない場合、多くのバイオデータを統計することで因子が特定でき、その人に適した治療を行うことができます。つまり、これから普及していくであろう“オーダーメイド医療”の為です。この点で、バイオデータベース自体に賛成しています。
アイスランドという地域に限ってデータベースを作製することに関しては、授業中に先生がおっしゃったように、ある程度限定されたエリアで行った方が実施への動きも早いという点が挙げられます。大きな母集団で調査を行った方が良いデータができると言っても、世界レベルで実施するまでには相当な時間がかかってしまうのが問題だと思います。
また、特定の企業が関与しているという点では、“国”という公的機関では見破られにくい悪用を防ぐためには良いのではないでしょうか。もちろん、情報管理の面は気にはなりますが、そこは関与している企業の管理を信じるしかないと思います。
将来、バイオデータベースの作製によって、リスク以上のメリットが得られることを大いに期待しています。(工学部)
・私はこのデータベースというもの自体について否定的な考えを持っているので、賛成はしない。ある程度の信頼を置いている主治医から勧められても入りたくないのに、いきなり国家から「今度データベースをつくるので参加するように」と言われて特に異議のない人以外は自動的に参加するというのは個人の選択の自由を侵害しているといっても過言ではないだろう。一応異議を申し立てることができるようになってはいるが、人権保護の見地から十分とはいえない。その点久山町は一人一人にカウンセリングを行い了承をとっているので良いと言えるだろう。(まぁ国家レベルでここまで要求するのは難しいだろうが。)
大変自己中心的な考えであるが、このように「人類の役に立とう」と言う献身的な人がいてくだされば、研究も進むだろうしオーダーメイド医療の実現が早い未来のものとなるだろう。私はこの前のディベートで挙がったようなリスクを背負ってまで自己のデータを危険に曝したくない。先生もおっしゃっていたが、遺伝情報は自分だけのものではない。自分の子供・親兄弟にも関係するものだ。就職の際、子供が差別されるという可能性は大いにありうるのだ。あと20年もすれば、十分な資料も集まり一般の人も普通にオーダーメイド医療を受けることができるだろう。その時まで、健康に気をつけて生きようと思う。(法学部)
・アイスランドのデータベースに賛成。遺伝技術が高まっている今の社会では、データを採られるほうも使うほうもメリットがあると思う。ただ、信用が重要だから管理方法や法の整理などがしっかりしているという前提がある。遺伝子情報を採られるのが嫌な人はいて当然。しかし、だからといってデータベースを作らない、ということをしていると先に進まない。だからこそ信用のおけるシステムをつくらなければならない。(医学部)
・まず、このようなバイオデータベースへの登録を求められた場合、それ自体に対し人々の間で賛否が分かれると思います。賛同する者の意見としては、自分が医学の発展に貢献できること、新薬や新医療法の開発への期待などがあげられるでしょう。私自身も、もしそのようなことがあれば、この分野に少なからず期待している以上協力を惜しまないつもりです。
しかし、それが決して一般論ともいえないというのも実情です。あくまでデータベースである以上、どんなに安全性を高めても人為的な、あるいは別のトラブルによって漏洩する危険性も考えられるのは当然です。この登録自体も、単なるサンプル、実験の材料、人柱、などといったマイナスのイメージも伴っていると思います。しかし結局は信頼の問題でしょう。自分の情報を預けるのですから当然といえます。また、このようなデータベースの作成には何よりもまず膨大なデータが必要不可欠だと思います。そのために、アイスランドのように国レベルで法的に義務化をすることも考えられます。私自身としては、バイオバンク関連には賛同するところは多いのですが、義務化というところまでくると必ずしも全面的な賛同はできません。例え拒否権があったとしても、義務か義務ではないかということは大きな違いがあります。
たしかに、国家レベルでの取り組みともなると、人によってはそれだけで「信頼できる」「義務だから仕方がない」と判断するかもしれません。義務化ということ自体に反発を覚える人もいるでしょうが、私はまず、バイオデータベース方式において、安易な義務化はすべきではないと思います。多少なりともリスクが存在しているために尚更です。数が必要になる場合、義務化すれば必然的に多くのデータが集まるでしょう。ですが私は、このような登録、協力をさせる際には、それをしようと思わせるだけの魅力的な見返りを用意すべきだと思っています。この場合、医療サービスにおいてできることがあるはずです。単純な話です。資本主義の世の中を見ればどこでも見られる光景です。またこのバイオバンクについては、民間企業の介入が見られます。企業が介入するということは、どこかしらで利益が発生すると見られても仕方がないでしょう。それ自体についても反発はあるかもしれません。しかしだからこそ、無償での協力に対して明確なサポートが受けられるべきだと思うのです。世の中全ての人が、例えば私のように遺伝学や関連医療に対して期待と信頼を寄せている、そういうわけではありません。人類の未来のためだ、医学の将来のためだといった綺麗事だけで賛同者が増えるとも思えません。それらは全ての人々に直接、すぐに関係のある話ではないのですから。
勿論私個人の意見としては、義務化などせずとも多くの人々に進んで登録してもらえるようになるのが最良とは思いますが、それは理想に過ぎません。理想を現実とするには、それ相応の努力が必要です。安易に義務化する道もあるでしょうが、他に道はあるはずです。特に、多くの人々が暮らし、多様な価値観のある国においては真剣に考えて欲しいものです。(法学部)
・医療の発展のためにはアイスランドのように バイオデーターベース方式を取っている国というのは、大変貴重でありがたいものである。ただ、現在の日本ではまだ不可能だと思う。なぜならば法体制が十分に整っていないからである。しかし、法が整ったからといって必ずしも良いかということも疑問が残るような気がする。すなわち、この間の住民基本台帳ネットワークが簡単に書き換えられ得るということが分かりニュースになったように情報の漏洩を完全には防ぎきれないだろうということ、また、国が管理するにしても会社が管理するにしても、やはり自分の利権のために使い、データーの持ち主、あるいは全人類のためになり得ないこともあるということです。このような危険がある以上やはり、希望者のみのデータを集めるべきだと思います。そういった点では半ば強制的にデータを集める(拒否はできるとはいえ、拒否することが大変な)アイスランドのような体制は若干疑問が残るような気がします。ただ、これからの医療の発達のために必要なことは事実であるので、私個人としてはデータベース方式の必要性を強く訴え協力を求めていくしか、現在のところ道はないような気がします。(医学部)
・生まれた時点で登録されてしまうのは自分ならいやだか、もし国中がそれが当たり前って感じなら登録されてもいやに思わないかもしれない。(工学部)
・私はこのアイスランドのバイオデータベース方式に反対です。その理由のひとつが、国民の医療情報を民間企業が管理するという点で個人のプライバシーを保護した憲法に違反するからです。現にアイスランドの有識者らで作る市民組織「マンバーンド」は訴訟を起こす構えです。
これに対してアイスランドの遺伝子分析会社社長、カリ・ステファンソン氏はこの研究の結果を「情報悪用の危険より、潜在的な恩恵大きい」と考え賛成しています。
確かに潜在的な恩恵はありますが、様々な危険な弊害があるのです。医師会のスウェンソン会長は「第三者に情報が流れることになれば、患者は医師に正直に話さなくなるだろう。医師と患者の信頼関係が崩れれば、治療面にも影響が出かねない」と懸念を口にしています。またデータベースから情報が漏れたり、将来的には保険会社などが情報の提供を要求する事態も考えられるのです。よって私はアイスランドのバイオデータベース方式に反対です。(法学部)
・私はアイスンドのデータベース方式に賛成です。まず民間企業にデータベースのライセンスを与えることにより責任の所在が明らかになります。特に一つの企業に独占させるというのは責任をはっきりさせやすく管理がしやすいのではないでしょうか。また新薬や解析システムの開発といったビジネスにも直接結びつけやすいと思います。これらの理由から私は賛成です。(工学部)
・アイスランドのデータベース方式はその国の特性(国民の遺伝子構造の変化が少ないこと。家系記録が広範に残っていること。)を生かして時代の流れをとらえた画期的な試みだといえる。この試みが医療の新たな時代の先駆けになる可能性は大いにあると思う。個人的にはそんなものまで売り物にしようとする商業主義的な発想は好きではないが、画期的であることに変わりはない。悪用されるにしても最悪の事態になるほど深刻化する前に何らかの手が準備してあるのだろうし、恩恵や利点の方が大きいと思う。(文学部)
・個人的にはバイオバンクについて反対である。管理する方を信用できないというのが理由であるが、それが国レベルで管理されるのであれば納得できる。欧州のように政府主導で参加者が多いプロジェクトならばいざしらず、民間企業や、一自治体がこのバイオバンクを行うのは、情報の漏洩の危険が伴うと思う。(理学部)
・アイスランドのバイオバンクについてだが、やはり私は賛成の側に立つ。ここまで医療技術が進歩を遂げてきて、現在新種の病気では病気の治療法はほぼ全て確立されてる。その中であと必要なのはやはり遺伝子疾患を治すための遺伝子治療、病気を事前に発見し予防するための遺伝子診断であろう。しかしこれらの治療はまだ確立されていない危険なものであるという事には変わりはない。新聞を読んでいても遺伝子治療の失敗による患者の死亡という記事をしばしば目にする。だからこれらの事をより確立されたものにするためには、多くの患者の方たちの遺伝子を集め、研究するというのが一番効率のいい方法だと思う。また患者の方たちも、最新の医療が受けられ、また事前に、あるいは早期の段階で病気を発見してもらうことができプラスになると思う。またディベートの時には反対側の意見は、個人の遺伝子情報の流出の危険性という点に集中したが、やはりだからこのバンクそのものを無くすのではなく、いかに情報流出のリスクを減らすかを考えなければいけないと思う。そうでなければ何も変わらないと思う。だから国といった大きな単位で連携してこの問題に対処をしなければならないと思う。(医学部)
===== レポートについてのコメント (by ARAKI) =====
・「問題が起こっていない」かどうかは、詳しく調べた訳ではないので判りません。ただ、本当にアイスランド政府とデコード社の間に密接な利害関係があるとすれば、何か問題が起きても握りつぶされている可能性もあります。ベンチャー企業であるデコード社は、このデータベースを所有することで世界中の大企業と契約し、株式上場に成功しました。アイスランドの国家予算よりもはるかに大規模な独占企業を信用することが出来るかどうか少し疑問はあります。
・「アイスランド」と「アイルランド」は間違えやすいので注意しましょう。
・ディベートは反対側1人だけで申し訳ありませんでした。頑張ってくれて、ありがとうございました。
・『あなたが癌で入院した時、主治医からバイオデータベースへの登録を勧められたら、同意するかしないか』という質問に対して、反対が1人しかいないとは思っていませんでした。ディベートの設問も難しいですね。最初から「熊本市が・・・」にすれば良かったと後で後悔しました。良い勉強になりました。
・現代人全てに重要だと思いますが、特に医学部の学生さんは、この様なバイオデーターベースの意義と問題点を充分認識しておく必要があると思います。
・法学部の学生さんにとっては、身近な問題になるのではないかと思います。もし日本で同様なことが行われた場合に、法律的にどういう判断がされるかも検討してみて下さい。
目次に戻る
教育活動
MASA Home Page
遺伝子実験施設ホームページ
熊本大学 生命資源研究・支援センター 遺伝子実験施設,
E-mail:
www@gtc.gtca.kumamoto-u.ac.jp