優秀作品(3)
熊本大学
生命資源研究・支援センター
バイオ情報分野
荒木 正健
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2005年 7月18日更新
『時間の分子生物学』(理学部)
(1)この本を選んだ理由を書いて下さい。
粂先生の講義を聞いて、とても興味を持ったので。
(2)この本で著者が一番伝えたい事は何だと思いますか?
「睡眠」という生命現象に対する、興味、その機構を研究する”おもしろさ”がとても伝わってきました。それと、作者が医者として、睡眠疾患の治療・薬の開発へつながることを目標としているということが強く伝わってきました。「研究のおもしろさ」「これからの医療への応用」この2つを伝えたいのだと思いました。
(3)この本を読んで感じた事、考えた事を書いて下さい。
「時間の分子生物学」この本を初めて知ったのは、学科の講義で粂先生の話を聞いた時でした。普段生活している中で誰でも睡眠をとります。その「睡眠」をテーマにした研究についての講義はとても好奇心が湧きました。生物時計を構成する仕組み、その遺伝子、タンパク質の存在を知った時は目からうろこでした。
この本の中では、「生物時計」と「睡眠」について書かれていました。「生物時計」に関しては時計の仕組みを時計の部品の例えて、詳しく説明されていました。ピリオド、タイムレス、クロック、など、タンパク質の名前とその役割について書かれており、遺伝子についてもそのフィードバック機構まで説明されていました。生物時計の研究はここまで進んでいるのか、と感じたと同時に、生物の全ての現象が遺伝子と結びつくならば、様々な現象が分子レベルで解明されていくのではないだろうかと思いました。
自分の経験として、何か大事な用がある日は目覚まし時計より早く起きてしまったり、徹夜明けに妙にすっきりした気分になったりするということがありました。そのような現象も、ホルモンの血中濃度の変化や、体内時計の針を早く進めるシグナルが送られているという仕組みで説明することができたりするのだなあと感じました。
本の中で一番興味深かったのは「ナルコレプシー」という病気の解明の研究の歴史について書かれた部分でした。スタンフォード大学のエマニュエル・ミニョーのグループが犬のナルコレプシーの原因遺伝子を10年もの歳月をかけて見つけ出しました。ナルコレプシーの犬では神経伝達物質、オレキシンの受容体の遺伝子が異常を起こしていたということです。同じころに、テキサス大学の柳沢正史氏のグループは全く別のアプローチでナルコレプシーの原因物質を発見したそうです。このグループはオレキシン遺伝子のノックアウトマウスを作製し、それが睡眠に関する遺伝子だということを発見しました。
この二つのグループは出発点や動機や方法が全く違いました。ただ偶然にも同じ時期に同じような結果へ到達したそうです。ミニョーのグループは、病気から病気の遺伝子を見つけるという順方向性の研究方法をしていました。それに対して柳沢氏のグループでは最初に機能のわからない遺伝子があり、その機能を探しているうちに病気にたどり着く、逆方向の遺伝学の手法を用いていました。前者は長い年月と労力がかかるのに対し、後者は遺伝子の情報が最初からあるため、非常に早く研究が進みます。遺伝子工学やコンピューター技術が発達してきて、様々な情報が手に入るようになって急速に発展してきた手法です。それが病気の解明へと結びついたということはとても興味深いことだと感じました。
いつどこでこのように二つの研究が偶然遭遇するかわからないと思いました。
遺伝子に関する分子生物学は近年のコンピューター技術の発展と共に飛躍的な発展をとげていると思います。私自身がそれを実感したのは大学へ入学してからでした。
私自身が研究をスタートさせた2003年には既に、様々なデータベースが存在しており、実際に検索してみるとすぐに情報が取り出せ、まさにこれも目から鱗でした。
こうやって様々な研究者がいつでも情報を取り出せるようにリンクしているということは非常に重要なことだと感じました。そして今のこの状態があるのは、これまでの研究の「歴史」があるからだと思います。この時代に研究をスタートさせることができるということはある意味すごく恵まれていると感じました。この環境をおおいに活用していきたいと改めて思いましたし、そのような状況ができた背景には「ナルコレプシー」の原因遺伝子を10年かけて探索したグループのように、なんとか病気の謎を解明しようとする人たちの存在があるのだということを忘れてはならないと思いました。
「遺伝子」の研究に関して、生命現象が解明されることに純粋に価値があるとも思いますし、そこに自分の興味もあります。それがさらに、画期的な医療技術に結びついたり、新薬の開発に応用されるとなればすばらしいことだと思いました。
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