2006年度 レポート第10回 回答集
熊本大学
生命資源研究・支援センター
バイオ情報分野
荒木 正健
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2007年 9月06日更新
2006年度 最前線の生命科学C レポ−ト第10回(2006年12月13日実施)回答集
[ テーマ ]「プリオンは生物か非生物か」
[ 回答 ](全13人)
<生物 1人>
・私はプリオンは生物だと思う。以前学習した通り、生物の定義は(1)外界と自分を区別するしきりを持つ(細胞壁を持つ)、(2)物質代謝を行える、(3)エネルギー代謝を行える、(4)増殖して子孫を残せる、の4つであった。確かにこの4つの条件全てを満たしている訳ではない。ただプリオン説を正しいと仮定すると、エネルギー代謝をどういう形でか行えて、正常型を異常型に変えることで増殖している事も確かだ。ウイルスの場合にもこの問いを考えたが、4つの条件全てを満たさなくても良いのではないだろうか。
生物と認めるにおいて一番大切なのは、何か意図をもって生命として生きている事だ、と私は考えている。理由ははっきりと判らないが正常型タンパク質を異常型タンパク質に変える事で増殖しながら生きている。人間にとっては不利な事かも知れないが、プリオンはこのような働き(役目、意図)を持ってBSEという病気を引き起こしているのだ。そこに人間との違いはない。ある意味、BSEを生み出す生産性を持っていると言ってもよい。
まだまだプリオン説の証明は完璧ではないようだが、BSEの恐怖が日本とアメリカの貿易に大きな影響を与えているのも事実だ。私自身、アメリカ産牛肉は疑わしく買いたくないし、BSEを引き起こすプリオンはイヤなものでしかない。しかしだからと言って私たちと同じ生物だと「思いたくない」というのはおかしい。学問としてあくまで客観的にプリオンを考えた場合、生物だと私は思う。 (文学部)
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少なくとも法律上(あるいは国際条約上)ウイルスは生物であると定義されています。この時点で、上記4つの条件を全て満たさなければならないという考え方は適用されません。ウイルスについては、「固有のゲノムを持つものが生物である」と考えれば、矛盾しません。しかしながら、プリオンはこの範疇にも入りません。「生物と認めるにおいて一番大切なのは、何か意図をもって生命として生きている事だ」という考え方もありうると思います。その場合「生命として」というキーワードが気になる所です。コンピューターウイルスやゲームソフトのキャラクターを生物と考えるかどうか? 自己複製能力を持つロボットは生物か? 冗談ではなく、真剣に考えなければならない時代に近づいていると思います。 (コメント by 荒木)
<非生物 11人>
・自分は無生物であると考える。資料を見た限りではエネルギーの出入りがないように思えるからだ。ではなぜ病原性を持つようになるのか。以前狂牛病について調べたのだが、自分の考えでは体内の同族プリオンの濃度が共食いによって高まると、大きな圧力がかかった石が変質するように、正常なプリオンも異常プリオンへと変質しやすくなり、変質したプリオンは他の哺乳類の正常プリオンも変質させるという特性を持つようになるのではないかというものだ。あくまで変質であり、生命活動ではないと思う。 (教育学部)
・私の考えではプリオンは非生物です。ただ、生物の定義の仕方によって様々な意見があると思うんですが…。自分の考えでは生物とは自分で増殖して増えることができるものなので、自分で増殖することの出来ないプリオンは生物ではないと思います。 (薬学部)
・私はプリオンは非生物だと考えます。プリオンや生物の定義についてはあまり理解していないので詳しく説明することはできませんが、病原型プリオンが増殖していく様子や他に感染する様子などを見ると確かに細菌など似ている部分があります。しかし、プリオン自身がなんらかの生命活動を行っているという話が出てきていないため、プリオンは生物としてではなく、ただの物質だと考えます。 (工学部)
・プリオンは生物ではないと思う。講義を聞いて初めてプリオンの存在を知ったが、プリオンはタンパク質という定義がなされていたので、生物ではないと考えるのが妥当だと思う。
(教育学部)
・最初プリオンという言葉を全く知らなかったんですが、今回の講義で理解することができました。感染性病原体である単一のタンパク質ということでプリオンの概念を発見できたことはすごいなと思いました。プリオンは生物か非生物かというのは判断しがたいです。でも、僕はプリオンはタンパク質なので非生物だと思います。 (工学部)
・僕は非生物ではないかと思います。ウイルスでも細菌でもなく、遺伝子を持っていない、あくまでもタンパク質であるというプリオン説に従うとすると生物であるという気がしないからです。 (文学部)
・今回初めてBSEの原因としてプリオンというものがあることを知りました。プリオンはウイルスなのかそうでないのかという議論がありますが、私はプリオンは生物ではないような気がします。なぜなら、自然発生することもあると聞いたからです。しかしもし本当に生物でなく、病気の予防法がなかったらいつ自分に発病するかわからないのでとても怖いです。自然発生や感染はどのように起こるのかなどの謎が早く解明されて欲しいと思います。それまでは全頭検査で感染しないような処置をきちんとして欲しいです。 (医学部)
・私は非生物だと思う。なぜならプリオンが増殖するといっても、病原性のプリオンが正常なプリオンを変異させているだけで、プリオンの総数が変化しているわけではないからだ。 (工学部)
・私はプリオンは生物ではないと思う。確かにプリオンは周囲の正常なタンパク質を変質・増殖するといった生物のような面を有している。しかし、プリオンも結局はタンパク質であり、生命体の構成要素でしかないように思える。特異な性質を持つが、タンパク質でしかないプリオンを生物とするのならば、全てのタンパク質を生物として扱う必要が出てくるのではないだろうか。 (工学部)
・私はプリオンは生物でない思う。プリオンはエネルギー変換能力と恒常性維持能力はあるが、ウイルスと同じで自己増殖能力を自己の中に持っていないのではないかと思うので生物で無いと思う。 (工学部)
・私はプリオンは生物ではないと思う。なぜなら、プリオンは遺伝子を持っていないからである。遺伝子持っていないからには生物と言うことはできないのではないだろうか??
(教育学部)
<その他 1人>
・私は“生物よりの非生物”だと思う。
語句が曖昧な気がするが、上記の様に述べた理由は二つある。
(1) (本当にプリオンがBSEの原因で、仮説通りの動きをするならば)
生物と非生物の両性質をもっている様に思えるからだ。
【生物】、【非生物】そして、【その他(生物性質を持つ非生物)】という新たな枠組みが必要になるのではないかと思う。
(2) 原始の地球に於いての生物の誕生に重なる様に思えるから。
これは原始の地球での海中の様子が思われたからだ。
海中には、生物の“元”である物質(=非生物)だけが浮いていて、それが突然の変化で生物となった。
だが、この“突然の変化”が今ゆっくりと起こっているとしたら、どうだろう?
蛋白質という“非生物”がプリオンという“過渡期”を経て“生物”となっているとしたら?
以上の様に考えた。
ちなみに上記の中で
『非生物の性質をもった生物』
ではなく
『生物の性質を持った非生物』
と書いたのは、プリオンが非生物から生物へ変わる途中(=まだ生物ではない)と思うからである。
『プリオンは生物よりの非生物(=生物へ変わる過渡期)』
これが私の考えるプリオンへの意見だ。 (文学部)
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素晴らしいレポートだと思います。「原始の地球に於いての生物の誕生に重なる様に思えるから」という文章には絶句してしまいました。そういう発想は今まで聞いた事がありませんし、逆にそうかも知れないと思わせるインパクトがあります。「蛋白質という“非生物”がプリオンという“過渡期”を経て“生物”となっているとしたら?」という文章も、新たに出現する“生物”はどういう姿をしているのか? という疑問が浮かび、あたかもSF映画のワンシーンに今、自分が参加している様な錯覚(それとも現実?)まで覚えます。この短い文章(詩)の中に、壮大なストーリーが閉じこめられており、さすが文学部というだけでなく、立派な生命科学者としての素質を感じさせます。(コメント by 荒木)
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