優秀作品(3)

熊本大学
生命資源研究・支援センター
バイオ情報分野
荒木 正健

Tel : (096) 373-6501, FAX : (096)373-6502
2011年 9月23日更新


『時間の分子生物学』(薬学部)

(1)この本を選んだ理由を書いて下さい。
 私はアルバイトと学業の両立のために週4日は夜4時に寝て朝7時に起きるという生活をしていて純粋に睡眠の重要性やそのメカニズムに興味をもったからです。

(2)この本で著者が一番伝えたい事は何だと思いますか?
 発展し続ける科学をもってしても未だに解明することができていない事が多い睡眠の奥深さ、そして生物時計など人間のもつ驚くべき仕組み、そしてそれらの分野での科学の進歩について。

(3)この本を読んで感じた事、考えた事を書いて下さい。
 この本を読み、人間の身体に組込まれた、驚異的なメカニズムに対してまず素直に驚きました。体内に組込まれた「1日を生きるための能力」、つまり生物時計はDNA上に刻まれた情報であり、ほとんど全ての生物が生まれながらにして24時間周期での活動周期をもっているのです。ではどうして生物はこのように周期的な活動を得る必要があったのでしょうか。それはやはり生物にとって生き残っていくために必要な事だったのだと思います。生物によって行動する時間、休息をとる時間は決まっています。ある生物は昼に、またある生物は夜に活動します。このように生物が活動時間にばらつきを生じさせたのには理由があるように思います。捕食被食相手の行動時間・太陽光の影響・日中の温度と夜間温度の差などです。これらはエサを得やすくすること、安全に休息すること、活動しやすさなど、全てにおいて生物はいかにエネルギーを節約しながら生活できるかということに深い関わりがあるように思います。得られるエネルギーを最も有効に活用するために生物は「1日という時間を刻む能力」をDNAという物質に種のアイデンティティーとして刻み、後世に伝え続けていく必要があったのだと思います。DNAに組込まれた情報を元に生物はタンパク質を作りだしますが、生物時計に関連するタンパク質の興味深い点は、その蛋白質が生理的機能を持っているだけではなく、そのタンパク質の量そのものが生物体内で時間を作りだしている点です。ホルモンのように体に直接働きかける生理活性をもつものが身体に影響を与えていると考えていた私にとって、タンパク質の量そのものを感知して生物が行動しているという点には驚きでした。(受容体に結合するという点では生理活性があるホルモンなどと同じと考えられるのかもしれませんが、その受容体に結合するタンパク質の量が生体に影響を及ぼす点が私には新鮮でした。)
 また時間というものを科学的な視点から考えたことがなかった私にとって時間とDNAが関わりをもっていることを知れたことも、この本を読んだ意義の1つになったと思います。「時間は時計にかいてある情報から派生するものである」と考えていた私の中の時間という概念の認識が改められたように思います。私達人間は、生活の中で自然と眠くなったり眠くなくなったりします。その時身体で起こっている仕組みについて考えることは、大きな意味があるように思います。その意義は、不眠症の治療やナルコプシーさらに発展させれば、時計の調節による、食欲・性欲の調節にも応用できると考えるからです。
 この本の後半に書かれていた文章は私にとって興味深いものでした。それは「オレキシン」という物質についてです。オレキシンはペプチドホルモンであり、特に神経伝達物質の一つです。この物質には、1.食欲行進作用 2.覚醒作用があるとされていました。このことは非常に興味深かったです。まず私はどうして食事の後強い眠気がおそってくるのかという点に疑問を持っていましたが、オレキシンという物質はその理由を教えてくれているように思います。食後眠くなる理由として私が知っていたものとオレキシンの作用によるものをあわせると下のようになります。
 1.食事によって胃などの消化管の働きが活性化されるとき、それらの臓器での相対的酸素の使用料が増え、脳まで届く酸素の量が減り眠気が増す。
 2.食事によって消化運動亢進により副交感神経の働きが優位になり、身体が休息状態になり、交感神経の働きが弱まるため眠気が増す。
 3.食事をとることで血糖値が上昇すると、オレキシンの分泌量は負のフィードバック作用によって減少することになり、それがオレキシンのもう1つの働きの覚醒作用の減衰をひきおこし、眠気が増す。
 これらの3つの考えはどれもだいたい理にかなっているものであるように思います。またこのオレキシンの特性を考えると過食症の薬への応用も考えられます。オレキシンの受容体に特異的に結合する阻害薬(アンタゴニスト)を用いることによって、食欲亢進を防ぎ、覚醒作用を防ぐ、つまりは満腹感かつ睡眠を得られる、言い換えると、食欲を睡眠欲へと変換できるのではないかということです。もしこんなことができれば過食症の人の精神的負担と身体への負担を軽くすることができるのではないでしょうか。
 このように食欲・睡眠欲という人間の3大欲求の2つの欲求に影響を示す1つの化学物質が存在することは人間にとって重要な発見です。生物はお腹が減ると食物を探します。極限状態では睡眠もとらず食べ物を探すことが、マウスの実験からわかっています。このように生物が生きるために2つ以上の欲求に相互作用を示すことは、人間の驚くべき身体の仕組みから考えると自然なことであるのかもしれません。オレキシンの他にも性欲と食欲・睡眠欲と性欲に関連する1つの化学物質の存在も否めなくなります。
 当初私がこの本を読み始めた動機からは大きく反れましたが、多くのことを考えるきっかけになるほんでした。またこれ以外にもREM睡眠が抑制系のニューロン、ノンREM睡眠が興奮性のニューロンを休ませるものであり、他にも多く意味があるREM睡眠とノンREM睡眠の両方を確保すること、ひいては、一定量以上の睡眠をとることは非常に大事であることを学びました。とりあえず、バイトはやめようという結論に至りました。
 この本をきっかけに私も睡眠についてかなり興味をもったので3年から研究室でこの3大欲求に関わる化学物質をターゲットにした創薬をしてみたいです。


*****2008年度・優秀作品*****
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