優秀作品(4)

熊本大学
生命資源研究・支援センター
バイオ情報分野
荒木 正健

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2011年 9月23日更新


『時間の分子生物学』(薬学部)

(1)この本を選んだ理由を書いて下さい。
 私達にとって非常に身近な生理現象、「睡眠」を扱っている点で興味をもちました。「生物時計」という言葉自体は高校の生物でも習いますが、本書では更に遺伝子と「生物時計」の因果関係、人間以外の生物の睡眠、少し前に話題にもなった「睡眠障害」についても解説しており、「何故人は眠くなるのか?」という素朴な疑問に分かりやすく答えてくれると感じました。

(2)この本で著者が一番伝えたい事は何だと思いますか?
 生物時計と睡眠の仕組みについては、現在高度なレベルまで進んでいるが、未だ未解明な部分も多く残されている。現代人の最も多い悩みの一つである「睡眠」についての問題は、分子生物学的にも興味深くチャレンジングなテーマだと言える。この分野は今後大きく発展する可能性を秘めており、そしてより多くの人が睡眠についての知識を広め、生活の役に立ててくれれば幸いである。

(3)この本を読んで感じた事、考えた事を書いて下さい。
 私達は、毎日夜、眠りにつき、朝、目を覚まします。寝不足になると、日中眠くなることもあるでしょう。これはひどく当り前のことですが、「何故、そうなるのだろう」と疑問を持った瞬間、途端に興味深い問題になります。私達は、何故、睡眠をとるのでしょうか、また睡眠とは何なのでしょうか。
 まず、生物には「生物時計」というものが存在します。私達は普段何気なく時計の示す時間に沿って行動していますが、本来時計に頼らなくても生物はほぼ24時間周期での行動が可能です。夜に眠くなり、毎朝目が覚めるのもこのためです。またこの生物時計は周りの環境(温度、湿度、気候など)によって精密に調整されます。一部の生物の「冬眠」や「繁殖」といった行動も、この「調整」と関係していると思います。思うに人間は、これまで多くの時計を作ってきましたが、自らのもつ「生物時計」以上に精確な時計は作れないのではないでしょうか。どのような時計も外部からの調整なしでは、必ず時間のずれが生じます。しかし、「生物時計」は一人でに調整を行い、環境の変化に適応し、更には生物が、生まれてから死ぬまでの間、ずっと稼働し続けているのです。これ以上の時計なんて、そうそう作れるものではないでしょう。さらに、この生物時計の刻む概日周期が24時間というのは前述のとおりですが、この周期は、外部環境の周期が24時間である(地球の自転を1回するのに24時間かかる)ということと何の関わりもないそうです。つまり、生物は何の環境の変化もない1日中暗い部屋に入れられても24時間周期の生活ができるというのです。これは、概日周期自体が遺伝子によって規定されている情報だからということですが、生物の概日周期が、外部環境の周期と全く一致しているというのも、興味深い話しです。おそらく、生物が進化の過程の中で周囲の環境と適応するため、概日周期は24時間に規定されたのでしょう。しかし、現代の人間生活の中で、私達は体内の生物時計ではなく、時計のみに頼って生活をしています。夜寝て朝起きる、という生物本来の生活をしない人も多くなりました。この生活リズムと、私達の生活リズムとのずれが、現代人の悩み「睡眠障害」を引き起こしているのではないでしょうか。
 私達は文明を築き「人間らしい」生活を得ましたが、同時に「生物らしい」生活を失いつつあるともいえます。睡眠不足もその弊害の一つでしょう。便利な生活の中で、人々は生物本来の本能に従うことを忘れてしまうのかもしれません。「睡眠」という分野は日々多くの研究がなされ、進歩している分野です。大きく興味をもち始めています。「より良い睡眠の仕方」や「適切な睡眠時間」についての情報は、多くの人が求めているでしょう。
 しかし、例え、「睡眠」についての謎が解き明かされたとしても「自分にとって必要な時に必要な時間だけ眠る」「朝起きて夜眠る」というのが、最良の睡眠方法であるという事実は変わらないのではないかと思います。私達は自分の体の声をもっとよく聞くべきではないでしょうか。
 人間の体は、私達が思う以上に精密に出来ています。本書を読んで、人体のもつ可能性を、改めて感じました。


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