熊本大学・遺伝子実験施設
助教授 荒木 正健
熊本市本荘2−2−1
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2000年 3月31日
Polymerase Chain Reactionの略。
センスプライマ−とアンチセンスプライマ−の間のDNA分子を数十万〜百万倍に増幅する技術。
PCR(polymerase chain reaction)は、1986年に発表された。開発したシ−タス社は、特許(パテント)を抑えると同時に、耐熱性DNAポリメラ−ゼ(Taq DNA Polymerase)と、PCR反応を行うのに都合の良い恒温槽(PCRマシ−ン)を発売し、大成功を収めた。
それまで、遺伝子工学の世界では、プラスミドという乗り物に目的とするDNA断片を乗せて、大腸菌や酵母菌、培養細胞などに導入し、それらの細胞を増やす(培養する)ことによって、結果的に目的とするDNAを増やしていた。従って、これら生き物を扱う必要があり、バイオハザ−ドの問題があるので、特殊な設備を持つ実験室が必要であった。PCRは、試験管の中で行う化学反応であり、生き物を必要としないので、ごく普通の実験室で行うことが可能である。
また、蛍光色素で染色したDNAを肉眼で見るためには、ナノグラム(ng = 10-9 g)以上の量を必要とするが、PCRを利用するとフェムトグラム(fg = 10-15 g)以下の検出が可能である。
*長さ1,000塩基対(1,000 bp = 1 kbp)のDNA断片の場合
1 fg = 1.5 x 10-21 mol = 103 分子
PCR産物を鋳型にして、再度PCRを行うことも可能であり、原理的には(現実的にも)、1分子のDNAからスタ−トして、肉眼で見えるまで増やすことが可能である。