平成10年1月16日
学術審議会特定研究領域推進分科会
バイオサイエンス部会
組換えDNA専門委員会
「大学等における組換えDNA実験指針」は,組換えDNA実験の安全の確保と適切な推進を図るため,昭和53年11月の学術審議会建議「大学等の研究機関における組換えDNA実験の進め方について」に基づき,「大学等の研究機関における組換えDNA実験指針」(昭和54年3月31日文部省告示第42号)として制定されたものである。
組換えDNA実験は,生命現象の解明等における画期的な研究手段として1970年代前半に登場して以来,バイオサイエンスのあらゆる分野における共通の研究手法として普及を見るとともに,当該分野の研究の飛躍的発展に寄与してきたところであり,この間,指針の方も,研究の進展に伴う知見の蓄積に基づき,8回にわたる改正が行われている。
前回の改正は,平成6年6月に実施されたが,その後も組換えDNAの手法を用いた研究の進展は著しく,本専門委員会においても,国内外の動向に対応しつつ最新の知見を反映すべく,指針改正の検討を行ってきた。
専門委員会における検討事項は多岐にわたり,今後も,さらに検討を継続する必要があるが,以下の点については,現段階において一応の成案を得,このたび,別紙のとおり改正案を取りまとめた。
ついては,本改正案の公的実施に向け,早急な措置が講じられることを期待したい。
(1) 動物個体を用いる実験においては,近年,感染受容体遺伝子の導入により新たな感染受容性を個体に付与する実験が増加しており,当該個体による感染の媒介等,環境影響に関する十分な評価を行う必要が生じている。
このため,特に,ヒトに感染すると通常重篤な疾病を起こす病原微生物への感染受容性を,ヒト以外の動物に新たに付与する実験については,実験に用いるDNA供与体及び宿主−ベクター系の生物学的性質による安全度評価に加えて,作製される個体による感染媒介の可能性等について十分な評価を行うため,大臣承認実験とする。
(2) ノックアウトマウスやP-エレメントを用いて作製した遺伝子破壊ショウジョウバエ,改変トランスポゾンやT-DNA等を用いて作製した遺伝子破壊シロイヌナズナ等,ヒトへの毒性,腐生性を持たず,他生物への自立的移行性を持たないDNA断片を導入して作製した動植物個体については,これまでに,多くの研究機関においてこれを用いた研究が行われ,その安全性が極めて高いことが確認されていることから,その実験室内での飼育・栽培及び研究者間の供与に関する条件を緩和する。
(3) 組換え動物個体の系統認定の制度については,遺伝子導入動物を用いた動物実験を進めるため,前回改定(平成6年6月文部省告示第80号)において系統動物の飼育に係る条件が緩和された。これにより,組換え動物個体とその子孫は,作製時にあらかじめ大臣承認を受けたもの以外についても,系統動物認定を受けて実験室外での飼育を行うことが可能となり,系統認定後の飼育方法については,原則として,組換え動物の管理に関する一般的な慣習や実験動物等の取扱に関する各種指針等のみに従うこととなった。しかしながら,実際の系統認定においては,感染実験動物の系統など,認定後も種々の条件の下に飼育を行うこととしているものがあり,飼育・供与に係る条件規定を一律に適用除外とする現行指針は,実態に合わない状況となっている。
一方,組換え植物の系統認定については,前回改定においても,機関承認による作製後の実験室外栽培のための見直しは行われなかったが,平成7年7月の解釈・運用通知(「大学等における組換えDNA実験指針の解釈・運用について」(7学助第34号))において,実験室外実験の大臣承認の手続に関し,ステージ分けに従った安全度評価・手順・留意事項等が示されたところであり,系統動物と同様の取扱とすることが適当となっている。
このため,文部大臣による系統動物認定の効力に関しては,飼育及び供与に関する条件規定をすべて適用除外とする現行規定を改めるとともに,系統植物についても,同様とする。
(4) Thermus属細菌を宿主とし,Thermus属細菌を宿主とするプラスミド又はそれらの誘導体をベクターとする宿主−ベクター系及び昆虫培養細胞を宿主とし,バキュロウイルスをベクターとする宿主−ベクター系については,すでに多くの実験において使用され,その安全性が高いことが確認されたことから,B1レベル宿主ベクター系として認定する。
(5) 原核生物及び下等真核生物の安全度分類(別表3)については,学術審議会バイオサイエンス部会(研究用病原体等小委員会)における「大学等における研究用微生物安全管理マニュアル」に関する検討等を踏まえ,必要な修正を行う。
なお,真核生物のウイルス及びウイロイドの安全分類度(別表4)については,自然界における相互の遺伝子交換の頻度をも考慮し,必要な修正を行うよう,さらに検討を進めることとする。
大学等における組換えDNA実験指針(平成6年6月9日 文部省告示第80号)を次のとおり改正する。
附属資料12-I-2-(3)の後に「(4) ヒト以外の動物個体に別表3-(1)並びに別表4-(1)及び(2)に掲げるものに対するヒトと共通の感染受容性を付与する実験」を加え,(4)を(5)とする。
附属資料12-I-2-(5)を(6)とし,「行う実験」の後に「(第5項の規定に係るものを除く。)」を加える。
附属資料12-I-2-(6)を(7)とし,「飼育する実験」の後に「(第5項及び第6項の規定に係るものを除く。)」を加える。
附属資料12-I-5を次のように改める。
第3項(3)から(9)及び第4項の規定は,ヒトへの毒性及び腐生性並びに他生物への自立的移行性を持たないDNA分子を導入して作製した動物個体には適用しない。」を加える。
附属資料12-Iに「6 文部大臣は,異種DNA分子を導入した動物のうち安定かつ安全な系統動物として認定したものについて,第3項及び第4項の規定の全部又は一部の適用を除外することができる。」を加える。
附属資料12-II-2-(3)の「行う実験」の後に「(第6項の規定に係るものを除く。)」を加える。
附属資料12-II-2-(4)の「飼育する実験」の後に「(第6項及び第7項の規定に係るものを除く。)」を加える。
附属資料12-II-6を次のように改める。
「第3項(2)[2]から[4],[8]及び[9]並びに第5項の規定は,ヒトへの毒性及び腐生性並びに他生物への自立的移行性を持たないDNA分子を導入して作製した植物には適用しない。」を加える。
附属資料12-IIに「7 文部大臣は,異種DNA分子を導入した植物のうち安定かつ安全な系統植物として認定したものについて,前3項の規定の全部又は一部の適用を除外することができる。」を加える。
別表2-1-(4)を次のように改める。
(4) 動植物培養細胞
[1] 昆虫培養細胞を宿主とし,バキュロウイルスをベクターとする宿主-ベクター系
[2] 動物培養細胞を宿主とする[1]以外の宿主−ベクター系で感染性ウイルス粒子が生じないもの
[3] 植物培養細胞を宿主とする宿主−ベクター系で感染性ウイルス粒子が生じないもの
別表2-1に
「(6)Thermus属細菌
Thermus属細菌(T.thermophilus,T.aquaticus,T.flavus,T.caldophilus,T.ruber)を宿主とし,Thermus属細菌を宿主とするプラスミド又はその誘導体をベクターとする宿主-ベクター系」を加える。
表3を次のように改める。
別表3
実験においてDNA供与体として使用する原核生物(リケッチア及びクラミジアを含む。)及び下等真核生物の安全度分類
(1)
Bacillus B. anthracis
Bartonella B. bacilliformis
Blastomyces B. dermatitidis
Brucella B. abortus
B. canis
B. melitensis
B. ovis
B. suis
Burkholderia B. mallei
B. pseudomallei
Coccidioides C. immitis
Coxiella C. burnetii
Francisella F. tularensis
Histoplasma H. capsulatum
H. duboisii
H. farciminosum
Mycobacterium M. africanum
M. bovis
M. tuberculosis
Mycoplasma M. mycoides
Paracoccidiodes P. brasiliensis
Penicillium P. marneffei
Rickettsia R. akari
R. australis
R. canada
R. conorii
R. montana
R. parkeri
R. prowazekii
R. rhipicephali
R. nickettsi
R. sibirica
R. tsutsugamushi
R. typhi
Rochalimaea R. quintan
R. vinsonii
Salmonella S. Paratyphi A
S. Typhi
Yersinia Y. pestis
(2)
Actinobaccilus A. actinomycetemcomitans
Actinomadura A. madurae
A. pelletieri
Actinomyces A. bovis
A. israelii
A. pyogenes
A. viscosus
Aeromonas A. hydrophilia
A. sorbria
Aspergillus A. fumigatus
Bacillus B. cereus
Bordetella B. bronchiseptica
B. parapertussis
B. pertussis
Borrelia 全種
Burkholderia B. cepacia
Calymmatobacterium C. granulomatis
Campylobacter C. coli
C. fetus
C. jejuni
Chlamydia C. pneumonia
C. psittacl
C. trachomatis
Cladosporium C. carrionii
C. trichoides
Closteridium C. botulinum
C. chauvoei
C. difficile
C. haemolyticum
C. histolyticum
C. novyi
C. perfringens
C. septicum
C. sordelli
C. sporogenes
C. tenani
Corynebacterium C. bovis
C. diphteriae
C. equi
C. haemolyticum
C. jeikeium
C. ovis/pseudotuberculosis
C. pyogenes
C. renale
C. ulcerans
Cryptococcus C. neoformans
Erysipelothrix E. rhusiopathiae
Exophiala E. dermatitidis
Escherichia coli (腸管病原性の全抗原型)
Fonsecaea F. pedrosoi
Francisella F. novicida
Fusobacterium F. necrophorum
Haemophilus H. ducreyi
H. influenzae
Helicobaacter H. pylori
Klebsiella K. oxytoca
K. pneumoniae
Legionella 全菌種
Leptpspira L. interrogans (全血清型)
Listeria L. monocytogenes
Moraxalla M. catarrhalis
Mycobacteria M. avium
M. bovis (BCG型)
M. chelonae
M. fortuitum
M. haemophillum
M. intracellulare
M. kansasii
M. leprae
M. malmmoense
M. marinum
M. paratuberculosis
M. scrofulaceum
M. simiae
M. szulgai
M. ulcerans
M. xenopi
Mycoplasma M. fermentans
M. hominis
M. pneumoniae
Neisseria N. gonorrhoeae
N. meningitidis
Nocardia N. sateroides
N. brasiliensis
N. farcinica
N. otitidiscaviarum
Pasteurella P. haemolytica
P. multocida (動物に疾病を起こす血清型は(1))
P. pneumotropica
P. ureae
Plesiomonas P. shigelloides
Pseudomonas P. aeruginosa
Rhodococcus R. equi
Salmonella 全血清型 (S. Typhi, S. Paratyphiは(1))
Serattia S. marcescens
Shigella 全菌種
Sporothrix S. schenckii
Staphylococcus S. aureus
Streptobacillus S. monilliformis
Streptococcus S. agalactiae
S. equi
S. pneumoniae
S. pyogenes
Treponema T. carateum
T. pallidum
T. pertenue
Vibrio V. cholerae
V. fluvialis
V. mimicus
V. parahaemolyticus
V. vulnificus
Yersinia Y. enterocolitica
Y. pseudotuberculosis
(3)
(1)および(2)に該当しないもの
ただし、病原性が新たに認められたものは除く