大学等における研究用微生物の安全管理について(報告)

平成10年1月20日
学術審議会特定研究領域推進分科会
バイオサイエンス部会


我が国の大学等においては,従来より,研究用微生物の安全管理の充実に努めてきたところである。研究用微生物を取り扱う各研究者にあっては,関連法令の遵守はもちろんのこと,関係学会等において各々の必要に応じた指針等(注1)を策定するなど自主規制の下に研究を行っており,少なくとも実験対象微生物からの感染については,過去20年以上にわたり,特記すべき感染例は報告されていない。(注2)

 しかしながら,近年においては,研究用微生物を用いた実験がより広範な分野で行われるようになり,その安全性の確保に関する基本的知識等が多くの研究者に求められるようになっている。このため,本部会では,新たに,総括的な指針として「大学等における研究用微生物安全管理マニュアル」(案)を定め,広く関係者への周知を図ることが必要であるとの認識に至った。

 本マニュアルにおいては,予め特定された研究用微生物を用いつつ微生物実験室において行う研究を,主たる適用ケースとして想定している。また,本マニュアルの内容は,大学等の安全管理体制等に関する基本的な事項のみに止めており,及ばない部分は,関係学会等の指針等を活用したり学内規則を定めたりして,各大学において必要に応じ補うものとしている。

 特に,病院などにおいても,微生物管理施設で行う研究については,本マニュアルを流用できると考えられるが,必要に応じ各大学等ごとに細則を定めることが望ましい。感染動物実験室についても同様である。病理解剖施設については,日本病理学会「病理業務における感染防止対策と廃棄物処理マニュアル」(1995年11月)があり,これを基に,各大学等で規則を設けることが可能であろう。病院内感染対策については,すでに多くの大学病院が規則を持っており,これを活用すべきである。

 なお,微生物の安全性に関しては,現在も日々様々な知見が積み重ねられているところである。本マニュアルについても,これら最新の知見を踏まえつつ,柔軟な見直しを行っていく必要がある。

(注1)
指針等:
大学等における組換えDNA実験指針 (文部省,1994)
病原体等安全管理規定(国立予防衛生研究所,1992)
微生物学における封じ込め実験指針(東京大学医科学研究所第二安全委員会,1987)
ウイルス研究におけるバイオセーフティ指針(日本ウイルス学会,1993)
日本細菌学会バイオハザード防止指針(日本細菌学雑誌36: 881-903,1984)
病原菌株の分譲におけるバイオセイフティーに関するガイドラインについて(日本細菌学会,1990)
感染性廃棄物の適正処理について(通知)(厚生省感染性廃棄物処理対策検討委員会,1992)
病理業務における感染防止対策と廃棄物処理マニュアル(日本病理学会業務委員会,1995)
感染動物実験における安全対策(案)(国立大学動物実験施設協議会,1987)
家畜衛生試験場微生物取扱規定(農林水産省家畜衛生試験場微生物株保存委員会,1995)
国立大学病院における院内感染予防対策(案)(国立大学病院における院内感染予防対策等の検討会,1991)

(注2)
 ただし,Hanta virus にすでに感染したラットを購入したことによる当該ウイルスの感染や臨床検体からの結核菌感染は報告がある。いづれも,実験者が実験対象が感染していることを知り得なかったケースである。

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熊本大学・遺伝子実験施設, E-mail:www@gtc.gtca.kumamoto-u.ac.jp