アクティブボード・2002年 2月
研究発表を行った学会;第24回日本分子生物学会年会
2001年12月9日〜12日(横浜)
タイトル;X 染色体上の癌抑制遺伝子としてのEts 転写因子 MEF
発表者;甲斐 広文
(薬学研究科 分子機能薬学専攻 遺伝子機能応用学講座)
Abstract;
Ets 転写因子は、細胞の増殖、分化、生存などの様々な生命現象に関与しており、特に癌の悪性化を引き起こすと考えられている。しかしながら、近年、癌細胞において高頻度に loss of heterozygosity (LOH)の見られる、11q13 上にEts 転写因子であるESE-3 があることが同定され、癌抑制遺伝子として機能しているのではないかという報告がなされた。今回我々は、癌細胞において LOH が観察される、Xq26.1 に存在するEts 転写因子 MEF が、癌抑制遺伝子としての機能を持っていることを報告する。我々は、MEF の癌細胞に対する機能を、解析するために、MEF 高発現癌細胞株を作成した。このMEF 高発現細胞株を、ヌードマウスの皮下に接種したところ、腫瘍の縮小が見られ、組織学的に検討したところ、高分化腺と血管新生の抑制が見られた。さらに、腫瘍内の MMP活性とIL-8 の発現を比較した結果、MEF 高発現細胞由来の腫瘍内で減少していた。癌の悪性化引き起こすEts 転写因子であるEts2 は通常、細胞質に存在し、増殖因子などの刺激によって核に移行し、サイトカインやメタロプロテアーゼを活性化する。MEF は恒常的に核に存在することがわかった。そこで我々は、MEFは恒常的に核に存在し、Ets2 の標的遺伝子である癌の悪性化に関与している因子(MMP-9, IL-8)のプロモータ上に結合し、Ets2 による転写活性化を抑制しているのではないかと考え、これらの因子のプロモーターアッセイを行った。その結果、MEFはEts2 転写を活性化を抑制することがわかった。したがって、癌細胞でのLOH による MEF の発現の消失が、Ets2 による癌の悪性化を引き起こすのではないかと考えられ、Ets 転写因子群の発現のバランスが、癌の進行において重要であることが示唆された。
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