アクティブボード・2002年 3月
研究発表を行った学会;第31回日本免疫学会学術集会
2001年12月11日〜13日(大阪)
タイトル;Herpesvirus saimiri(HVS)による形質転換ヒトCD4陽性T細胞株の樹立とそれを用いた抗原特異的T細胞応答の解析
発表者;塚本 博丈
(医学研究科 免疫識別学講座)
Abstract;
Tリンパ球(T細胞)はヒト組織適合性白血球抗原(human histocompatibility leukocyte antigen; HLA)分子に結合した外来異物(抗原)に由来するペプチドを特異的に認識し増殖する。しかしT細胞の抗原識別は従来考えられていたほど厳密ではなく、抗原ペプチドのアミノ酸残基の一部を他のアミノ酸に置換したものもT細胞に何らかの応答を誘導することが明らかになってきた。このような抗原ペプチドアナログのうち、それ自身の刺激ではT細胞の増殖応答を誘導せず、かつ抗原ペプチドとの共存下では、抗原ペプチドが誘導するT細胞の増殖応答を抑制するもの(アンタゴニスト)が存在する。T細胞の抗原特異的な活性化機構を理解する上で、アンタゴニストがどのようにしてT細胞の抗原特異的な増殖応答を抑制するのかを解明することは重要なことである。
本研究はアンタゴニストペプチドに対するT細胞応答の特徴を解析し、本来の抗原ペプチド刺激との違いを検討することを目的とした。そこで、生化学的な解析に必要な大量のT細胞を得るために、抗原特異性の明らかなヒトCD4陽性T細胞クローンYN5-32をHerpesvirus saimiri(HVS)により形質転換し、末梢血単核球細胞(peripheral blood mononuclear cell; PBMC)と抗原ペプチドによる定期的な抗原刺激を必要とすることなくIL-2依存性に増殖するT細胞株T5-32を樹立した。T5-32は親細胞と同様の抗原特異性を保持しており、抗原およびアンタゴニスト刺激によるヒトT細胞内のシグナル伝達経路の解析に有用であると考えた。
T5-32のT細胞受容体(TCR)を介したシグナルの解析を行ったところ、抗原ペプチド-HLA複合体による刺激で増殖するT5-32では、シグナル伝達分子であるZAP-70、SLP-76、LATのリン酸化が誘導され、ERKの活性化が直ちに認められるのに対し、T5-32に増殖を誘導する高密度のアンタゴニスト-HLA複合体の刺激の中には、ZAP-70、SLP-76、LATのリン酸化を伴わずにERKを活性化するものが存在した。さらにこのアンタゴニスト刺激により誘導されるERKのリン酸化は、抗原刺激により誘導されるものと比べて遅れることがわかった。
以上のことは、アンタゴニスト刺激がT細胞に対して何らかのシグナルを与えることを示し、そのシグナルは抗原刺激によるものと質的に異なり、抗原刺激により活性化されるシグナル伝達経路とは異なる経路によりERKを活性化することを示唆する。
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