アクティブボード・2003年2月
研究発表を行った学会;第25回日本分子生物学会年会
2002年12月11日〜14日(横浜)
タイトル;エンドセリンによる神経堤細胞の発生・分化機構の解析
発表者;福原 茂朋 氏
(熊本大学・発生医学研究センター・細胞識別分野)
Abstract;
エンドセリン-1(ET-1)およびエンドセリンタイプA受容体(ETAR)シグナルは、鰓弓形成に関与する神経堤細胞の発生・分化に必須であるが、その分子機序については不明な点が多く残されている。本研究では、この疑問を解明するため(1)マウス全胚培養法を用いたET-1/ET-ARシグナルの解析システムを確立、さらに(2)ET-AR発現細胞特異的遺伝子導入システムの開発を試みた。頭部神経堤細胞が遊走を開始する前後の胎生8.5日胚を、ET-AR特異的アンタゴニスト、BQ123存在および非存在下で約48時間培養したところ、BQ123非存在下で培養した胚は形態的にほぼ正常な発生を示したのに対し、BQ123存在下で培養した胚では、ET-1遺伝子欠損マウス胚で観察されるような鰓弓の低成長およびET-1/ET-ARシグナルの下流核転写因子、dHANDの発現低下が見られた。このことから、鰓弓形成に必要なET-1/ET-ARシグナルがこの培養期間内に伝達され、さらにBQ123処理によってそのシグナルのON/OFFを自由に制御できることが示された。
次にトリレトロウイルス受容体、TVAのシステムを応用して(2)の開発を試みた。哺乳動物細胞はTVAを持たないことから通常ウイルス感染を受けないが、TVAを人工的に発現させることによりそれが可能になる。そこで、ET-AR発現細胞でのみウイルス感染を可能にするため、ET-AR遺伝子プロモーター(昨年の年会でこのプロモーターがET-ARを発現する頭部神経堤細胞において機能することを既に報告)によってTVAの発現が制御されるトランスジェニックマウス(ET-AR/TVA Tg)を作製した。ET-AR/TVA Tgマウス由来神経堤細胞およびその胎生8.5日胚をRcasGFP(GFPをコードしたウイルス)存在下で培養したところ、両培養系においてRcasGFPの感染が確認された。特に全胚培養系では、頭部神経堤細胞の遊走ルートにそってGFPの蛍光が見られた。このことから、ET-AR/TVA TgマウスではET-AR発現細胞が特異的にウイルス感染を受け、遺伝子導入が可能であることが示唆された。
今後、これらシステムを用いてET-1/ET-ARシグナルがいかに神経堤細胞および鰓弓の発生を制御しているのか解析を進めていく。
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