アクティブボード・2月

熊本大学・遺伝子実験施設
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2003年 2月 3日 更新


アクティブボード・2003年2月

研究発表を行った学会;第25回日本分子生物学会年会
2002年12月11日〜14日(横浜)
タイトル;発生段階・遺伝子プロモーター特異的なDNAメチル化制御による神経幹細胞分化転換機構
発表者;波平 昌一 氏
   (熊本大学・発生医学研究センター・転写制御分野)
Abstract;
 ほ乳類の中枢神経系において、グリア細胞に属するアストロサイトはニューロンと共通の神経幹細胞から分化するものの、胎生中期の脳ではニューロン分化は盛んに生じるがアストロサイト分化は皆無である。一方、胎生終盤になるとニューロン分化はほとんど見られず、代ってアストロサイト分化が優位となる。このような発生に伴う神経幹細胞から分化する細胞系譜の優位性転換機構については不明な点が多い。脳内には胎生期に応じてアストロサイト分化に必要なサイトカインが存在していることから、この現象への細胞内在性メカニズムの関与が示唆される。GFAP陽性の成熟したアストロサイトの分化には転写因子STAT3の活性化が必須であり、GFAP遺伝子のプロモーターにはこの遺伝子発現にクリティカルなSTAT3認識配列が一つ存在する。神経幹細胞を含有する胎生後期(14日目)のマウス神経上皮細胞は、LIF刺激でSTAT3が活性化され、4日程度でGFAP陽性アストロサイトヘと分化したが、胎生中期(11日目)の神経上皮細胞をLIFで刺激しても細胞内のSTAT3は活性化されるにも関わらず、GFAPの発現が見られなかった。GFAP遺伝子のプロモーターに存在するSTAT3認識配列はCpG配列を含み、シトシンのメチル化を受けるポテンシャルがあるため、bisulfite法を用いてSTAT3認識配列中のシトシンのメチル化の頻度を解析した。その結果、胎生14日目の神経上皮細胞やGFAP陽性のアストロサイトにおいてはSTAT3認識配列中のCpGはほとんどメチル化されておらず胎生11日目 の神経上皮細胞では高頻度にメチル化されていることがわかった。さらにSTAT3認識配列のメチル化によりSTAT3の結合能と転写活性が共に消失することも明らかにした。またGFAPのみならず、幼若なアストロサイト特異的遺伝子S100βの転写調節領域のCpGも発生に伴いメチル化の頻度が激減することがわかった。これらの結果は神経幹細胞が発生に伴いニューロンからアストロサイトへと分化系譜の優位性が転換していく過程にDNAの脱メチル化が必須であるということを示唆しており、神経幹細胞の分化制御には細胞内在性の機構としてDNAのメチル化が深く関与することを示している。


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