アクティブボード・2003年4月
研究発表を行った学会;日本免疫学会学術集会
2002年12月4日〜6日(東京)
タイトル;HCCの新しい腫瘍マーカーGlypican-3 (GPC3) の同定と、そのHCCの癌化および癌の進展における役割、およびGPC3 由来癌拒絶抗原ペプチドの同定
発表者;中面 哲也 氏
(熊本大学・医学薬学研究部・免疫識別学講座)
Abstract;
我々は、cDNAマイクロアレイのデータより、HBV、HCVに関係なくほとんどの肝細胞癌で特異的に高発現する新しい癌胎児性抗原Glypican-3 (GPC3) を同定した。GPC3は胎生期の肝臓、腎臓、肺に高発現するが、成人では胎盤で高発現する以外、他のあらゆる正常臓器ではほとんど発現しない。GPC3は膜蛋白であるが、分泌されうる蛋白で、ELISAにより、HCC患者40人中16人(40%)の血清中にGPC3蛋白を定性的にも定量的にも検出できた。GPC3蛋白は肝硬変・慢性肝炎などの他の肝疾患、健常人、さらには他の様々な癌患者の血清中には全く検出されなかった。また、術前、ELISAにより血清中にGPC3蛋白が検出された患者3例において、3例とも癌手術後に血清GPC3蛋白が陰性化した。AFP、PIVKA-IIとは相関は認められず、両者が陰性の患者4例において血清中にGPC3蛋白が検出され、うち3例はStage IIの比較的早期の症例であった。以上よりGPC3の新しいHCCの腫瘍マーカーとしての有用性が示唆された。さらに、NIH3T3細胞にGPC3をトランスフェクションするとトランスフォームし、癌化に関連することがわかった。GPC3は膜蛋白であるが、膜上でGPC3とFGF2あるいはFasLが結合していることが認められた。HCCはHypervascularな腫瘍であるが、GPC3がFGF2と結合することで自己のFGFレセプターに活性化シグナルが入り、その下流のErkがリン酸化して活性化され、血管新生が生じる可能性が示唆された。またGPC3が膜上に存在することでFasLが膜上にトラップされ膜での密度が増加し、これにより、Fasを高発現している周囲の非癌部の肝細胞やリンパ球をアポトーシスに陥れ、腫瘍の成長や免疫系からのエスケープに関与している可能性が示された。GPC3が高発現する細胞だけを選択的に殺せる免疫療法を開発できれば、HCCだけを傷害し、なおかつ自己の正常組織には傷害を与えない理想的な癌治療が可能になる。HLA-A24は日本人にとっては最もメジャーなHLAで、約6割が発現している。一方、BALB/cマウスのKdはHLA-A24とほとんど同じペプチドをのせることがわかっている。そこで、我々はヒトマウスGPC3共通でなおかつHLA-A24にもKdにものると考えられる12種類のペプチドを合成し、GPC3を標的とした免疫療法の可能性を、マウスを用いて検討し、エピトープペプチドを同定できた。このエピトープペプチドがヒトにおいても有効であることも確認した。
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