熊本大学
生命資源研究・支援センター
遺伝子実験施設
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2003年 9月 1日 更新
アクティブボード・2003年9月研究発表を行った学会;COEリエゾンラボ研究会サマー・リトリート・セミナー 2003年 8月28日〜29日(札幌) タイトル;発生初期に致死となるELYSノックアウトマウスの解析 発表者;沖田 圭介 氏 (熊本大学 発生医学研究センター 転写制御分野) Abstract; マウスの個体発生において血球細胞の輩出の場は胚体外組織である卵黄嚢に始まり、やがて胎仔本体へと移って行く。以前、私たちは初期の造血に関わる因子を同定するために、卵黄嚢において造血が盛んな時期(胎生9.5日)と低下した時期(胎生13.5日)を用いてサブトラクションクローニングを行った。その結果、2243個のアミノ酸からなる遺伝子を単離し、ELYS (Embryonic Large molecule derived from Yolk Sac) と名付けた。cDNA配列から予想されるアミノ酸配列中には核移行シグナル、核外移行シグナルおよびAT hookと呼ばれるDNA結合モチーフが認められた。核移行シグナルまたは核外移行シグナルを欠失させた変異タンパク質はそれぞれ細胞質および核に局在した。また、GAL4タンパク質のDNA結合ドメインとの融合実験より、ELYSには転写活性化能をもつ領域とそれを抑制する領域が存在する事がわかった。以上の結果から、私たちはこの遺伝子が転写因子として働いているのではないかと考えている。 生体におけるELYSの機能を明らかにするために、相沢ら(理化学研究所)と共にELYSノックアウトマウスを作製した。ELYSヘテロ欠損マウスは外見上特に異常が認められず繁殖も可能であった。しかし、新生仔の中にホモ欠損マウスは認められなかった。発生の時期を追って調べると、ホモ欠損胚は胎生3.5日目には正常の形態をした胚盤胞を形成するが、胎生7.5日目には胚が認められなくなっていた。胎生5.5日目の組織切片を調べたところ、胚の吸収像が高率に見られた。以上から、ホモ欠損体は少なくとも一部は着床するが、造血が始まる以前の胎生3.5日目から5.5日目の間に致死となると考えられた。そこで胎生3.5日目の胚盤胞を回収して詳しい解析を行った。ヘテロ欠損体をin vitroで培養すると、胚盤胞を構成する内部細胞塊および栄養外胚葉細胞がそれぞれ特徴的な形態を示して増殖した。それに対し、ホモ欠損体では栄養外胚葉細胞は認められたものの、内部細胞塊様の細胞は認められなかった。胚盤胞から内部細胞塊のみを単離して培養を試みたが、ホモ欠損体に由来する細胞の付着および増殖は認められなかった。これらの結果は内部細胞塊の生存・増殖にELYSが重要な役割を果たしていることを示唆している。また、この時期のELYS mRNAの発現は内部細胞塊のみならず栄養外胚葉細胞にも認められた。このことからELYSが栄養外胚葉細胞においても同様の役割を果たしているのではないかと考えて、さらに詳細な解析を続けている。 |