熊本大学
生命資源研究・支援センター
遺伝子実験施設
熊本市本荘2−2−1
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2003年 9月 1日 更新
アクティブボード・2003年9月研究発表を行った学会;COEリエゾンラボ研究会サマー・リトリート・セミナー 2003年 8月28日〜29日(札幌) タイトル;細胞核ドメインと遺伝子発現調節 発表者;斉藤 典子 氏 (熊本大学 発生医学研究センター 器官制御分野) Abstract; 細胞核は遺伝子の転写、複製、修復など生体に重要な活動が行われる場で、それらの活性の制御に核内構造が役割を果たしている可能性が示唆されている。Interchromatin Granule Clusters (IGC)は、細胞核内に存在する構造体で、クロマチンとクロマチンの間に存在し、スプライシング因子に富み、スプライシング因子等の貯蔵、修飾、複合体の形成等の場であると提唱されている。IGCの構造は転写活性を反映し、例えばRNAポリメラーゼIIを阻害する為にアマニチン処理をすると構造が著しく変化する。IGCに存在する全ての蛋白質因子を同定しその全体像を把握し、細胞内における機能を理解することを目的に我々はマウスの肝臓よりIGCを分離精製し、ショットガン法によるマススペクトロメトリー解析(LC-MS/MS)を行った。飽和した解析の結果、147の既知の蛋白質と33の新規の蛋白質の他、70以上のIGC蛋白質の候補を検出した。同定された蛋白質を解析した結果、70%以上がRNAに関与した蛋白質であり、IGCが細胞内の主なRNP複合体の場であることを支持した。また、スプライシング因子のみならず、RNA ポリメラーゼIIのサブユニットや転写因子、Nonsense-Mediated Decay (NMD)因子等、RNAの合成からpre-mRNAプロッセッシング、RNAの細胞質への輸送までの全ての段階に関わる因子を含むこと、しかし、RNA ポリメラーゼIとIIIは存在しないことから、IGC がRNAポリメラーゼIIに特異的な構造体であることがわかった。血清刺激で直ちに転写が誘導されるc-fos遺伝子の転写の場をFISHにより転写の場を可視化すると、ほぼ全ての細胞でc-fos遺伝子がIGCと局在しながら転写されていることを見い出し、実際にIGCが遺伝子発現に関わる核構造体であるという考えを支持した。興味深いことに、10%程度の細胞ではc-fos遺伝子の転写の場はPML ボディーとも一致し、PMLボディーを形成できない細胞内では正常なc-fos遺伝子の発現誘導ができないことと考え合わせると、PMLボディーと転写の場の局在は一過的なもので、転写の特定の段階に PML ボディーが関わりと考えられる。遺伝子発現において二つの核内ボディーが異なるタイミングで役割を果たしていると考えられる。 |