アクティブボード・2003年11月

     ・・・・・2003年11月7日更新・・・・・

研究発表を行った学会;日本ウイルス学会 第51回学術集会
2003年10月27日〜29日(京都)
タイトル;HIV感染細胞に不応答性を示すHIVエピトープ特異的CD8 T細胞のex vivo解析
発表者;上野 貴将 氏
   (熊本大学 エイズ学研究センター ウイルス制御分野)
Abstract;
[目的と意義]
 HIVによる細胞傷害性T細胞(CTL)からの逃避機序として、T細胞の成熟異常、アポトーシスへの高感受性、エピトープ変異などが示されているが、未だ全容は明らかではない。我々は昨年、HIV感染細胞に不応答なHIVエピトープ特異的CTLクローンを報告した。本研究ではCTLクローンの不応答性が培養時の人為的な要因によるものではなく、感染細胞に不応答なCD8 T細胞はHIV感染患者の生体内に存在することを明らかとした。
[材料と方法]
 HLA-B35を持つHIV慢性感染者の末梢リンパ球を抗原ペプチド(IPLTEEAEL)またはHIV感染細胞で刺激後、2週間培養した。テトラマーとT細胞レセプター(TCR)可変領域(Va12またはVd1)に対する抗体で染色して、TCRが異なる抗原特異的CD8 T細胞をフローサイトメトリーで検出した。
[結果]
 CTLクローン55(Vd1陽性)と589(Va12陽性)は、エピトープペプチドに対してほぼ同等の細胞傷害活性とサイトカイン産生能を示すが、589はHIV感染細胞を殺傷するにもかかわらず55は感染細胞に不応答であった。まず患者末梢リンパ球のex vivo解析を行ったところ、抗原特異的(テトラマー陽性)細胞は全CD8 T細胞の約0.1%を占め、そのうち20%がVa12陽性で残りの80%がVd1陽性であった。ペプチドによる刺激を加えたところ、テトラマー陽性細胞数は約50倍に増殖し、30%がVa12陽性で70%がVd1陽性であった。一方、HIV感染細胞による刺激では、テトラマー陽性細胞は約30倍に増殖したが、その80%以上がVa12陽性であった。Vd1陽性細胞は10%以下に過ぎず増殖は認められなかった。以上のことから、HIVエピトープ特異的CD8 T細胞中には、HIV感染細胞による抗原刺激に対して増殖応答をしないサブセットの存在が明らかとなった。興味深いことにVd1陽性細胞の方がVa12陽性細胞より強くテトラマーに染色されたが(3倍以上)、詳細な結合・解離キネティクスの解析から、結合親和性の差は解離フェーズに依存することが明らかとなった。抗原との結合親和性が高すぎると、逆にHIV感染細胞に対するT細胞の感受性を低下させることが示唆された。
[考察]
 本研究の結果は、CTLがHIV感染細胞を排除できない直接的な原因を表している。抗原認識の親和性が与える影響を含め、HIV感染細胞に対する不応答性を導く分子機序をさらに明らかにしていきたい。


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