研究発表を行った学会;
第 20 回日本薬学会九州支部大会
2003年11月29日〜30日(福岡)
および第 13 回アンチセンスシンポジウム
2003年12月 1日〜 2日(大阪)
タイトル;高機能性遺伝子・siRNAキャリアーとしてのデンドリマー/シクロデキストリン結合体の構築
発表者;堤 利仁 氏
(熊本大学 医学薬学研究部 製剤設計学分野)
Abstract;
昨今、医薬品分子候補品は多様化し、様々な分子量や物理化学的性質を有する化合物の開発が行われている。特に、核酸分子の多くは負電荷を有する水溶性の高分子であることから、それ自身では医薬品になりにくく、ドラッグデリバリーシステム(DDS)の必要性が叫ばれている。遺伝子用キャリアーは、ウイルスベクターおよび非ウイルスベクターに大別されるが、後者は前者に比べて、一般に免疫原性、癌遺伝子活性化などのリスクが少ないものの遺伝子導入効率が低いという欠点を有する。そこで我々は、非ウイルスベクターの遺伝子導入効率の改良を企図して、低分子量ポリアミドアミンスターバーストデンドリマー(dendrimer)と単分子的ホスト分子として知られるα-シクロデキストリン(α-CyD)との結合体(α-CDE結合体) を新規に合成し、種々の分子デザインを行った。その結果、α-CDE結合体は市販の遺伝子導入試薬と同等以上の導入効率を示すとともに、非常に安価に化合物を得ることができた。1-3) また、最近α-CDE結合体は、配列依存的かつ標的遺伝子特異的にその発現を強力に抑制できるsmall interfering RNA (siRNA) に対するキャリアーとしても利用可能なことを明らかにした。そこで本講演では、遺伝子およびsiRNAに対するキャリアーとしてのα-CDE結合体の可能性について紹介する。
遺伝子デリバリー
まず我々はジェネレーション2(G2)のdendrimerとα-CyD, β-CyD または γ-CyDとのモル比1:1結合体を調製し、これらの遺伝子導入能を NIH3T3およびRAW264.7細胞にトランスフェクション後のルシフェラーゼ活性を測定して評価した。その結果、α-CyDとの結合体(α-CDE結合体)はdendrimer単独と比較して約100倍高い遺伝子導入能を示した。1) 次に、dendrimerのジェネレーションの影響を検討した結果、NIH3T3細胞において、pDNA/α-CDE結合体 (G3) との複合体の遺伝子導入効率が最も高いことを明らかにした。2) さらに、α-CDE結合体(G3)中のα-CyDの平均置換度 (DS) の影響について検討したところ、DS 1.1, 2.4, 5.4体の中で、α-CDE結合体 (G3, DS 2.4) はチャージ比200および400にて他のα-CDE 結合体並びにTransFastTMよりも高い遺伝子発現量および遺伝子発現効率が得られることを示した。3) また、pDNA/α-CDE結合体(G3, DS 2.4)含有懸濁液をマウスの尾静脈から投与し12時間後の各臓器中における遺伝子発現は脾臓で著しく高く、続いて肝臓で高いことを示した。3) また種々の検討結果から、α-CDE結合体(G3, DS 2.4)による遺伝子導入効果の増大は、pDNAとの複合体形成能や複合体の細胞会合性の違いではなく、α-CyDの包接能を介したpDNAの細胞内動態の相違に起因する可能性が示唆された。
siRNAデリバリー
RNA interference (RNAi) は、特定の遺伝子配列に対応する二本鎖 RNA の導入により、対応する mRNA が特異的に分解され遺伝子発現が抑制される現象であり、その特異性の高さから医薬への応用が期待されている。そこで我々は、α-CDE 結合体 (G3, DS 2.4) の siRNA 用キャリアーとしての可能性を評価した。その結果、α-CDE 結合体は pGL3 control vector を用いた系において、配列特異的な遺伝子発現抑制効果を示した。しかし、pGL2-siRNAは全く抑制効果を示さなかった。同様に pGL2 control vector 系においても、α-CDE 結合体 (G3, DS 2.4) は siRNA 配列特異的および濃度依存的な抑制効果を示した。本実験条件下、α-CDE結合体/siRNA複合体による細胞障害性は観察されなかった。α-CDE 結合体 (G3, DS 2.4) による遺伝子発現抑制効果は A549, HepG2, MDCK 細胞においても同様に観察された。それに対して、Lipofectin, Lipofectamine2000, TransFast を用いた場合、pGL3 および pGL2 control vector 系において、siRNA 配列非特異的な抑制効果が観察された。
以上の結果から、α-CDE 結合体 (G3, DS 2.4) は遺伝子およびsiRNA導入試薬としての可能性が期待されるとともに脾臓を標的臓器とするDNAワクチンへの応用が期待される。さらに現在、標的臓器指向性を有する α-CDE結合体分子を構築中である。
参考文献
1. H. Arima, F. Kihara, F. Hirayama, K. Uekama, Enhancement of gene expression by polyamidoamine dendrimer conjugates with α-, β- and γ-cyclodextrins. Bioconjugate Chem., 12, 476-484 (2001).
2. F. Kihara, H. Arima, T. Tsutsumi, F. Hirayama, K. Uekama, Effetcts of structure of polyamidoamine dendrimer on gene transfer efficiency of the dendrimer conjugate with α-cyclodextrin. Bioconjugate Chem, 13, 1211-1219 (2002).
3. F. Kihara, H. Arima, T. Tsutsumi, F. Hirayama, K. Uekama, In vitro and in vivo gene transfer by an optimized α-cyclodextrin conjugate with polyamidoamine dendrimer. Bioconjugate Chem., 14, 342-350 (2003).
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