研究発表を行った学会;第26回日本分子生物学会年会
2003年12月10日〜13日(神戸)
タイトル;細胞増殖を正と負に制御するシグナルのクロストーク:STAT3とp53の相互作用の検索
発表者;餅田 みゆき 氏
(熊本大学 発生医学研究センター 転写制御分野)
Abstract;
サイトカインシグナルは、細胞の分化や増殖、死といった一連の細胞運命付けの過程に深く関与している。その中でも、種々のサイトカインの下流で働く転写因子STAT3はこれらの各局面で重要な働きを担っていることが知られている。我々の研究室は、STAT3の727番目のセリン残基をリン酸化する因子を探索し、部分長のHIPK2 (homeodomain-interacting protein kinase-2)を単離した。 HIPK2はセリン/スレオニンキナーゼで、転写抑制因子として機能していることがすでに知られているが、最近の報告からHIPK2が癌抑制遺伝子であるp53と結合すること、またUV刺激細胞での発現上昇が認められ、p53の46番目のセリンをリン酸化し、細胞をアポトーシスへ導くことが示唆されている。そこで我々は細胞増殖制御機構をさらに理解するため、細胞増殖を正に制御するSTAT3、そしてアポトーシスに関与し、細胞増殖を負に制御するp53、どちらの因子とも相互作用を示しているHIPK2が細胞増殖制御においてクロストークしているのではないかと考え、関与している因子群の相互作用について解析した。遺伝子導入法を用いて培養細胞内にSTAT3とHIPK2を強制発現させ、蛋白質間相互作用を調べたところ、物理的に相互作用することが確認された。また、HIPK2はSTAT3と相互作用することが知られているp300とも結合することがわかった。STAT3とp300の相互作用はHIPK2によって阻害されることから、HIPK2がSTAT3とp300の関与する細胞増殖や分化の制御に関与している可能性が示唆された。さらに、STAT3とp53の相互作用を検討するため、両者を培養細胞に強制発現させ蛋白質間相互作用を調べた。しかし、直接的な両者の物理的相互作用は確認できなかったが、p300を介することでSTAT3がp53と間接的に相互作用していることが認められた。また、p53の結合配列を有しているp21 promoterを用い、p53によるp21の転写活性に対するSTAT3の効果を検討した。その結果、p53により誘導されるp21の発現をSTAT3が抑制していることを示唆する結果が得られた。以上のことから、STAT3とp53の関わる核内蛋白複合体が細胞増殖を正・負に制御するシグナルのクロストークの場となっている可能性が考えられた。
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