アクティブボード・2004年3月

     ・・・・・2004年2月28日更新・・・・・

研究発表を行った学会;第26回日本分子生物学会年会
2003年12月10日〜13日(神戸)
タイトル;胎生期の神経分化におけるAINTの役割
発表者;落合 和 氏
   (熊本大学 発生医学研究センター 転写制御分野)
Abstract;
 神経系を構成する主要な細胞種であるニューロン、アストロサイトおよびオリゴデンドロサイトは多分化能と自己複製能を持った共通の前駆細胞(神経幹細胞)から分化する。神経幹細胞は脳室周囲に局在し、未分化状態を維持したまま増殖する一方で、それぞれ異なる細胞系譜へと分化する。神経幹細胞を含む神経上皮細胞はbFGFの存在下で未分化状態を維持したまま増殖する。この未分化状態維持機構を明らかにするために、神経幹細胞を含有するマウス胎仔終脳由来神経上皮細胞をbFGF存在下あるいは非存在下で培養し、それぞれ特異的に発現する遺伝子群をcDNAマイクロアレイを用いて同定した。その結果、bFGF存在下に培養した神経上皮細胞により強く発現するとともに、胎仔期に神経幹細胞が局在している脳室周囲に特異的な発現を示す遺伝子を複数得た。その中にtransforming acidic coiled-coil (TACC)ファミリーに属するAINTを同定した。AINT (ARNT interacting protein)はAh receptor nuclear translocator protein (ARNT)に結合する分子としてクローニングされ、胎生期の神経上皮に強い発現が認められるが発生が進むに従って発現量が減少し、出生後においては著しい発現の減少が報告されている。しかしながら、神経分化における機能は不明である。  神経幹細胞は脳室周辺で細胞分裂を盛んに繰り返しているが、分化状態に移行した細胞は分化が進むに従って、脳室から軟膜層へ向かって移動する。in utero electroporation 法により胎生14.5日目のマウスの脳室にAINTを強制発現させ、2日後に解析したところ、軟膜層への細胞移動が抑制され脳室周囲に留まっていた。さらに、神経上皮細胞にレトロウィルスを用いてAINTを強制発現させるとニューロンへの分化とアストロサイト分化が抑制されていた。これらの結果はAINTが神経幹細胞の分化を抑制し、未分化状態を維持していることを示唆している。現在、胎生期の神経分化におけるAINTの詳細な機能について解析中である。


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