研究発表を行った学会;第26回日本分子生物学会年会
2003年12月10日〜13日(神戸)
タイトル;Ras/MAPK経路抑制因子Spred-2のAGM造血における機能の解析
発表者;信久 幾夫 氏
(熊本大学 発生医学研究センター 転写制御分野)
Abstract;
マウスの発生過程で成体型造血は大動脈-生殖原基-中腎(AGM)領域で最初に認められる。In vitroにおけるマウスAGM分散培養は、マウス胎生期での血管内皮様の細胞から血球分化を再現する良いモデルであるが、この培養にはサイトカイン SCF、bFGF およびIL-6サイトカインファミリーであるOSMの添加が必要である。この培養系に、MAPK経路のErk阻害剤であるU0126とp38阻害剤であるSB203538を添加するとU0126のみが濃度依存的に血球様細胞中の幼若な血球マーカーCD45を発現する浮遊細胞の輩出を阻害した。またRasおよびAktのドミナントネガティブ変異体をそれぞれ強制発現するとRasのドミナントネガティブ変異体のみにCD45陽性血球細胞の出現を阻害する結果を得た。そこでAGM造血期に発現を確認したRas/MAPK経路を負に制御する分子であるSpred-2をAGM領域の分散培養にSpred-2-IRES-GFPレトロウイルスベクターを用いてSpred-2を導入すると、対照GFPのみの導入と比べ、Spred-2を導入したものはCD45陽性血球細胞の減少が起きた。また、AGM分散培養によりストローマ細胞上で増殖能が認められるCD45(low)c-Kit(+ )細胞の輩出がSpred-2の導入により減少した。さらに、この血球分化阻害効果にはSpredのC-末端側のSprouty-related domainが重要であることが解った。293細胞を用いたSCF刺激によるErkのリン酸化はSpred-2の強制発現により阻害されたが、Spred-2のC-末端欠失体ではErkのリン酸化阻害が認められず、AGM分散培養でのCD45陽性細胞の輩出阻害に対する結果と一致した。そこで、個体レベルでの解析を行うために、まずSpred-2遺伝子ホモ欠損胎仔を用いてAGM分散培養を行うと、同腹仔の野生型AGMと比べて、胎仔あたり約3倍のCD45陽性細胞の輩出が確認された。また、AGMを直接造血コロニーアッセイすることから、同腹仔のヘテロ接合体と比べてホモ接合体では、約2倍のコロニーの形成が確認された。さらに詳細な解析を行うために、Spred-2欠損胎生10.5日胚のVE-cadherin陽性細胞をストローマ細胞上で培養すると、同腹の野生型と比べて、約2倍のcobble stone areaを含むコロニーの形成能を得た。さらに、VE-cadherin(+)陽性細胞についてコロニーアッセイを行うと、Spred-2遺伝子欠損マウスで3.6倍のコロニー形成能を認めた。Spred-2遺伝子ホモ欠損マウス成体の骨髄細胞の造血コロニー形成能および脾臓での巨核球の増加を認めた。これらの結果から、Spred-2がマウス胎生期のAGM造血を負に制御する分子であることが示唆される。
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