研究発表を行った学会;第45回日本哺乳動物卵子学会
2004年5月15日〜16日(滋賀県大津市)
タイトル;遺伝子改変雄マウスを用いた体外受精と得られた胚の凍結保存および移植成績
発表者;金子 武人 氏
(熊本大学 生命資源研究・支援センター 資源開発分野)
Abstract;
【目的】熊本大学生命資源研究・支援センター 動物資源開発研究部門(CARD)は、遺伝子改変マウスの作製、保存、供給、データベース構築に関連した技術の開発とその技術支援を目的として1998年に設置され、当研究室においては2000年より遺伝子改変マウスを中心として約800系統以上の胚および精子の凍結保存を行い、様々な研究者へ供給を行っている。そこで今回は、遺伝子改変雄マウスを用いた体外受精成績と作出された胚の凍結保存および移植成績について、現在までに得られた膨大なデータを報告する。
【方法】1.使用動物:体外受精には様々な施設から寄託を受けた遺伝子改変雄マウスと日本クレアより購入したC57BL/6J雌マウス(8-12週齢)を用いた。また、胚移植用受容雌には、ICRマウス(10-15週齢)を用いた。
2.体外受精:体外受精は豊田らの方法(1971)に従った。精子は遺伝子改変雄マウスの精巣上体尾部より採取し、HTF培養液に懸濁、1時間の前培養を行った。一方、卵子は妊馬血清性性腺刺激ホルモン(PMSG)とヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(hCG)により過排卵処理を施した成熟雌マウスの卵管膨大部より採取、HTF中に導入した。体外受精は精子前培養後、最終精子濃度が150精子/μlとなるように精子懸濁液を、卵子を含むHTF内に導入することにより行った。なお、受精の有無は、媒精後6-7時間に倒立顕微鏡下で観察を行い、2前核が認められた卵子を受精卵と判定した。
3.胚の凍結:媒精24時間後に得られた2細胞期胚の凍結保存はNakaoら(1997)の簡易ガラス化法に従った。すなわち、まず2細胞期に発生した胚を室温にて1M DMSOのドロップ(100μl)へ移し、胚を均等に小分けした(通常、1ドロップに40個)。さらに新しい1M DMSOのドロップへ移し、5μlの1M DMSO溶液と共に胚をチューブへ移し、あらかじめ0℃にしておいた冷却装置(CHILL HEAT:CHT-100 IWAKI)に移した。5分後、0℃に冷やしておいた凍結保存液DAP213(2M dimethylsulphoxide,1M acetamide,3M propylene glycol in PB1)を45μl添加し、さらに5分後、チューブをケーンに装着し、直ちに液体窒素中に浸漬した。凍結胚の融解は、チューブを液体窒素保管器から取出し、速やかに中の液体窒素を捨て、室温で約30秒放置した。次にあらかじめ37℃に加温しておいた0.9 mlの0.25 M sucrose溶液をチューブ内に添加し、完全に保存液が溶けるまで素早くピペッティングし、内容液をシャーレに移し、さらに0.4-0.5 mlの0.25 M sucrose溶液でチューブ内を共洗いし、胚を回収した。回収した胚はmWM培養液(100μl)で洗浄し、胚の形態的な観察を行った。
4.胚移植:移植には偽妊娠第1日目の受容雌を用い、新鮮胚あるは凍結胚を融解後、直ちに受容雌の卵管に移植、アイソレータ内で飼育した。胚移植は、経卵管壁卵管内移植法により行った。まず、ペントバルビタールナトリウムにて麻酔をした受容雌の側面中央の毛を刈り、腹壁を切開した後、卵巣・卵管・子宮を体外に露出させ、卵巣に付着した脂肪をクレンメで固定した。次に卵管采と膨大部を確認後、その間の卵管壁をカットし、卵管壁を細胞用マイクロピンセットで固定を行い、その開口部から胚を含むキャピラリーを膨大部側の卵管内に挿入し移植した。なお、移植胚数は受容雌1匹あたり18-20個とした。
【結果】
1.体外受精:計363系統の遺伝子改変マウス雄を用いて体外受精を行った結果、その受精率は平均66.4%(159,133/239,522)であった。
2.融解成績:凍結した胚のうち、23,023個を融解し、21,431個を回収、その82%(17,524個)が形態的に正常であった。
3.移植成績:新鮮胚9,342個を移植したところ、その33.8%に当たる3,156個が、産子へ発生した。一方、凍結胚における産子への発生率は、30.6%(4,873/15,903)と、新鮮胚と同様の値であった。
以上の結果より、遺伝子改変雄マウスから採取した精子を用いた体外受精成績は比較的良好であり、得られた胚の凍結保存および移植成績もほぼ安定していることが知られた。
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