研究発表を行った学会;第27回日本分子生物学会年会
2004年12月 8日〜12月11日(神戸)
タイトル;成体網膜幹細胞に対するWntシグナルの増殖促進作用
発表者;井上 俊洋 氏
(熊本大学 発生医学研究センター 転写制御分野)
Abstract;
〔目的〕成体毛様体に存在する網膜幹細胞は自己移植可能という点で再生医療において有望であるが、その細胞数は非常に限られている。本研究はWntシグナルが成体網膜幹細胞の増殖を促進することで再生医療において有効な手段となりうるかどうかを調べた。
〔方法〕8週齢マウスの毛様体細胞を単離して5日間浮遊培養し、細胞集塊を形成させた。培地への添加物として、Wnt3a、glycogen synthase kinase(GSK)-3阻害剤SB216763、fibroblast growth factor(FGF)-2、FGFレセプター阻害剤SU5402をそれぞれ用いた。増殖効果は1次細胞集塊の大きさ、単層培養におけるKi-67陽性細胞数、2次細胞集塊の数で判定した。
〔結果〕Wnt3a添加によって、1次細胞集塊の直径の増大とKi-67陽性の分裂細胞数の増加がみとめられた。また、Wnt3aを含む培地で形成された1次細胞集塊はコントロールと比較して約4倍の数の2次細胞集塊を形成したことから、自己複製の促進が示唆された。細胞集塊細胞を分化条件下で培養すると各種網膜マーカーの発現が誘導され、多分化能を維持していることがわかった。これらのことから細胞集塊形成細胞はWnt3a添加後も幹細胞としての性質を維持しながら増殖していると考えられた。またWnt3a添加によるβ-cateninの核への凝集、GSK3阻害剤によるWnt3aと同様の増殖反応がみとめられ、canonical Wnt pathwayの活性化が細胞増殖を促進していると考えられた。GSK3阻害剤によってKi-67陽性細胞数はコントロールの3.7倍に増加したが、FGFレセプター阻害剤を同時に添加することによって1.5倍に減少した。一方GSK阻害剤とFGF2を同時に添加することによってKi-67陽性細胞数は6.3倍に増加した。
〔結論〕Wnt3aやGSK3阻害剤によるWntシグナルの活性化は成体毛様体由来の網膜幹細胞の増殖を促進した。この効果の一部はFGFシグナルに依存していた。WntシグナルとFGFシグナルを同時に活性化すると成体網膜幹細胞の増殖能が著しく増大したことから、再生医療において有効な手段になりうると考えられる。
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