研究発表を行った学会;第27回日本分子生物学会年会
2004年12月 8日〜12月11日(神戸)
タイトル;細胞外来性因子による神経幹細胞増殖促進と分化抑制機構の解析
発表者;清水 健史 氏
(熊本大学 発生医学研究センター 転写制御分野)
Abstract;
FGF2は神経幹細胞の増殖を促進し、同時に未分化状態を維持する作用が知られているが、その分子機序は未だ明らかになっていない。またWntファミリーも神経幹細胞の増殖を促進することが最近報告されて、FGF2シグナルとの関連は大変興味深い問題である。我々が神経幹細胞の研究に用いているマウス神経上皮細胞の培養系にFGF2とWnt3aをそれぞれ単独で添加すると、神経上皮細胞の増殖が促進された。しかしFGF2とWnt3aを同時に添加しても神経上皮細胞に対する増殖促進作用に相乗性は見られなかったことから、FGF2とWnt3aにはシグナルの共通性があると考えられた。Wnt/b-catenin経路の下流因子glycogen synthase kinase 3b (gsk3b)は、FGF2の下流で活性化されることが知られているAktの基質であることが報告されているため、Aktを介してgsk3bの活性が調節される機構を想定した。
我々は、神経上皮細胞にFGF2を添加するとPI3 kinase (PI3K) - Akt経路を介してgsk3b の活性が抑制され、その下流の細胞周期制御因子であるcyclin D1の発現が促進されることをRT-PCRとウエスタンブロットによって明らかにした。またドミナントアクティブgsk3bの遺伝子導入やPI3K阻害剤の添加によってFGF2による神経上皮細胞の増殖が抑制されることが分かった。一方、様々な細胞種で分化を抑制することが知られているNotchシグナルに関して、神経上皮細胞においてFGF2添加時にPI3K - Akt - gsk3b経路を介してNotch細胞内シグナルの修飾がおこり、下流で働く分化抑制因子Hes-1の転写が促進されることをHes-1リポーターアッセイにより明らかにした。これらの結果から中枢神経の増殖や分化にはFGF2やWntおよびNotchからの各シグナルがgsk3bを仲介として相互作用しながら関わっていると考えられる。またFGF2やWntシグナルがgsk3bの不活化を介してcyclin D1の発現促進による神経幹細胞の増殖とNotchによる未分化状態の維持の両方に作用し、増殖と分化のスイッチングを同時に制御していると考察された。
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