研究発表を行った学会;第52回日本ウイルス学会学術集会・総会
2004年11月21日〜11月23日(横浜)
タイトル;HTLV-I感染性分子クローンにおけるTax 遺伝子のスプライシング
発表者;大杉 剛生 氏
(熊本大学 生命資源研究・支援センター 病態遺伝分野)
Abstract;
我々が作製したHTLV-I(ヒトT細胞白血病ウイルス)感染性分子クローン中に、ウイルス発現の低いクローンが観察され、このクローンではウイルス発現に重要な役割を果たすTaxの発現がほとんどみられない。Taxタンパクをコードするtax遺伝子は、2回のスプライシングによりenv遺伝子発現に用いられる開始コドンAUG(exon2)とpX領域(exon3)が融合、発現する。もしこのスプライシングに異常があればtax遺伝子低発現の原因となる。この感染性分子クローンのウイルス低発現の原因として、tax遺伝子スプライシングの異常が関与しているか検討した。exon2と3のスプライシング領域をはさむPCRによって野生型クローンは195bpの1本のバンドを示したが、低発現クローンおよびそのクローンより作製したウイルス粒子では2本のバンドが得られ、270bpのバンドの方がおおよそ5倍発現が高かった。195bpと270bpの塩基配列を比較したところ、270bpの産物はexon2と3のイントロン 3'側のAG直前のATC配列がACCと7298番のTがCに変異しており、通常のGT-AG則で使われるAGの75bp前のAGが使用されていた。この1塩基変異がスプライシング異常を引き起こすか、低発現クローンの7298番のCのみTに置換したクローンで検討したところ、正常のスプライシングが行われ、ウイルス発現も回復した。スプライシング異常によって産生されると予想される75bp長いtax遺伝子を発現するプラスミドを構築し、野生型クローンとco-transfectionするとウイルス発現は抑制され、さらにHTLV-I感染細胞株にtransfectionするとウイルス発現を抑制した。以上の成績から、GT-AG則のAGの2塩基上流の7298番のTがCに変異することにより、スプライシングに異常が生じ、N末端に25aa付加したTaxが発現、これがウイルス低発現の原因であると考えられた。現在、このスプライシング異常のHTLV-I感染症での意義、抗ウイルス活性について検討中である。
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